第45話
――十日後。
魔王城、王の間。
そこにルルはいた。
しかし魔王ルル・ビダルの姿は玉座にはない。仲間たちと共に玉座に対峙し、立ち尽くしていた。
何故なら玉座には既に魔王がいた。ルルではないもう一人の魔王。
玉座には金の瞳と髪を持ったベネディクト・ビダルの姿があった。
『お父さんが魔王なの?』
「そうだ。会話は皆がわかるよう、人間の言葉でかまわない。私も神により人間の言葉を解する力も与えられている」
ルルの問にベネディクトは人間の言葉で答えた。
「どうして人間の町に攻撃を仕掛けたりしたのよ。ルルの攻撃を仕掛けないでって書置きを見たでしょう? 私たちが巻き込まれる可能性だってあった。それなのにどうして? お父さんの所為で余計な血が流れた」
ルルではなく、レーネが叫んだ。
「その必要があったからだ。私は神によって魔王に選ばれた。勇者を探し出して討たなければならない。ルル、お前がそれをなさぬから、私がなすのだ」
「そんな必要はない。人間と戦う必要なんてなかった。人間は私たちと何も変わらない。話せば、少し心を開けば簡単に分かり合える」
ルルは真っ直ぐにベネディクトを見据えて言う。
「例えそうだったとしても、戦わなければならない。世界が神がそれを望んでいる」
「神なんて関係ない。これは私たちと人間の問題よ」
「そうか……では、ルル。いいことを教えてやろう。お前と共にある人間たち、その多くを私は目にしたことがある。そう……五年前の戦いだ。私は彼らと戦った。私は彼らに敗れたのだ。そしてそこの不思議な武器を使う男だ」
そう言いながらベネディクトはマクシムを指差した。
「彼がお前の母親を殺した」
「…………」
皆の視線がマクシムに集中する。
「私の妻は私を守って、その男に殺されたのだ。それでも戦う必要はないと、お前たちはそう言うのか?」
ベネディクトはそう言って、ルルとレーネを交互に見据えた。
「そうね。戦う必要はない。だって当然の報いだもの。人間たちはただ幸せに暮らしていただけなのに、魔族が攻撃を仕掛けた。彼らは守るために戦った。それは当然のことでしょう。私たちは殺されて当然のことをした。先に殺したのは私たち。それにマクシムさんだってその戦場で父親を失っている。だから……」
そこまで言って、ルルはマクシムの方を向く。そして頭を下げて言葉を続けた。
「ごめんなさい。私たちのせいであなたの大切な人が失われた」
「そんな……ルルが謝る必要なんてない。仕方なかったんだ。みんな知らなかったから……俺だって多くの魔族を殺した。俺がルルの母親を殺していたなんて……」
「はっはっはっ……」
ベネディクトはルルたちのやり取りを見て笑う。
「そうか……お前たちはそれでいいのかもしれない。だが、私はその男が許せんのだ。私の愛する妻を殺したのだ。許せるわけがない。話し合いなどできるわけがない。そこで提案だ。その男を殺せ。そうすれば話し合ってやらんでもない」
「そんなことできるわけがない」
ルルが叫ぶ。
「では……話し合いはできん。戦いになる。そしてこの戦いは私とお前たちだけの戦いではない。お前たちと魔族との戦いだ。魔族はすでに知っている。私の前に魔王に選ばれたものが人間と手を組んでいることを、そして神がそれを望んではいないことをな。だから話し合いを望むのなら私を説得するしかない。それにはその男の死が必要だ。さぁ、どうする?」
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