第41話


「おぉぉぉーーー!」

 レミの叫びが教会の中に響いていた。

 しかし、その声はルルには届かない。

 考える。考える。考える。ルルはひたすらに考える。

 脳をフル回転させて、一つ一つの事象を繋ぎ合わせて解を導き出す。

 今、目の前にある事象……

 ルルの前にはジアがある。ジアは血だらけだ。体中が切り刻まれている。関節もあり得ない方向に曲がっている。

 そして……その胸にはジアの神剣が突き立てられている。

 その全ての事象を全て繋ぎ合わせても、ルルには解が導き出せない。

「殺してやる。殺してやる。殺してやる。私はお前を許さない!」

 レミの声が聞こえた。

 ルルはレミを見る。

 レミと知らない人が戦っている。

 どんなときでもほとんど表情を変えないレミが泣き叫びながら戦っていた。

 その口から紡がれるのは憎悪の言葉のみ。

 ルルでさえ目で追うのがやっとのレミの連撃。明らかに戦況はレミが圧倒していた。

 もう一度ルルはジアへと視線を向ける。

 涙が溢れた。

 答えがわかった。わかってしまった。

 もう……ジアは笑わない。

 もう……ジアの声を聞くことはできない。

 もうジアは……

 結局与えられるばかりだった。

 ルルはジアから多くのものを貰った。ジアのおかげで今の自分が在った。

 それなのに……与えられるばかりで、何一つ返せなかった。

 そして今……返す機会は永遠に失われてしまった。

 ルルは考える。考えなければならない。

 今から自分が行うべき行動を。

 どうするべきか……どう在るべきか……何をなさねばならぬのか。

 魔王として、ルルとして、ジアの望んだこと、レミの望むこと、自分の望むこと、リカルドの望むこと、魔族のために、人間のために……今、ルルがなさねばならぬこと。

「レミ!」

 ルルは叫ぶ。

「止めなさい。復讐は何も生まない」

 その言葉にレミは攻撃を止めた。

 そしてルルは目の前の男、ジアの親友で勇者で……ジアの命を奪った男、リカルドに向けて言葉を紡ぐ。

「私は人間に母を殺されました。今、私の大切な人の命が奪われました。でも……私はあなたを許します。きっとそれをジアが望んでいるから、私、魔王ルル・ビダルはあなたを許します。だから、もう止めにしましょう」

「どうして? なんでそんなこと言うの? 嫌、嫌、絶対に嫌。私は許さない」

 レミは大粒の涙をこぼしながら叫ぶ。

「そんなことを言うと、ジアが悲しむわ」

「ジアはもう死んだ。もう悲しまないし、喜んでもくれない。ジアはもういない。例え何を望んでいても、もうどうでもいい。死んでいるジアを幸せになんて私にはできない。だから私は私のしたいようにする。ジアを殺したリカルドを殺す」

「大丈夫だ、レミ。俺も魔族と話し合うつもりなどない。お前の望み通り殺し合いをしよう」

「それがあなたの答えですか?」

 ルルはリカルドに問う。

「ああ。俺はお前たちを殺し、魔族を滅ぼす。俺は俺の復讐をなす」

 その答えをルルは受け止めた。

 残念ではない。むしろうれしかった。

 だってほら……話し合いで解決できなかったのだから仕方ない。もう殺すしかない。

 これでルルの復讐は正当化された。リカルドを殺すことが許された。

 ジアの命を奪った目の前の男に報いを与えることが許されたのだ。

「では、私はあなたを止めなければなりません。レミ、私も一緒に戦うわ」

 そして戦いは始まった。

 それは世界の命運を賭けた聖戦ではない。互いの憎しみに彩られた復讐の私闘。


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