第39話


 教会はもう目の前だった。

 日の昇る前、まだ薄暗いからだろうか、昨日目にしたときより倒壊が進んでいるようにレミには見えた。

 扉を潜ればそこにリカルドがいる。

 戦うことになる。殺し合うことになる。

 レミは目を瞑って心を落ち着かせる。

 孤児院にいた三年間、レミは可能な限りジアのそばにいた。だからジアの親友であるリカルドとも必然的に行動を共にすることが多かった。

 レミが良く覚えているのは戦いの練習。ジアとリカルドは孤児院にレオナルドがやってくるといつも剣の練習をしていた。そのときレミもレオナルドから体術を教わった。それが今のレミの戦術の基盤となっている。

 その力で今からレミはリカルドと戦う。レオナルドには少し申し訳ない気もするが仕方がない。

 レミは目を開けて、教会に足を踏み入れる。

 おかしい……教会に入ってすぐに違和感がレミを襲った。

 レミは昨日も教会の中に入っている。

 元々ボロボロだったが、ここまで酷くはなかった気がした。

 昨日から壁は崩れ、天井には穴が開き、柱にはひびがあった。長椅子も傷ついてはいたが、それは災害の後といった雰囲気のものだった。

 だが今は……壁や柱に斬撃の跡、長椅子も真っ二つになったものがある。明らかにそれは戦闘の形跡だった。

「誰だ?」

 奥の方からリカルドの声がした。

「レミ」

 レミは答える。

「何をしにきた?」

「あなたを殺しにきた」

「ふっ、勇者の俺を、ただの魔力持ちのお前が殺せるのか?」

「大丈夫です。もう一人、魔王もここにいますから」

 ルルが言う。

「ほぉぅ…………」

 リカルドから殺気が溢れる。

「それは手間が省けたな。何だ……俺はてっきりこいつを回収にきたんだと思ったんだが、違うのか」

 そう言ってリカルドは大きな何かをレミのほうに投げてよこした。

 教会の中は薄暗くてソレが何であるかは確認できない。

 重く鈍い音を上げてソレはレミの少し手前に落ちた。

 レミとルルはソレに近寄る。

「っ――――――!」

 頭が真っ白になる。

 思考が止まる。考えることを頭が拒絶する。

 ソレは絶望ですらない。

 ソレはレミにとって終りだった。

 全ての終焉。

 夢、希望、幸せ、重ねた努力……そんな正のものだけでなく、悲しみ、嫉妬、怒りといった負のもの……そして絶望すらもレミは失った。

 レミは今、心を失った。

 ただ……唯一残されたのが目の前の敵に対する激しい憎悪。

 その憎悪を糧にレミは駆ける。

「うあぁぁぁぁあーーー!」

 そして……この復讐がなされたのなら、そのときこそレミの心は完全に失われる。

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