第34話


 ……絶望だった。

 今、ミカエルが目にしているのは絶望そのものだった。

 勇者の誕生。それは人類にとっての希望であるはずだった……しかし今、目の前で見る勇者の誕生には救いも希望もない。

 それはただの絶望だった。

 その絶望の中――勇者は笑っていた。

 心底うれしそうに、狂ったように笑っていた。

「リカルド……」

 ミカエルは勇者に話しかける。

 笑い声が止まり、勇者はミカエルの方に顔を向けた。真っ赤な目からは涙が溢れている。

「勇者に選ばれました。きっと兄さんの代わりです。兄さんの代わりに俺が選ばれました。だから……俺は魔王を殺します。兄の望んだように魔族を滅ぼします。その邪魔をするのなら神の望むように勇者も殺します」

 そして……勇者は勇者を殺すと言った。


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