第31話


 リカルドは戦場に向かっていた。

 長年求めてきた魔族と戦う力、聖剣はいまだこの手の中にはない。

 それでも目の前に魔族が迫っているというのに逃げることなんてできなかった。

 優劣など関係はない。相手がどんな強大でも負けるとわかっていても……戦うことはできるのだ。

 だから……走った。少しでも早くほんの一瞬でも早く、魔族へとこの怒りを、憎しみを悲しみをぶつけるために。

 この五年をそのために生き、費やしてきたのだから……

 無人の街を駆け、西区に入ると町が破壊されていた。

 リカルドが生まれるよりずっと以前からある町。多くの人たちの想いの詰まった町が破壊されていた。

 その中には誰かが必死に働いて建てた家だってあっただろう。その中には誰かが生まれ育ち死んでいった家だってあっただろう。その中には誰かが運命の人と出会った、思い出の場所だってあっただろう。

 それなのに……

 町のみんなの帰るべき場所が、思い出の場所が奪われていた。

 魔族たちの悪意によって……

 怒りが込み上げる。悲しみが心を満たす。

「許さない。俺は絶対に許さない」

 そうつぶやいて、リカルドは強く手の中にある魔剣を握り締めた。


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