第25話


 クロエは二人の戦いを見守っていた。

 戦いは膠着状態が続いている。

 どちらかというと押しているのはルル。手数は圧倒的にルルの方が多いのだが、それでもレミの防御を破るには及ばない。

 レミも時折隙を突いて聖剣の能力を利用した攻撃を仕掛けるが、ことごとくルルに防がれている。

 そう簡単に決着がつくことはなさそうなので、クロエはジアたちの方に視線を向けた。

 三人とも真剣に二人の戦いを見守っている。

 だがその体勢は先ほどとあまり変わっていない。ジアはうつ伏せに寝転がっていて、その上にマクシムが胡坐をかいて座っている。アルベルトはその横で普通に座っていた。

 クロエは立ち上がる。そして三人のところに行って、ジアの横に座った。

 そしてジアの猿ぐつわを外しながら話しかける。

「説明してもらえる?」

「ぇと……ルルと一緒にじゃ、駄目ですか?」

 ジアは抑え付けられたままの体勢で、顔だけをクロエの方に向けて答えた。

「わかった。それで構わない。でも一つだけ教えて」

「なんでしょう?」

「ジアとルルは私たちの敵?」

「違います」

「そう……じゃあ、詳しくはこの喧嘩が終わってからでいいわ」

 そう言って、クロエは二人の戦いに視線を戻した。

「クロエ。ちょっといいか?」

「何?」

「少し場所を変えよう」

「ええ」

 アルベルトに促されクロエはジアたちから少しだけ距離を取る。

「わかった気がする」

「何が?」

 レミとルルの戦いを見守りながらクロエは問う。

「本当にヤバイのはルルじゃない。ジアのほうだ」

「どういうこと?」

「初めから違和感があったんだ。クロエにはあの二人がいつも喧嘩をしている理由がわかるか?」

 そう言ってアルベルトは視線をレミたちの方に向ける。

「ジアを取り合っているんでしょ?」

「まぁ、簡単に言えばそうだな。でも正確に言えば、二人はジアを幸せにする権利を奪い合っているんだ」

「それは決して特別なことじゃない。好きな人に幸せになってほしいなんて誰もが願うこと」

「確かに。でもあいつは特別だ。誰しもが願うようになる。あいつを幸せにしたいと。そしてあいつはきっと全ての人の幸せのために尽力する。クロエも気がつかなかったか? あいつはとても簡単に内側に入り込んでくるって」

「ええ。それには心当たりがある」

「たぶんあいつにとって自身と他人との境界はとても曖昧なんだ。あいつは自分のことのように他人の幸せを願い、他人の幸せを自分のことのように喜べる。そして驚くことに、それは決して一方通行じゃない。誰もがあいつの幸せを願い、自分の喜びのように感じることができる。それはきっと恐ろしく強大な力で、魔王がここにいる説明にもなるはずだ」

「ジアたちが来て、たった一週間。どうしてあなたに、そこまでわかるの?」

「まぁ、俺の趣味は人間観察だからな」

「そう……」

 いつもアルベルトは物事を大袈裟に話す。イージス内では彼の話は話半分で聞くのが常識だ。

 だからクロエは適当に相槌を打ち、引き続き二人の戦いに意識を集中することにした。


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