第20話


 この世に生を受けたとき、すでに運命はどれだけ定められているのだろう……

 誰かが言った。「運命などは存在しない。人は神により与えられた無限の選択肢から自身で選択することによってのみ未来へと進んでいく」と……

 しかし、それでも運命は存在する。そう確信する。

 自身に選択の余地すら与えられない絶対的な運命。

 それが偶然による産物なのか神の意思によるものなのかはわからない。

 それでもそれは確かに存在した。

 人は生まれることを拒めない。生まれる時を場所を親を選択することはできない。

 それなのに選択の余地すらなく無理やり与えられたその運命に人生の多くは委ねられてしまう。

 レミもまた生まれたその瞬間に、無限にあると言われた選択肢の多くを奪われた。

 レミが生まれたのは町と町とを繋ぐ街道がいくつも交差するとても大きな商業都市。裕福な商人の家で生を受けた。

 そんな恵まれた環境にあってもレミは幸せに育つことは許されなかった。なぜなら青い髪と瞳を持った魔力持ちだったから。

 それに両親の仲も悪く、喧嘩が耐えることはなかった。

 両親は世間体を気にしてレミが家の外に出ることを許さなかったので、レミはいつも部屋の隅で息を殺して心を閉じていた。

 そして七歳のとき、親の離婚を期にレミは孤児院へと送られた。親に捨てられたのだ。

 孤児院では魔力持ちを理由に虐めや暴力を振るわれた。

 誰も、孤児院の職員たちも助けてはくれなかった。

 だから暴力から身を守るためにレミは自然と魔力による身体能力強化や治癒ができるようになっていった。

 その後、いくつかの孤児院を転々として、十二歳のときにジアのいる孤児院へと辿り着いた。

 そこでも案の定、虐めを受けた。

 自分は魔力持ちなのだからしかたがない……レミはそう思っていた。

 この頃にはもう、レミは虐めを受けても暴力を受けても何も感じなかった。それは当たり前のことで、繰り返される日常の一部であったから……すでにそれはレミにとって不幸ですらなくなっていた。

 しかし……そこにジアが現れた。ジアはレミを助けてくれた。

 でもジアはあまり強くはなかったからレミの変わりに殴られた。

 それなのにジアは笑顔で手を差し伸べてくれた。

 そして「友達になろう」と言ってくれた。

 青い髪も瞳も空の色で綺麗だと言ってくれた。

 殴られたジアの傷を癒すために使った魔法もすごいと言って喜んでくれた。

 ジアはレミに笑顔を向けてくれた。

 ジアはレミに初めて幸せをくれた。

 いつも世界はとても冷たかったのに、ジアの隣にいるだけですごく温かかった。

 レミはやっと見つけた。自分の居場所を。この十二年間の意味を。

 絶望しかない十二年間だった。世界には敵しかいなかった。幸せなど感じたこともなかった。それでも意味はあった。

 生きてきてよかった。初めてそう思った。

 十二年間の絶望の果てにジアに出会えたのだから……本当によかった。

 しかしその幸せな時も長くは続かなかった。

 レミが十五歳の時、魔族が町に襲ってきた。孤児院も襲われた。

 孤児院のみんなはすぐに避難をしたが、ジアとリカルドはその中にいなかった。レミはその理由を知っている。二人は探検に行った。レミも行きたかったが連れて行ってもらえなかった。

 だから二人はきっとまだ、孤児院の中にいる。

 レミはそのことをリカルドの兄のレオナルドに言って、助けを求めた。

 レオナルドはレミ、ジア、リカルドの三人の師匠。レミには体術を、そしてジアとリカルドには剣術を教えてくれる。とても強いからきっと二人を……ジアを助けてくれる。

 しかし……その後、ジアたちがどうなったかをレミは知ることができなかった。

 だからレミは強くなりたいと思った。

 ジアを自分で守れるくらい強くなりたいと思った。

 ジアと再会できたとき、ずっと隣にいることができるように強くなりたいと思った。

 そして今……レミは力を手にしていた。ジアとも再会できた。

 だから隣にいたかった。ずっとずっと離れることなくジアの隣にいたい。

 そしてジアがレミに与えてくれた幸せに見合うだけの幸せをジアにも与えたい。

 その方法をレミは夜の川原で膝を抱えて座りながら考えていた。


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