第21話


 ――深夜。

 いつまでたってもテントに戻ってこないレミをエリナは探していた。

「何してんの? こんなところで」

 レミは川原で体育座りをしていた。

 エリナがそう話しかけるとレミはそのままの体勢でこちらを見上げるが、返事は返ってこない。

「また、ジアのことを考えてるの?」

 レミは頷く。

「で? どんなことを考えてたの?」

「もっと……ずっと一緒にいたい。後、どうやったら喜んでくれるかとか」

 聞き取るのも難しいくらい小さな声でそう言った。

「ジアを喜ばせたいのね。じゃあ同じ男のマクシムにどんなことしたらうれしいのかを聞いてみることにしよう。ちょっと、待っててね。今、連れてくるから。なんかあいつジアともちょっと仲良くなったみたいだし、ちょうどいいよ」

 そして数分後。

「ちょっ、なんだよ姉ちゃん、急に……もう、寝てたのに」

「いいから来なさい。あんたは私の所有物なんだから言うことを聞いていればいいの。ほら、レミ。マクシム連れてきたよ」

「あっ、レミ。こんばんは」

 マクシムの挨拶に、レミは頷いて返事をする。

「で? なんなの姉ちゃん。こんな夜中に」

「ほら、マクシムは気が小さいとはいえ、一応は男でしょ。レミの相談に乗ってあげてよ」

「相談?」

「レミが愛しのジアを喜ばせてあげたいんだって」

 エリナの言葉にレミは二度頷く。

「あー、そういうことか。そういえばジアなんだけどさ、レミから聞いていた通り本当にいい奴だよね」

 マクシムのその言葉に急にレミが立ち上がる。そして腰の皮袋から何かを取り出すとマクシムに手渡した。

「えっ? 何これ? アメじゃん。くれるの?」

 レミは頷く。

 エリナにはいまひとつ意味がわからないが、マクシムはレミからアメを貰ったらしい。

 アメはお菓子の一種だがそこそこ高価な品だ。レミの好物で、いつも携帯している。

 レミ自身から聞いた話によると、ジアから始めて貰ったプレゼントでそれ以来、大好物になったらしい。

 そんな大事なアメをレミが人にあげているところをエリナは今まで見たことがなかった。

「あー、それで話は戻るんだけど。ジアはさ、めっちゃいい奴じゃん……」

 マクシムがそこまで言うと、またレミからアメが贈呈される。

「えっ? またくれるの? ありがとう」

 エリナはからくりに気がついた。

「ジアは優しくて、かっこいい」

 エリナがそう言うと、やっぱりレミはアメをくれた。

 レミは笑顔とまではいかないものの、得意げでうれしそうな顔をしていた。

 どうやら、ジアを賞賛するコメントするとアメが貰える仕組みらしい。

「とにかく、ジアの性格を考えると、レミがジアのためにしたんなら何だって喜んでくれると思うんだよね」

「あー、確かにそんな感じね。じゃあ、やっぱり一番の障害はルルね。レミがジアに何かしようとするとすぐ邪魔に来るし。すでにジアを尻に敷いてる感じだけど、結局あの二人は恋人同士なの?」

「それは違うって言ってたよ。俺が二人は恋人同士なのって聞いたら、ジア自身が違うって言ってたし、一緒にいたルルも何で私がジアの恋人にならなきゃなんないのよって怒鳴ってた」

「そうなんだ……でも、あれね。ルルのその反応はツンデレの可能性もあるわね」

「うん。それは否定できないね」

「まぁ、でもジアは押しに弱そうな感じだから、デートにでも誘って、こっちから迫っちゃえばいいのよ」

「そうすれば、ジアは喜んでくれる?」

 無表情なまま瞳だけを輝かせてレミはエリナを見上げてくる。

「ええ。間違いない」

 エリナは力強く断言した。

「じゃあ、そうする」

 そう言ってレミは両手をギュッと握り締める。

 そんなレミの頭を優しく撫でながら、エリナは言う。

「大丈夫よ。レミには私にマクシム、それにクロエにトマ、アルベルトだって付いてるんだから。絶対にうまくいかせてあげる。そう、絶対によ」


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