第19話
ルルには自分でもわからなかった。
この二日間のイライラの理由。そして今……どうして急に料理を覚えるつもりになんてなったのか。
ルルが自分で思い当たる理由は一つだけ。
ルルはルル・ビダルであったから。
ビダル家は多くの銀の魔族を輩出している名家。
多くの魔族たちがビダルの名に敬意を抱いている。
そんな家柄にありながら、ルルの魔力は弱かった。
だからビダルの名に恥じぬよう、魔力以外の方法で自分を磨いてきた。
多くの知識を得た。困っている人がいれば助けた。容姿を磨き、誰にでも尊敬を持って平等に接した。真面目にやるべきことをこなし、責任を持って最後までやり遂げた。
それこそがルル・ビダルだった。
きっとそれが理由。
ジアが片腕を失ったのはルルの責任だった。
だからジアの世話はルルがしなければならないし、そうすると決意もした。
自分の失敗は自分で償うべきだ。
人任せにするわけにはいかない。
それなのにレミはジアの世話を焼こうとする。
それはルルの仕事を、失敗を償うチャンスを奪う行為。
だからイライラするに違いない。
『刃物を使っているときの考え事は危ないぞ』
バティの言葉にルルは我に返った。
そして手の中にある皮むき中のジャガイモを見る。
それはもう……驚くほどに小さくなってしまっていた。
それも仕方がないと思う。
料理も皮むきもルルは初めてだ。それでも負けるわけにはいかない。
生まれ持った才能こそが全ての魔力と違って、料理は努力による向上の余地はいくらでもある。
ルルは今日食べたレミのカレーを思い出す。
かなりおいしかった。ビダル家のお嬢様としてそれなりにいい料理を食べてきたルルでさえ驚くほどの出来だった。
ルルはそれを超えるカレーを作らなければならない。
それにはただバティのレシピ通りに作っても超えることは難しいだろう。
だから何か特別なオリジナリティーが必要となる。
その案を考えながら、ルルは次のジャガイモをむき始めた。
そして――約一時間後。
カレーはほとんど完成していた。
後は煮込みながら灰汁を抜いてスパイスを加えるだけなのでルルはバティに言って、一人で任せてもらった。
灰汁を取りながらルルは考える。
初心者かつ頭の固いルルには突飛な発想は難しい。だからなすべきことはカレーの良さを引き立たせること。
ルルの思いつくカレーの良さは辛いところと味がおいしいところ。それを支えているはスパイス。
だったら話は簡単だった。
スパイスを増やせばいい。
そう考えたルルはスパイスを追加する。よくかき混ぜて味見。
確かに辛さは増した気がするがおいしさは増していなかった。むしろ濃くなりすぎておいしさは減った気がする。
「ふふふ……普通の料理初心者はここで砂糖を入れて失敗するのでしょう。でも私はそこまで愚かではないわ」
そう言ってルルは水を足す。それでまた味見。
「今度は少し薄いかも……まぁ、またスパイスを足せば問題ないはず」
そんなこんなで――次の日の朝。
「それでこんなにしゃわしゃわで、具の少ないカレーが大量にできたわけね」
レーネがカレーのルーをすくったり戻したりを繰り返しながら言う。
「だって……なかなかちょうどいい感じになってくれなかったから……」
「でも僕は結構好きかも。スープみたいでおいしいよ」
「そう? じゃあ、よかった」
そうやってジアが笑顔で言ってくれるから、ルルもまた笑顔を浮かべることができた。
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