第17話
「じゃあ、まずは僕から。一応勇者のジア・ラメロウ、十八歳です。よろしくお願いします」
言って、ジアは頭を下げる。
ジアとルルがイージスに会いに行った次の日、二人とイージスのメンバーは昨日できなかった互いの自己紹介をしていた。
「私はルル・ビダル。魔力持ちで属性は火です。年齢は二十五歳」
「えっ?」
「ええっ?」
「二十五? 十五じゃなくて?」
ルルの年齢に疑問の声が多数上がる。でも二人には想定の範囲内の出来事。昨日の内にリハーサルをして対策は練ってある。
ジア的には年齢のほうを見た目に合わせることを提案したのだが、ルルはそれを頑なに拒否した。
理由はジアより年下扱いされるのが嫌だからとのこと。
だから……
「魔力持ちは歳をとるのがゆっくりになることがあるみたいなんです。私はそれみたいです」
本当にそういうこともあるようなので、結局そういうことでまとまったのだった。
「そうね。私はクロエ。クロエ・ディアーナ。魔力持ちでイージスのリーダー。属性は雷。私もこう見えて、三十六歳よ」
イージスのリーダー、クロエ。ジアも彼女のことは耳にしたことがあった。銀の髪と瞳を持った人間。
確かにジアにはクロエが三十代には見えなかった。二十代後半くらいに見えるとても綺麗な女性。レーネの艶やかな大人の色気とは違い、大人ならではのかっこよさのようなものがある。
「私はトマ・クリアレッラ。見ての通りの五十一歳だ。武具はこの剣が普通の聖剣。この盾が聖剣イージス。親友の忘れ形見だ」
とても優しそうに笑うヒゲのおじさん。背が高くて筋肉隆々。
「私はエリナ・ジャス。二十四ね。で、武器はこれ」
そう言って腰の辺りから取り出したのは不思議な物体が二つ。両手に一つずつ持って空に向ける。
「ばーん」
エリナのその言葉と共に空に向けて、魔法のような光線が出た。
「古代兵器ってやつね。それでこれが弟のマクシム」
言いながら、隣にいたマクシムの頭を古代兵器でたたく。
「いてっ。あ、マクシム・ジャスです。年齢は二十二。俺の武器も古代兵器で原理は姉さんのと一緒だけど、射程と威力は俺のやつのが上。でも連射ができないんだ」
その武器はエリナのものよりずっと大きくて長い。
「俺はアルベルト・カセルタ。二十七歳だ。武器は聖剣が二つ。ルルちゃん、俺があんまりかっこいいからって惚れられても困るぜ。俺はクロエ一筋だからな」
「大丈夫です。絶対にそんなことにはならないので」
グロテスクな虫でも見るような目でアルベルトを見据えながらルルは言う。
「クロエさんとアルベルトさんは恋人同士なんですか?」
「いい質問だ、ジア。俺は目下片思い中。でもジアのお陰でとりあえずデートの約束は取り付けた。感謝してるぞっと……そんなことを言っている場合じゃなかったな。次は真打、うちのお姫様の登場だ。ほら、レミの番だぞ」
「レミ、頑張って」
そう言って、エリナはレミの肩を押す。
「レミ……レミ・リウ。二十歳」
つぶやくような小さな声でそう言うと、レミは真っ直ぐにジアを見つめる。
「久しぶりだね、レミ。まさかレミがイージスにいるなんて思ってもみなかったよ」
「私も……ジアが、勇者で……びっくりした。でも……会えたからよかった。ずっと……ずっとね、会いたかったの」
そう言ってレミはジアを抱きしめる。
昔からそうだった。レミはすぐにジアにくっついてくる。孤児院のころから無口でほとんど喋ることはないが、常にジアの隣に引っ付いていた。
それで時々、何の脈絡もなくジアに抱き付く。レミのほうが二歳年上で当時から背も高かったため覆いかぶさるようにしてジアを抱きしめるのだ。さらに力も強かったのでジアは逃げられず、いつもされるがままだった。
そしてそれは今も変わらない。
レミは今でもジアより背が高いので上から寄りかかるようにしてジアを抱きしめる。
「あーーー! いつまで抱き合ってるんですか? ほら離れてください」
見かねたルルがレミをジアから引っぺがす。
「そんなことよりもっ! これからどうするつもりなんですか?」
ルルがクロエのほうを向いて怒鳴る。
「これからって?」
クロエは首を傾げながら答えた。
「私とジアが加わって、これから何をするかです。魔王を倒すために打って出るとか特訓するとかあるでしょう。それをまず決める必要があると、私は思うんです」
「そうね……まぁ、とりあえずちょうどお昼の時間だし、その辺はお昼ご飯の後に決めましょうか。お昼の用意はもうできているの。二人のためにレミが心を込めて作ったカレーよ。さぁ、お昼にしましょう」
――そして用意ができた昼ご飯。
テーブルなどはないが、みんなで円を描いて座る。ジアの隣はレミとルル。
そして目の前にはカレー。
カレーはジアの大好物だ。他にも好物はあるが「一番好きな食べ物は?」と問われれば迷うことなくジアはカレーを上げる。
しかも作ったのはレミらしい。ジアの記憶では、孤児院にいた頃にレミが料理をしているところなど見たことがない。
だからこの五年間で覚えたのだろうと、ジアは思う。
見た目は普通のカレー。具はかなり大きめでジアにとっては理想の大きさだ。
「じゃあ、手を合わせて」
クロエの言葉にみんなが手を合わせる。でもジアには無理なので、片手で済ます。
「では、いただきます」
「「いただきます」」
言い終えると、みんな食べ始めた。
ジアはそんなみんなを一人ずつ眺めていく。
全員が左手にお皿で、右手にスプーン。
でもジアだけは違った。ジアは左手にスプーンを持って、お皿は地面に置いてある。
スプーンでルーとライスを一緒にすくおうと試みるがジアは右利きだったのでなかなか難しい。
左手で食事をすることにはこの数日で随分と慣れはしたのだが、お皿が低い位置にあるので難しかった。
そしてジアは気が付いた。
今、カレーはジアから見ると左にルー、右にライスの状態にある。その配置が悪いのだ。
この向きではどうしてもルーからすくうことになる。そうなるとライスをすくうときにルーがこぼれてしまうのだ。
だからジアはスプーンを口に咥えてお皿を逆向きにした。
これでライスを崩すようにしてすくいながらルーもすくうことができるはずだ……
ジアがそう思ったとき、お皿がレミに取り上げられてしまった。
「あっ……」
今まさにすくおうとしていた左手が行き場を失って途方に暮れる。
「大変そうだから……私が食べさせてあげる」
そう言ってレミは自分が使っていたスプーンでジアのカレーをすくうと――
「はい。あーーん」
スプーンがジアの目の前まで運ばれてきた。
昔から二つ年上のレミは何かとジアの世話を焼きたがる。それは当たり前のことでジアにとっては驚くほどのことでもないし、断る理由もない。
だから……「あーーん」とジアは口を開けた。そのとき、ルルが立ち上がって叫んだ。
「ちょ……ちょっと、あなた! 何をしてるんですか?」
口を開けたままジアはルルの方に振り返る。
「ジアが食べづらそうだったから。私の方がお姉さんだし……」
レミがつぶやくような声でポツポツと答えた。
「だったら、私がやります。ジアが片腕を失ったのは私のせい……だから、私が食べさせます。私の責任だから、私がやらないといけないんです。それに私はあなたよりもっとお姉さんです」
「そんな、ルルは気にすることないよ。僕が好きでやったことなんだから、責任を感じて、そんなことまでしなくても……」
「うるさい! 私がジアに食べさせるって、もう決めたの」
そう怒鳴ると、ルルは自分の分のカレーをスプーンで無理やりジアの口の中に押し込む。
「んうぐぅっ……」
スプーンはすぐに出て行ったので、ジアは咀嚼を開始する。
「あっ……おいしい」
そのカレーは驚くほどおいしかった。ジアが今まで生きてきた中で出会ったどのカレーよりもおいしかった。
良く味わって、ゴクンと飲み込んでから……レミの方を向いて言う。
「レミ、すごくおいしいよ。こんなおいしいの初めて食べた」
「よかった」
「ジアのバカ、あほ、まぬけ。たまご!」
ジアに罵声を浴びせて、ルルはジアに背を向けてカレー食べ始める。
「えっ? 何でたまご?」
ルルは黙々とカレーを食べて答えてはくれない。
結局その後もレミがジアに食べさせようとするとルルが邪魔をするので、ジアは片手で頑張って食べたのだった。
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