第9話

「それで目を開けたら、手の中に神剣があったんだ」

「それは本当に神剣なの? 聖剣って可能性はない? 声の主も自分を神とは名乗ってなかったみたいだけど。なんか聖剣にもあるんでしょ? そういう感じで主を選ぶみたいなやつ」

 神剣を手にした日のことを説明していたジアにルルが問う。

「うん。神様は確かに自分を神様だと名乗らなかったけど……なんだろう。なんていうか……声を聞いた瞬間に、僕はそれが神様のものだとわかっていた。目を開いて神剣が手の中にあったときも、それが神剣で僕が勇者に選ばれたことはもう知っていた」

「そっか……私が魔王になったときもそんな感じだった。ジアは神から神剣を与えられた。私は魔王の魔力を与えられた」

「えっ? ルルも神様に力を与えられたの?」

「そう。私もジアと一緒。神に力を与えられた。つい先日、魔王になったの。ということは……普通に考えれば神は二人いるんだと思う。私たち魔族の崇める神と、人間の崇める神」

「神様が二人……」

 二百年に一度勇者が選ばれるように、魔族にもまた二百年に一度魔王が生まれることはジアも知っていた。しかしそれもまた勇者のように神によって選ばれていることは知らなかった。

 それにジアたち人間の信じる神は魔族を敵視していた。魔族は世界に調和を求める神に反旗を翻し、暴虐の限りを尽くす人間の敵と伝えられている。

 そんな神が魔族に力を与えるとは考えられない。しかし、もし神が二人存在するのならそれも説明はできる。

「私たち魔族は神の教えで人間はとても悪しき存在と教えられていた。この世界の毒、滅ぼすべき敵。そして人間の言葉は学ぶことすら禁じられている。でも、ジアを見る限り、私にはそう思えない。だから互いの神が対立している可能性がある。そして私たちは代理戦争をさせられている」

「代理戦争……僕たちは神様に戦わせられているってこと?」

「わからない。そんな可能性もあるってだけ。でも私は違うと思うの。だって神は私に力をくれた。人間を知ろうと人間の言葉を学んでいる、禁忌に触れているはずの私を選んでくれた。それに神は一言も言わなかった。私に人間と戦えと。ただ神は私に私の望んだ力を与えてくれただけ。だから私は思うの。過去……何百年も何千年も前、初めて行われた魔族と人間の戦い。きっとそのときには理由があったんだと思う。互いに憎み合い、戦わざるを得なかった理由。その戦いが……今まで続いてしまっている。互いの言葉を禁じ合ってしまったため、今に至るまで話し合いがもたれることもなかった。そして永い時が更に傷を広げ、今では憎しみ合うことが当たり前になってしまった。私はそんな気がする」

「そういえば、確かに僕のときも神様は魔族と戦えとは言わなかった」

「でしょう! そもそも人間を悪だということを神から聞いた者なんて今生きている魔族の中には一人もいないの。ただ昔からそう伝わってきただけ。私たちが戦わなければならない理由なんて本当はないのかもしれない」

「でも、だったらどうして神はわざわざ二百年に一度、魔王と勇者を選んだりするの?」

 レーネが疑問を口にする。

「うん。お姉ちゃんが言うように私にもそこがわかんない。でも今回選ばれたのは私とジア。そこにはきっと意味がある」

「あの……僕も考えたんだけど。二百年に一度っていうのは、神様がいつまでも争っている僕らのことを考えて、二百年に一度だけ大きな戦いをさせることで被害を最小限で抑えたとかは考えられないかな?」

「それはあるかもしれない! 神だって全知全能とは限らないし、私たちの心までは操れない。きっと神は私たち自身で争いを終わらせて欲しいのよ。もしそうなら神は一人しかいなくて、昔の魔族と人間が勝手に神を語って、互いを敵だと後世に伝えたって可能性もある」

「でっ? 結局ルルはどうしたいわけ」

 レーネが問う。

「人間と魔族が話し合うことで戦いを終わらせたい」

「そう。それでとりあえずはこれからどうするつもりなの?」

「それはまだ考えてないけど……ところでジアはなんであんな森にいたの?」

「僕は魔族と戦うつもりでいたから、仲間を探しにエスピラって町に向かってた。そこにイージスっていう、人間で一番強いって言われている部隊が滞在しているって聞いていたから」

「じゃあ、ジアの予定通りそこに行こう」

「何で?」

「だって人間の中でその人たちが一番強いなら仲間になってくれればとっても心強いし、それが無理でもその人たちが魔族と戦うのは止められるかもしれない。さぁ、私たちで世界から戦いをなくしましょう」

 そう言って、ルルはうれしそうに笑顔を浮かべた。

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