第4話
――二日後。
ルルの姿は玉座にあった。
願い通りルルには力が与えられた。
銀の魔族をも軽く凌駕する魔力と、属性に縛られず全ての魔法を使う力。
容姿も以前とは違う。以前の燃えるような赤い髪と赤い瞳を失い、今は金色の髪と瞳を宿していた。
それは神より与えられた絶大な力の証。魔王の証だった。
玉座で魔王ルル・ビダルは思考する。
魔族の中に魔王が生まれたということは、人間に勇者が生まれたということ。
魔王、そして勇者の誕生。それは二百年に一度の魔族と人間の大戦の幕開けを意味した。
そう、この世界では二百年に一度、魔族と人間が大地の覇権をかけて戦う。魔族は無限の魔力を持つ魔王を筆頭に、人間は最強の剣を手にした勇者を筆頭にして。
それは定められた物語。その物語の勝者が世界の栄華を手にすることができる。
誰もが知っていること。しかし、ルルは疑問を感じていた。
魔王の魔力、それは神により選ばれ与えられる。それは知っていた。
そして勇者の持つ、人間たちに神剣と呼ばれる剣。それもまた神によって与えられるのだ。人間の言葉を学び、ルルはそれを知ってしまった。
その事実の意味することを考える。
ルルの知る限りでは、神は人間を嫌悪していた。
人間は森を焼き、自然を破壊する野蛮で無慈悲な種族。神はそれを滅ぼすことを願い、穢れた言葉として人間の言葉を解することを禁じた。
――と、いうことは……神は二人いるのだろうか。魔族の神と人間の神。
もしそうであるのならば、二百年に一度のこの戦いは神の代理戦争である可能性があった……
なぜならルルは知っている。人間は嫌悪に値する種族ではない。人間の言葉で書かれた本を読んで知った……人間は魔族とそれほど変わらない。
それにティアネの存在もあった。ティアネ・エスヴァイン――彼女はルルの父ベネディクトの元部下。五年前の戦いに参加していた優秀な魔族の戦士。
彼女は五年前の戦いで戦死したと思われていた。しかし戦いから二年後、彼女は帰ってきた。
彼女曰く――戦いで大きな怪我を負い、生死の境をさまよっていたところを人間の老夫婦に助けられたらしい。
彼女は言った。人間は優しかったと。老夫婦は彼女を魔族と知りながら手厚く介抱してくれたのだと……
そして彼女は今、軍に戻ることはなく、王都の外れの森で一人静かに暮らしている。
ルルは考える。魔王として、ビダル家の一員として。
大切なのは魔族の幸せ。それは必ずしも人間と戦うことではないのかもしれない。
幸いルルは人間の言葉を理解できる。読むこともできるし、ティアネに教わって話すことだってできる。
神が何を考え、なぜルルを選んだのかはわからない。しかし、そこに意味を見出すのなら人間の言葉を解すること以外になかった。
この三年間、ルルは必死で人間の言葉を、人間を学んだ。それを無意味なことにはしたくなかった。
だから……
『よし。決めた。行ってみよう……人間に会いに』
王宮は魔王が誕生してまだ二日でいろいろ混乱している。現に部屋には今、ルル一人しかいない。きっとチャンスは今しかないだろう。
ルルは筆を執り書置き残す。『ちょっと人間に会ってきます。政治のことは元々よくわからないので、お父さんに任せます。一ヶ月くらいで戻るので探さないでください。後、その間に人間たちと戦わないでね。魔王ルル・ビダル』それだけ書き終えるとルルは部屋を出た。
魔族の敵、人間と語らうために。
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