到着

「よしっ! 全員縄で縛ったし、お前ら全員荷馬車にのれ!」


とグリフィンは夜盗共を全員縛り上げて荷馬車に乗せた。夜盗どもは全員両手を後ろ手に縛られて、しかも夜盗の首にも縄をかけられていて、数珠つなぎのように繋げられていた。


「人間界では盗賊に懸賞金がかかってたりするからな。お前ら全員引き渡してやる」とグリフィンが言った。


ディアナは少し離れたところで三角ずわりのような格好で座っていた。「おい! ディアナ! いつまでそうしてるんだ! 今から出たらちょうど人間界の門が開く時間だ! もう出るぞ!」とグリフィンがディアナに言った。


私はディアナに話しかけた。「ディアナさん。大丈夫?」


すると「あいつらは殺すべきなんだ……なんで分からないんだ」とディアナは言った。


「おい、まだ言ってんのか。こいつらだって生きてるんだ。無抵抗な相手を殺すことはないだろう」とグリフィンは言った。


「お前こそなにを言っている! そいつらは無抵抗な人間を何人も傷つけているんだ! 人間界に引き渡してもすぐにまた出てくる。あいつらは身内には甘いからな!」とディアナは立ち上がりながらまたヒートアップした。


「出てきたらまた罪のない人を傷つける、そんな奴らだ。だから今のうちに殺すのが正しいんだよ……」最後の方はかすれそうな声で言った。そして再びしゃがんだ。


「そうなるとは限らないだろう。とにかく行くぞ」と言いながらグリフィンは馬車に乗った。そしてディアナに言った。「お前も早く乗れ」


ディアナは首を横に振って拒絶の意思を示した。「私はもう妖精郷に戻る」と言った。


私は目を見開いて「ディアナさん?」と言った。ディアナは「私は君を守れなかった。だから一緒に行く資格がない」と言った。


私はディアナを抱きしめた。


「ディアナさんは私を助けてくれた。だから自分を責めないで。ディアナさんが助けに来てくれて私嬉しかった」ディアナは目に涙を浮かべていた。


グリフィンはそれを難しそうな顔で眺めていた。そしてため息をつきながら「ディアナ行かないんだな……好きにすればいいさ」と言った。


「お姉ちゃん行こっ!」大きな狼の形のガロウが声をかけてきた。「ボクの上に乗って!」


「でもディアナさんが……」と私はディアナをチラリと見た。


「そっとしといた方がいいよ。ディアナさんは強いから大丈夫だよ」とガロウが言った。


悲しそうなディアナを一人ぼっちにしておくのは心が痛んだ。しかも相手は命の恩人だ。


「ありがとう。あなたと出会えて良かった」と言って私はディアナから流れる涙を指でぬぐった。


「詩織……」ディアナは呟いた。


腹ばいになって乗りやすくしたガロウに私は乗った。「それじゃ……」と言って私は手を振った。ディアナは答えなかった。


グリフィンが馬車を動かしガロウもその速度に合わせてついていった。小さくなるディアナ


私はそれを見送った。


私が悶々とした思いでいると胸元からあの金色のボール大の小鳥が出てきた。そして首もとだけ私の服から出し


「ふぅ……修羅場だったわね。なかなか出るタイミング見つからなかったわ」とオネエのような声で言った。


「あ、あなたはさっきの役立たず鳥!」私は叫んだ。


「ちょっと! ちょっと! 役立たずとはお言葉ね! 言ってくれるじゃないの!」


「でも、私あなたがあんな大っきな斧を持ってきたせいで死にかけたんだけど! 役立たずじゃない!」と私は叫んだ。


「何言ってんの! あたし頑張ったじゃないの! あの大っきな斧をくちばしだけで持ち上げるのどんだけ大変だったと思ってるの?! 顎が外れるかと思ったわ!」とその小鳥は言った。


「あんな斧持ってくる必要無かったでしょ! ちっさなナイフとかで良かったじゃん!」私は言った。


「パニクってたのよ! 仕方ないじゃない! あなたもお父さんに間違えてお母さんって言ったことあるでしょ!」とその鳥は言った。


「そんなことあるかーー!」

私は言った。


「まぁいいわ」とその鳥は言った。


「私はマリアよろしくね」と襟から飛び出して飛びながら言った。


「マリアさん……あなた、さっきまでどこに入っていたの?」私は聞いた。


「どこってこの世で一番安全な場所だけど?」マリアが答えた。


「勝手に私の胸元に入るなぁー! このセクハラ鳥!」


「だっ誰がセクハラ鳥よ! いきなり不適切な二つ名つけないで! 小動物だけに許された特権じゃないの!」とマリアが言った。


「あなた喋ってるじゃない! そんな小動物がいるか!」私は言った。



「いるじゃない! こんなに可愛いのが目の前に!」とマリアが言った。黄金の毛、ずんぐりむっくりとしたボール大の姿。オネエのような声どうみても可愛いとはお世辞にも言えなかった。


私はため息をついて黙り込んだ。


そして言った。


「ディアナさんあれで良かったのかなぁ……」


「ディアナ? さっきのエルフね仕方ないじゃない?」


「ディアナさん私を助けてくれたのにあんなに悲しそうで……」


「なに言ってるの! 最初からあなたがとっ捕まらなかったら良かったじゃない!」


「私が悪かったって言うの!?」私は目を向いて怒った。


そして一息つき


「でも……そうかも……私がもっと注意していればこんなことには……」


「ちょっとちょっと! なに本気でへこんでるのよ! そんな訳ないじゃない! あなたが悪いわけないじゃない! ちょっと言ってみただけよ!」マリアは言った。


「あなた優しい人なのね……人の痛みが分かる人なのね……でも、それじゃ辛いことばかりでしょ……」

慰めるようにマリアが言った。


マリアは短い翼を出して頭をよしよしした。


私はなんだか涙が出てきた。鼻水もグズグズと出てきた。この異世界に来てから色んなことがありすぎた。私はマリアを掴むと「ふぅーーー!」っとマリアをティッシュ代わりにして鼻水をかんだ。


「ちょっと私はちり紙代わりじゃないわよーーー!!」とマリアが叫んだ。



「ついたぞ」馬車を操縦していたグリフィンが言った。グリフィンは荷馬車の方に回りフード付きの服を上に着た。そしてフードを深くかぶった。


「ゴメンね。お姉ちゃん降りて」ガロウはそう言うと少年の姿に戻って服を着替えた。


目の前には大きな城壁と跳ね橋が見えた。


「オーーイ! 入れてくれ!」とグリフィンは城壁の窓から見える門番に言った。「誰だお前は!」門番が聞いた。


「盗賊共を捕まえてきた! アイテール神にお使えするものだ!」とグリフィンは言った。


門番は呟いた。「神殿騎士か……」


「では、合言葉を言え! 光は?」


「闇を打ち倒す!」とグリフィンは答えた。

すると跳ね橋がゴゴゴゴと降りだした。「入るぞ」とグリフィンが言って馬車を進めた。私とガロウもついていった。


「お疲れ様やっとついたね」ガロウは私に笑いかけた。


街中はひどく寂れているように感じた。思ったより活気がないと言うか……城壁のそばはこんな感じなんだろうかと思った。


私達は盗賊を引き渡すためにまずは牢獄に向かった。グリフィンは牢獄の受付に行き言った。「こいつらをとっ捕まえた。懸賞金は出るか?」受付の人間は「6人全員とっ捕まえたのか! こりゃ大捕物だな!」と言って笑った。


「ついでにあの馬車も売りたい。買い取ってくれるか?」

「あぁ馬車ごと買取ろう全員で1000ゴールドだ!」と受付の男は言って袋に入った金貨をグリフィンに渡した。


私達は詰所から外に出た。


グリフィンは先程の袋から金貨を一枚手に取り手に握った。そして金貨がたんまりと入った袋を私に渡した。「ほい」


ドシン! 余りに多くの金貨だったので手が自然に沈んだ。

「え? おもっ! いいの? こんなに多くの金貨」私は言った。


「いいさ。あんまり持ちすぎると人間になっちまうからな。この一枚で十分だよ」と言って私に先程手に握った一枚の金貨を見せた。


「人間になる?」

私は聞いた。


「あぁ……あんまり人間界にいたり、人間に慣れすぎると人間になっちまうんだ。俺たちは。だからあんまり持てないのさ。これは今日の飯代だな」と言って一枚の金貨を見せた。


「その金でなんとか生活するといい」グリフィンは笑った。


私は大量の金貨の入った袋を見つめた。そしてグリフィンは遠くにある白い塔を指差して言った。「あの神殿が街の中心だ。あそこに行けば行くほど人も多くなり街も栄えてくるから困ることはないだろ」


「お姉ちゃん……」気づくと私の服にガロウがしがみついていた、なんだか目が潤んでいる。


「ガロウくん? どうしたの?」私は言った。


「お姉ちゃんこれでお別れなの?」なんだか泣きじゃくりながら声を出している。


私はガロウを抱き寄せた。ガロウが私の腰を抱きしめた。


「少しの旅で一緒になっただけなのにもう懐いちまったか」とグリフィンがおかしそうに笑った。


ガロウが私のスカートに顔をうずめて顔を左右に振っている。


しばらくして


「じゃあお別れだな」グリフィンが言った。「お姉ちゃんバイバイ」ガロウが泣きそうな声で言った。


「まぁ結構楽しかったぞ。お前との旅。お前その金貨スリにすられるなよ」グリフィンがおかしそうに言ってる。


「大丈夫。気をつけるよ。ありがとう私も楽しかった」


「じゃあな」と言ってグリフィンは私から離れた。「お姉ちゃんまた会える?」ガロウが離れながら言った。


「また会おうガロウくん! グリフィンも!」私は離れていく二人に声をかけた。グリフィンは振り返らずに手を上げて答えた。

ガロウはいつまでも振り返って手を振ってる。


二人は小さくなって見えなくなった。


「すごく良い人たちだったな。また会えるかな……」私は目に貯めた涙を拭いながら言うと、


「まぁすぐに会えるんじゃない」とマリアの声が聞こえた。勝手に胸から外に出たみたいだった。


「あの……あなたも行かなくて良いの?」私は言った。


「あたし? あたしはあなたの命の恩人じゃない! ちゃんとお世話しなさいよ!」


「命の恩人って……」私は言うと軽く笑った。「じゃあ行こうか!」と私は言うとマリアは私の左肩に飛び乗った。


私はもう一度この世界を見た。


この世界ならきっと私の居場所を見つけられる。


そう思いながら。

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えぇっ?!今度の異世界転生は私?異世界転生したら純愛逆ハーレムが出来た件について 乱輪転凛凛 @ranrintenrinrin10

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