ディアナの怒り
「グリフィン! おい! 起きろ!」ディアナが俺の胸を掴みでいる。
俺はあくびをしながら
「なに? なんだよ。大きな声だして」
と言った。
「詩織ちゃんが、詩織ちゃんが拐われた!」とディアナが顔面蒼白にして言ってる。
「拐われたってお前のそばで寝てたはずじゃ……」
「違うんだ。違うんだ! いつの間にか私の隣からいなくなってたんだ!」
「トイレでもいってんじゃねーのか? そこら辺探してみたか?」グリフィンは言った。
「このあたり一体はすべて探した。いないんだ! どこにも! 野党に拐われたに違いない!」パニックになったようにディアナは慌てている。
「落ち着けって! お前が慌てても仕方ないだろ!」グリフィンは強めに言った。グリフィンはチラリとそばで寝ているガロウの体を揺すった。
「オイ! ガロウ! 起きろ! 緊急事態だ! ガロウ! 起きろ!」激しく揺する。
「んーー? なにー?」少年姿のガロウが目をこすりながら上半身を起こした。
「ガロウ! 詩織ちゃんが行方不明になったんだ!」慌てながらディアナが言った。
「え! お姉ちゃんが?」一発で目を覚ましたようだ。
「ガロウお前匂いで追跡出来ないか? 俺たちの五感じゃ限界がある。お前の鼻なら居場所が分かるはずだ!」とグリフィンが言った。
「うん! わかった!」するとガロウは服を脱ぎ捨て少年の姿から巨大な馬ほどの狼の姿になった。
そして地面を嗅ぎだす。
「人間の男の……それも数人の人間の匂いがする。一緒に連れて行かれたみたい。こっちだよ。乗って!」グリフィンとディアナは身軽にガロウに乗った。
「頼む! ガロウ急いでくれ!」ディアナが叫んだ。
「うん! 分かった!」ガロウが闇の中を矢のように疾走しだした。
「私のせいだ。私のせいで、詩織は……なんて間抜けなんだ」グリフィンの背中に両拳を合わせてディアナ言った。泣いているようだった。声が震えていた。
「自分を責めたってなんにもならないだろう? 今は助けることに集中するだけだ。俺も気づかなかったんだ。責められないよ」
グリフィンは優しく言った。
「グリフィン……私がもっと気をつけていれば……」ディアナはまだ泣いているようだった。
「いや、お前はなにも悪くない。早く気づいてくれて良かった。過去を悔やんでも過去は変えられない。変えられるものは未来しかない。後悔よりも未来を祈った方が100倍マシだ」グリフィンは言った。
「グリフィン……」後ろからディアナの声がする。
◇
「んー? オイ! お前ら何やってんだ!」盗賊の男に見つかった。すると金色の小鳥は焦ったように私の胸元に逃げ込んだ。
「オイオイオイオイ! なんで斧がこんなところにあるんだ。もう少しでこの女の頭かち割れるところじゃねえか」
他の盗賊が言った。
「あれ? この斧壁に掛けてたはずなんだけどな。あんまり重くてデカイからアジトの奥にしまってあったハズ。男二人がかりでやっと持てるくらいなのに」
「まぁいいや」
盗賊の男はそう言ってからズボンを降ろし始めた。
もう一人の男は
「えっ? お前もう始めるのかよ」と下卑た笑いを浮かべながらズボンを降ろし始めた。
私はさるぐつわをされながら、「んーーー!! んーーーー!」と声にならない叫び声をあげた。
男二人は私の服を脱がし始めた。しかし後ろ手に縛られているためか上着は上手く脱がせられないようだった。
すると盗賊は
「上はいい。下だけでいい」といい私のスカートを捲くりあげようとした。
すると洞穴の奥から女の声で「おい! お前らなにやってるんだ」と怒りに満ちた声が聞こえた。
ディアナ? 私は声のする方を見た。ランプの灯りにともされたそれはディアナだった。隣にはグリフィンと巨大な狼の姿になったガロウがいた。
ディアナはゆっくりと近づいてきた。そして着衣の乱れた私を見ると目を潤ませて見つめてきた。
そして冷酷な声で盗賊の男に言った。「おい、なにをやった答えろ」男は答えなかった。後で宴会をしていた残りの盗賊のメンバーは「ひぃっ! エルフだ!」「逃げたほうが……」などと小声で怯えていた。
ディアナは人間の男が二人がかりでもやっとの2メートルくらいの斧を片手で持ち上げ「早く答えろ! でないと一人づつ順番に殺していくぞ!」と怒鳴った。
ディアナが巨大な斧を振りかざし盗賊の一人の頭めがけて振り下ろした。ズドン! 凄まじい音が鳴る! すんでのところで盗賊は避けコケるように後ずさりした。
「逃げろ! 逃げろ! 裏口からだ!」盗賊の頭領らしき人物が叫んだ。すると盗賊は洞窟の奥に向かって逃げ出した。
「グリフィン! 頼む!」とディアナが言うと
グリフィンは「おうよ!」と言い、身軽に洞窟の壁を忍者のように走って盗賊の前に回り込んだ。
「ひっ! いつの間に」と盗賊は焦った。
「もう逃げられねーぞ。観念しろ!」とグリフィンは言った。
「全員ひざまずけ!」とディアナが叫ぶと盗賊は一人また一人しぶしぶと跪き始めた。ディアナは一旦斧を置いて私のところに来た。
すると「アグニよ」と唱えて右手に小さなメスのような形の炎の塊を生成した。
それで私の手と足の縄とさるぐつわを焼き切った。
私は両手両足が自由になったがそれでもぼんやりとしていた。自分が乱暴されそうになった衝撃がまだ残っていた。
「詩織なにをされた?」ディアナは潤んだ瞳で聞いてきた。私は口が乾燥してなにも言えなかった。体が強張ってなにも言えなかった。
「あ、あ、あ、あ、あ」
と私は声にならない声をあげるとディアナは悲しそうに私を見つめて立ち上がった。そして再び巨大な斧を軽々と持ち上げると盗賊の一人に向かって冷酷にこう言った。
「おい。頭を下げろ」
声をかけられた盗賊は怯えたようにディアナを見ている。
もう一度冷酷に静かに言った。
「早く頭を下げろ」
盗賊は涙を浮かべてなにも言えずにそのままひざまずいている。
すると
「おい。ディアナもういいだろ。ビビらせすぎだ。なにも殺すことないだろう」とグリフィンが宥めるように咎めるように言った。
「駄目だ。こいつらを生かしておく必要がない」ディアナは冷たく言い放った。
「ディアナ流石にそれは……」グリフィンが言う。
巨大な狼の姿のガロウも
「ディアナさんもうそいつら抵抗出来ないよ。縛りつけて人間界の人に渡せばいい」と言った。
「人間界の法なんて私達には関係ない!」とディアナは言った。
「グリフィン! こいつらは害虫だ。生きている限り多くの人を傷つける存在だ。見つけ次第殺すのが正しいんだよ!」
「おい! お前ら今まで何人の人を殺してきた! 何人の人を犯してきた!」と盗賊に詰め寄った。
盗賊は怯えきったようでなにも答えられない。
「もういい」と言いながらディアナは巨大な斧を振り上げた。その刹那ガロウがディアナに横から飛びかかりディアナを口で噛んで押し倒した。
大きな音をたてて地面に落ちる斧。
「ディアナさんやりすぎだ!」ガロウがディアナに言った。
「やめろ! ガロウ離せ!」ディアナは倒されながらガロウに抵抗して叫んだ。
グリフィンも倒れたディアナに覆いかぶさって止めた。両手でディアナの両腕を掴む。「頭を冷やせお前!」するとディアナは発狂したように
「やめろーーーーーー!!」と叫んだ。
そのあまりの剣幕にグリフィンも私も一瞬ビクッとした。「お前……」グリフィンが言うと、ディアナは上から押さえつけてるグリフィンの右手を外しグリフィンの頬を殴りつけた。
ボコッ! 洞窟に鈍い音が響く。
グリフィンは思わず「うぐっ」っと言ってのけぞって倒れた。ディアナは立ち上がりグリフィンに向かって「私に触るな! 殺してやる!」と言って巨大な斧を持ってグリフィンに振り下ろした。
「やめてーーーーー!!」私は叫んでいた。洞窟内に私の叫び声が響いた。
ぴたりと止まる斧
「ディアナさん! 私はなにもされてないから……なにもされてないから……だからやめて……」とかすれ声で叫んだ。
ディアナはうなだれるようにうつむいたあと、巨大な斧を投げ捨てた。そして私のところに来た。
そして私の頬を両手で掴むと「本当だな? 本当になにもされてないんだな?」と言った。私は頭をなんどもコクコクコクと縦に振った。
ディアナは私を抱きしめながら言った。「ゴメン。守れなかった。そばにいたのに。ゴメン」泣いているようだった。私はディアナに強く抱きしめられた。ディアナの手が震えていた。
私はディアナの震える手をとり「ディアナさん……手が震えて……」と言った。ディアナは体も小刻みに震えていた。
グリフィンが小声で「なんだってんだ……あいつ」とつぶやくのを聞いた。
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