夜盗

焚き火を囲んで私はディアナさんの横で寝ていた。


ディアナさんは女性なのに強くてたくましくて紳士で……女性を守れるくらいに強い人なんだ……私は目を閉じながら考えた。


焚き火の向こう側ではグリフィンとガロウが寄り添って寝ている。


野宿と言えどもなんだかみんな優しくて面白くて……なんだか妙な充足感を感じていた。


焚き火がバチン! と音を出して火花を飛ばした。


目を開けた。


夜空を見上げる。


「私この世界に来て良かったのかなぁ……」と呟いた。


私はそのまま眠りについた。


男の声がする。


「おい寝静まったか」小さな囁き声がする。


「エルフ二人に人間一人、獣人一匹だ」


「エルフは耳が鋭いからな。足音をたてるなよ」


5〜6人のその盗賊はヒソヒソ話をしながら様子を伺っていた。


「よし、あの人間の女を拐うぞ!眠りタケの粉を使え」


盗賊たちは詩織に忍びより小さな髪に入った粉薬を詩織の顔に振りかけた。


そして詩織にさるぐつわを噛ませた。


「ん……んん!」詩織は少しうめいたが眠りの粉が効いたのかすぐに眠りに落ちた。


「運べ! 運べ!」全員で詩織を持ち上げ遠くに停めてあった馬車に乗せて馬車を走らせた。


馬車は遠く離れた盗賊達の洞穴にたどり着いた。 


盗賊たちはランプに灯りをともした。


荷馬車から詩織を降ろして乱暴に地面に落とした。


「今日の獲物はこいつだけか」


盗賊の頭領らしき人物はそう言った。


「ん……んん」


叩きつけられた衝撃か私は眠りから覚めた。

目の前に男が数人ランプの灯火に照らされている。私はビクッ! として体を動かそうとしたが動かない。どうやら両手両足縛られているみたいだった。


「オイ、目覚めた」男は言った。


「楽しみにしとけや。お前は明日人買いに買われる。楽しい奴隷生活の始まりだ。その前に俺たちでお前を愉しませてもらうがな」


と言ったら男共は下品な笑い声をあげた。

私はその笑い声に恐怖して体をジタバタ動かす。「んーーーー!! んーーーー!!」口にさるぐつわされているのか声が出ない。


「ジタバタすんな。まぁ夜は長いんだ。とりあえず飯でも食うか」


男たちは酒を飲みながら食事を始めた。私は周りを見渡した。暗い洞窟だった。私達以外は誰も居なかった。


胸が吐き気と緊張でドクンドクンと強く打っていた。逃げられる方法はないかなんとか考える。分からない。なぜ私がここにいるのかも、どうやって連れてこられたのも


頭の中になぜかグリフィンの顔が思い浮かんだ。


助けて誰か! 強くそう思った。


そうだ! ニュクスの闇の力を使おう!


私は意識を集中させた。一瞬胸の三日月はぼんやりと光ったがまもなくその光は消えた。


誰も助けにはこない。闇の力も使えない。私はただ涙していた。


すると私の胸の谷間になにか蠢くものがあった。ゴソゴソと服の下で動いていて服の襟からニョキッと生き物が出てきた。


それは黄金のソフトボール大の丸々とした小鳥だった。

「ふぅお久しぶり」と声をかけてきた。まるでオネエの人のような男性の声だった。


私は心の中で思った。

あ、あなたは確か森の中で私の手のひらに乗り果物を置いてくれた……


そうこの妙ちくりんな黄金の球のような鳥は森で出会ったことがあった。


「あなたが人間界にいくと決めてから私もあなたの服の下にずっと隠れていたのよ。久しぶりに人間界に行きたかったからね」


「んーーーんーー!」私は軽くうめいた。


「シッ! 気づかれるわ助けてあげるから静かにしておいて!」


その金色の丸々とした鳥は私の後ろに回った。そして私の後ろ手のところの縄をくちばしで解き始めた。


「あれ結構固く結ばれてるわね。ちょっと待って詩織ちゃんいまほどくから!」その鳥はなんとか縄を解こうとしているようだが上手くいかない。


「ちょっと待ってこれ刃物がいるわね。縄を切らなくちゃ!」とその鳥が言った。


「こいつら盗賊だから刃物なんてそこら中に転がってるハズだから待ってて詩織ちゃん!」するとその黄金の小鳥は音の出ないように洞窟内を飛んだ。


盗賊たちの笑い声が聞こえる。まだ気づかれていないようだ。

「でっけぇ儲け話ねぇかなぁ」「どっかの貴族でもとっ捕まえれば身代金ガッポガポなのによぉ。都合悪けりゃ殺せば良いだけだし」

などと話している。


その会話を聞いて更に恐怖した。あの鳥が逃してくれなければ最悪殺されるだろう。こんなところで死にたくない。余りに急な展開に余り事情が飲み込めなかった。


すると私の前方からあの金色の鳥が長さ2メートルくらいもある巨大な斧を口に咥えて「んーーーんーーー」と言いながらフラフラと飛んできた!


私はそれを見て驚いて「んーーーー! んんん!!」とさるぐつわを噛ませられながらうめいた。


え? それで切るの? その人間の頭を簡単に真っ二つに出来るような巨大な斧で? 縄を? どうやって? というかそんなものよく持てるな。


と不安がっているとその鳥は察したのかウインクした。その鳥が飛びながら私の上を通り背後に回ろうとしたその瞬間!


「あ」


という声が聞こえたと思ったら上空からズドン! とその斧が落ちてきて私の顎をかすめるようにして落ちた。


あと1センチ近かったら完全に顎が割れていた。私は恐怖の余り全身が電気が走ったかのように震えてさるぐつわを噛ませられた口で「んーーーー! んーーーー!」とうめいた。


盗賊が言った。「ん? なんの音だ?」酒が入ってるせいか呂律が回っていない。「雷でも落ちたか?」別の盗賊が言う。「落ちるならどうせ」と言って全員で笑った、


「ふぅ……気づかれてないみたいね」その金色の鳥は私の顔の近くまで来て言った。「ごめんなさい。もう顎が限界で。しょせん可愛い小鳥の顎だもの。歌うことしか出来ないわ」


「で、怪我は無かった?」

「ちょっと待っててね。もう一度頑張るから!」とその小鳥は言いながらその巨大な斧をくちばしで持ち上げた。


「んーーー! んーー!」失敗してあの斧を体に落とされては堪らない。私はなんども首を左右に振った。


すると

「んー? オイ! お前ら何やってんだ!」盗賊の一人が私のそばに来て言った。

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