ディアナ

私達は3人背を寄せあうように集まった。


「グリフィンどうしよう!」ガロウが言った。


「一点突破しかないな。暴風龍を呼んで……」とグリフィンが言ってると


ドゴゴゴゴと異様な音が辺りに響いて土砂の混じった津波が私達の方向に押し寄せた。


「えっ?」私が叫ぶとグリフィンが「巻き込まれる! ヴァーユよ!」と叫ぶと私達の周りに球形の風の壁が出来てその土砂津波を防いだ。


ゴブリンはその土砂津波によって全て流されていった。


「危なかったぁ……誰が……」グリフィンが言うと、遠くからグリフィンの名を呼ぶ声が聞こえた。


「よう、グリフィン危なかったな!」大きく声を張り上げる女性の声だ。


「ディアナか」グリフィンは叫んだ。


「俺が助けなかったら今ごろお前は死んでいたな!」とディアナと呼ばれる女性はグリフィンに話しかけた。


そのディアナと呼ばれる女性は髪は黒髪、褐色肌で健康そうな見た目だった。痩せ型の筋肉質だった。グリフィンと同じく弓を持っていた。耳の尖ったエルフ種だった。


「かもな……ありがとう」


「しかし、どこに行くんだお前。ガロウと……そのご婦人は?……」


「あぁこいつはショーーリ」


「詩織だって!」私は叫んだ。


「あぁそうか。詩織さんね。素敵な名前だね」と言って私にも妖艶な笑みを浮かべてきた。


なんだか私はドキリとした。


「しかし、グリフィンお前レディーの名前を覚えてないなんて酷いやつだな」とディアナが言った。


「レディー? なんだそれ。あぁ人間界のしきたりみたいなやつか。人間の女は弱いから守ってやれってやつか。お前は妙に人間界について耳年増だな」


「ショーー……リ人間の名前って言いづらいんだって」とグリフィンが言った。


「あっ!」とディアナが叫んで私の擦りむいた膝を見た。


「傷ついてるじゃないか! ちゃんと保護をしないと!」と言って綺麗な布を取り出して私の怪我をしている膝に巻いて保護した。


「だ……大丈夫ですよ!」と私が言うと


「駄目だ。この美しい肌に一生モノの傷がついてしまうところだ」と言いながら私のふくらはぎを指先で撫でてきた。


「キャッ!」私は反射的に足を引いた。


「小さな叫び声も可愛いね」とディアナは私に微笑みかけた。


「ん?靴を脱いでご覧」ディアナはそう言うと跪いて私のスニーカーを脱がせた。


「ほら、靴擦れが起きてるじゃないか。痛かったろう」

そうだ。私は慣れない強行軍でしかもグリフィンとガロウの足が速かったので靴擦れを起こしながら歩いていたのだ。


「全く気づかなかったのか? 無骨なやつだなお前は」とディアナはグリフィンに向かって言った。


「え? 俺が悪いのかよ。そんなもんどうしようもねーだろ!」とグリフィンが言った。


「では、行きましょうか。お姫様」と言ってディアナが私の手を引いて歩き出した。


「おい! ちょっと待て! なに勝手にやってんだ!」とグリフィンが怒った。


「なんだお前。このお嬢様はお前のものではないだろう」


「そういう話じゃねーんだよ! 俺はこいつに人間界に連れて行くよう頼まれているの!」


「本当ですか?」とディアナが私に聞いてきた。


「いや、頼んだというか……私がどうやって人間界に行こうか悩んでたらグリフィンが一緒に行こうって」


「ほら、違うじゃないか!」とディアナが言った。


「おいバカそこは適当に話合わせとけって!」とグリフィンが言った。


「とにかく!」とディアナが言った。


「ご一緒させていただけますか?」と上目遣いで私に尋ねた。


なんだかその表情にドキリとした。


「あ…はい……よろしくお願いします」と顔を赤くしてうつむいた。


「おいバカ! 顔赤くしてんじゃねー!」グリフィンが怒っている。


「じゃあ」

ディアナはそう言うと私の腰に手を置いて、まるでダンスを踊るようにグイッ! っと、私の上半身を後ろに倒した。ディアナの顔が私の上にくる。


「え……あの……」私はどぎまぎする。


「行こうかお姫様」と言ってディアナは私をお姫様だっこした。


「えっーーええーーー」口を押さえて私は叫んだ。


「オイッ! お前何やってんだ。俺たちをお前のペースに巻き込むな!」とグリフィンが言った。


「ディアナさん相変わらず……」ガロウが呆れたように言った。


「えっ? えっ? ホントにこのまま抱っこされたまま歩いていくんですか?」私は言った。


「そうだよ」ディアナは白い歯を見せて笑った。


「えっーーーーー!!!」私は叫んだ。


しばらくお姫様だっこされながら歩いたがやはり気恥ずかしいので私は降ろしてもらった。


ゴブリン達に時間を取られていたためか辺りはすっかり日が落ち夕暮れになっていた。


「ここでキャンプするか! もう暗くなる」とグリフィンは言った。


私達は小川のそばでキャンプすることにした。


「私のそばにいるといい。夜は危ないからな。ここらへんは人間の野盗が出る」

ディアナは言った。


「はい」私はもじもじしながら言った。


「じゃあ俺木を集めてくるから」と言いながらグリフィンは立ち上がった。


「ボクも行くよ。グリフィン」ガロウと一緒にグリフィンは薪集めに行った。


「見慣れない格好だね。人間界ではあまり見ない格好だ。差し支えなければどこの国の出身か教えてくれないか?」ディアナは言った。


「私ここの世界の住人じゃないんです。日本っていうところで、ここから見たら異世界から来て」


「異世界? そんなものあるのか? あぁ根住みの長老がそんなこと言ってたような気がするな」


「長老のこと知ってるんですか?」


「あぁ私は根住みの長老に妖精郷のことや、様々なことを教えてもらった。この弓も長老の枝を刈り取らせてもらって作ったものだ」


ディアナは背中に抱えていた弓を見せた。それは原始的で無骨な弓だった。


「でもグリフィンもそうですけど、ディアナさんも矢を持ってないですよね」


「あぁ矢は必要ないんだ。精霊神の力を借り元素の矢が作れる」


「君を助けたのも精霊による元素の矢の力だ」


私はあのゴブリンに囲まれた時の土砂津波を思い出した。


「で、なんで君はこの世界に来たんだ?」ディアナが聞いてきた。


私は思い出していた。電車に飛び込んだあの日を。


「あのぉ……その……」私はうつむき加減で手をすり合わせてモジモジしていると


「ゴメン。答えたくない質問だったね」

ディアナは優しく微笑んだ。


「実は私も」ディアナが言った。


「元は人間だったんだ」


「え? そうなんですか? ディアナさんが」


「君と同い年くらいに妖精郷に迷い込んでね。妖精郷には人を木に変えたり妖精郷の住人に変えたりする作用がある」


「それでこうなったのさ」ディアナは尖った右耳を指先でピンピンと弾いた。


「だから他人事には思えなくてね」


「そうですか。てっきり木になるものとばっかり」


「根住みの長老はそうなったさ。オーガになる奴もいる。私は昔からグリフィンと遊んでいたからエルフになったのかな」そう言ってディアナは笑った。


「逆に私達が人間界に行くとしばらくして人間のようになってしまう。性格が変わってしまうんだ」


「身の上話か? お前ら」焚き火用の木々を両手に抱えてグリフィンは戻っていた。


「んしょ」ガロウも両手に木々を抱えて一緒だった。


「グリフィンはいつから妖精郷にいるの?」私は聞いた。


「いつからって俺は木の根元で産まれたんだ。親なんていない。産まれたときから妖精郷だ」


「多分風と木と土の元素が混じり合ってグリフィンは産まれたんだね」とガロウが言った。


「だから小さい頃は根住みの長老によく世話になったよ。あの木になってる果物を食べたりな」


と言いながらグリフィンは持ってきた木片に指先をパチン! と鳴らし火をつけた。


「ガロウくんは?」私は聞いた。


ガロウは答えた、

「うーーん、分かんない!」皆がどっと笑った。


「火を焚いていても今日は冷える。私のそばで眠りなさい」

とディアナは言った。


私達は眠った。


暗闇の中焚き火の炎が小さくなり煙がくすぶっていた。


「オイ! グリフィン! 起きろ! オイ!」グリフィンの胸ぐらを掴みながら揺らす女の声がする。


「ディアナか……なんだ」グリフィンは眠たそうに目を開けた。


ディアナは息も絶え絶えになり顔面蒼白の状態で言った。

「詩織ちゃんが……詩織ちゃんが拐われた!」

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