雨が止まらず降り続く。


「雨が代わりに泣いてくれたから、涙が止まったか?」グリフィンがふざけるように微笑んで言った。


私の涙は不思議にもう乾いていた。


「しかし人間ってなんでそんなに泣くんだろうな」とグリフィンが言った。


「エルフは泣かないの?」私は聞いた。


「うーーーん、いや俺も泣くよ。でもよく分からないタイミングでは泣かないな」

グリフィンは笑っている。


「身体が激しく痛むとか、目にゴミが入った時は泣くけど、泣いてもしょうがない時は泣かないな」


「あと、虫歯が痛いときもね!」ガロウが答えた。


「で」


「お前……なんで泣いてたんだ?」少し神妙な感じでグリフィンが聞いてきた。


「ごめんなさい。私にも分からなくて」


「ん?てか、なんでいちいち謝るんだ? お前」

突然問われた。


「えっ? ごめん……ん……なんでだろ……」


グリフィンはクスッと笑った。


「人間って多分」言った。


「自分の心を知らないんだよ。だから自分がなぜその行動をしてるか分からない。他の人の人生を生きてるんだよ」


「じゃあ、妖精郷の人は?」私は聞いた。


「食べて……寝て……自分の人生を生きるので精一杯だよ。他の人の人生なんて他の人に生きさせればいい」グリフィンが言った。


「人間って集団でいつも生活してるみたいだな。だから他の人の心ばっかり気になって自分の心を忘れてしまうんだよ」


私は昔のことを思い出していた。


ここに来る前の……学校での話。


「みんなあなたのことを嫌っているのよ? どうして?」

高校の女教師から言われた。

放課後私がイジメられていることについて先生に相談した。私は学校の応接室に連れて行かれた。窓から夕焼けが見えた。


私は俯いていた。


答えられなかった。


「みんなから嫌われるようなこと何かした?」教師が聞いてきた。


「わか……りません……」私は俯きながら答えた。


目の前のテーブルに夕日がさしていた。私はそれをただ見ていた。


教師が言った。


「じゃあみんながおかしいって言うの?」怒気をはらませながら女教師が聞いた。


窓から夕焼けが見えた。誰かがグラウンドで楽しそうに遊んでいた。


私は言った。

「ごめんなさい」


雨があがった。


私は涙を流していた。


「おい、どうした? また泣いたのか? 何か悪いことでも言ったか? 俺?」

グリフィンが問う。


ガロウが言った。

「どこが痛いの? お姉ちゃん」


私は泣きながら答えた。

「ごめ……ごめんなさい。分からなくて……」


空は晴れ、草木に雨の水が水滴となって輝いていた。


私達は雨上がり人間界に向かって歩いていた。


「ヤバい! 音を出すな」グリフィンが声を上げて手を上げた。

「ゴブリンの群れが近くにいる」小さな声で言う。


巨大な岩石や木々に邪魔されて中々見えない。


「ゴブリンは10匹以上の群れで動く、囲まれるとヤバい」


ゴブリンの群れなど一切見えなかった。

「えっ? どこにいるの?」グリフィンは指を指した。


その先に小さな群れが動くのを見た。身長は小柄で1メートルもなく、ゆっくりと石斧などを持ってあるいていた。中には祭司のような帽子をかぶったゴブリンもいた。


ガロウが私の体に手を置きながら言った。

「お姉ちゃん。静かにしていようね」


私はうなずいた。


「大丈夫。まだ気づかれていない。左から回り込むぞ」グリフィンが先導しゆっくりとゴブリンの群れに向かって左側に回り込むようにして移動した。


忍び足で移動する。音をたてないように。

「静かにな……見つかったら一巻の終わりだぞ」

私はうなずいた。


大きく長い木の枝をグリフィンは上に上げてどかしながら進む

「は、は、は」なんとガロウがくしゃみをしようとしている。


私は後ろにいるガロウに振り返って


ガロウの口を押さえてくしゃみを止めた。ガロウは目を丸くしてこっちを見上げている。


「クシャミはだめだよ……」私は小声で言った。


大丈夫と言う感じでガロウがピースサインをした。


クシャミが止まったのを確認して私は前に振り返りながら歩くと


巨大な木の枝に頭をぶつけた。ガツン! 「うごっ」私は後ろに倒れた。


私が頭をぶつけた木の枝は激しく揺れ大きな音を出した。多くの葉っぱが落ちた。


「オイ、大丈夫か?」グリフィンが振り返るとグリフィンも同じ枝に頭をぶつけた。「ぐおっ」また木の枝が激しく揺れ音が鳴った。


「いてててて……」私が頭を抑えながら起き上がると、グリフィンも頭を抑えている。


「グリフィン?」私は声をかけた。


「いってててて……あ……」グリフィンは音を鳴らし揺れてる枝に気付いた。


「ヤバ……気づかれたかな……」


グリフィンは私に手を差し出しながら言った。


遠くで怒声とこちらに向かってくる足音が聞こえた。


「見つかった! 逃げるぞ!」


私達は走り出した。


右側からすごい勢いでゴブリン達の群れが迫ってくる。


「ヴァーユよ! 竜巻の矢だ」グリフィンは背中に抱えていた弓を引くと矢の装填されていない弓を引絞ると、そこに空気が集中しソフトボール大くらいの小さな空気の塊の球が現れた。


「行けっ」グリフィンが弦を離すとその球がすごい勢いでゴブリン達に向かっていきゴブリンの前で巨大な竜巻になった。


「ギャッ」「グワッ」何匹か飛ばされるゴブリン達。


「今のうちに」グリフィンは走りながら言った。


すると、ゴブリンの中の祭司のような帽子をかぶったゴブリンが杖を振りかざし、何か呪文のようなものを唱えた。


すると杖に空気が集まり球ができそれが竜巻になってその空気の球を飛ばし竜巻同士がぶつかった。


そのぶつかった2つの竜巻が一つになりこちら側に戻ってきた!


「うお、あいつも魔法が使えるのか」

走りながらグリフィンは言う。


「ヴァーユよ!」

グリフィンは天高く見上げ天空目がけて弓矢を引絞った。すると弦に小さな風の鳥が産まれ、弦を離すとそれが飛び立った。それが上昇するたびにどんどん大きくなり全長3メートルほどの巨大な風の鳥になった。


「風を喰らえ!」

命令するとその風の鳥は巨大な竜巻を口から吸い取りぷくっと喉元を膨らませるとゴブリン目がけて竜巻を強烈な風にして吐き出した。


吹き飛ばされていくゴブリンたち。


「これで大丈夫だ!」


グリフィンは歩幅を緩め「フゥー」と大きなため息をついた。


グリフィンは前を見るとオヤッとした表情をした。


「ヤバ……囲まれてる。群れは一つじゃ無かったんだ」


私達は武装したゴブリンに囲まれていた。数はおおよそ40匹くらいか、何人かの弓兵は弓を引絞り、ジワリジワリと迫り、斧や剣、槍や司祭のようなゴブリンもいた。


少しずつ円を狭めてくる。


すると一匹のゴブリンの弓兵が私めがけて矢をはなってきた。矢を放たれたのは分かったが、体が動かない。まるで魅入られたように動けなかった。


バチン!


グリフィンが弓で飛んできた矢をはじいた。

「矢じりに毒が塗ってある。かすっただけで体が痺れて動けなくなる毒だ」

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