根住みの長老
グリフィンが言った。
「森の奥に住んでいる、木の根の下にずっと住んでいる長老だよ。元人間のな!」
私達は長老の住まう大樹まで行った。
それは巨大な千年樹ほどの大きさの木で一部枯れてはいるが枝には葉や花、果実なども実ってる大樹だった。
「長老ーーー!お客人だよーー」
グリフィンはそう言いながら大樹の下の巨大な洞穴に入った。
「え?ここに入るの?」と私が言うと。
「そうだよ!」とガロウが答えながら洞穴に入っていった。
薄暗い中巨大な木の根にたどり着いた。そこに見えたのは……
木の根とほとんど同化した人間だった。
その長老は木の根と同じ肌の色をしており、体そのものが木の根になっているようだった。まるで木の根から栄養を吸われているような出で立ちだった。人間のおじいちゃんが木と同化しているみたいだった。
「おう、グリフィンか久しぶりだな」
「ガロウと一緒に来たよ。こっちは人間の……」
「あ、織姫詩織と申します」
「オリヒメシオリ……人間界では聞き慣れない名前だな。それに服装も人間界のものらしくない」
私は自分の服を見ながらつまんだ。
「なんか別の世界から来たんだって。ショーリは」
「詩織だって!」私はグリフィンに向き直った。
「ゴメンゴメン。お前の名前って言いづらくて、なんだっけ?ショ……ショーーリだっけ?」
「もう、わざと言ってるでしょ」私は呆れたように言った。この世界でも名前のことでイジられるとは思わなかった。
グリフィンは楽しそうに笑っている。
「ボクはちゃんと言えるよ。シ、ヨーーリだよね」とガロウが言った。
「いや、全然違うよ!」私が言うと周囲に笑いが起こった。
ガロウは周囲を見回してなにか変なことを言ったんじゃないかという表情をしている。
笑いが収まると長老が言った。
「いずれにしても早くここを出たほうがいい。あまり長居すると出られんようになる。わしみたいになってしまう」
「えっ……」と私は驚いた表情をした。
「だから言ったじゃん。長老は元人間だって」
「そうじゃ、ここに長居しすぎてしまってな。妖精郷は楽しい。ある日自分の手足が木と同化しているのに気づいた。そしてこの有様じゃ。この森には人間を木々に変えてしまう作用があるみたいだ」
「えっ……じゃあ私も?」私は驚いた。
「おそらくはそうじゃろう」
「それに人間界と妖精郷では住んでる住民の考え方がまるで違う。人間界は社会を形成して集団で行動するが、妖精郷は基本的に集団では行動しない。みんな自由気ままに行動する」
「だから、自分のことは自分で守らないとすぐに誰かの餌になる。ここは弱肉強食の世界じゃ」
私は体が震える感じがした。
私は言った。
「じゃあ私……」
「うむ、一刻も離れた方が良いだろう」
「ただ、妖精郷と人間界の間にミッドランドが存在する。それは妖精と人間が共存する土地だ。ますはそこに行くといい」
「ミッドランドですね」
私達は長老の洞穴から出ようとした。
すると私が一番最後に出ようとすると、長老は私に声をかけた。
「もし、詩織さん?」
「はい?」
「向こうの世界から来たと言っておったね、実はわしも向こう側の世界から来たんだ」
と、長老は言った。
◇
「それじゃ早速いくか!」グリフィンは言った。
「ここから歩けば夕方までには着くだろう」
「僕も行くよグリフィン。人間界は久しぶりだから」
ガロウが言った。
するとガロウは狼の形から姿を変え、小さな人間の男の子の姿になった。
銀髪で髪は短く半裸だった。
「じゃあお姉ちゃん行こっ!」と人間の子供の姿になったガロウが声をかけてきた。
「えっ? ガ、ガロウくん?」私は思わず声が上ずった。
「そうだよ」と微笑みながらガロウは言った。
「ガロウはダイアウルフだから人間の姿になることが出来るんだ」
「でも、その半分裸んぼの格好じゃ……」
「うん。そうだね。着替えてくる!」とガロウは別のところに走り出し、服を着替えて戻ってきた。
「それじゃいくか!」
私達は人間界に向かって歩き出した。
私達は人間界に行く途中急な山道や、ぼうぼうの草が繁っている道などを歩いた。グリフィンとガロウはここの住民だからか歩くのが早く追いつくので必死だった。
途中足を滑らせて転んだりした。「痛っ!」私は膝を擦りむいた。
「何やってんだよお前、大丈夫か?」
グリフィンが聞いてきた。
「大丈夫」私は血が出ている膝そのままで歩いた。
しばらくすると小川に出た。
「休憩すっか?」
私があんまり息を切らせているからグリフィンが休憩を提案してきた。
「うん」私は答えた。
私達は小川で休憩した。
「オーーイ 喉が乾いただろ。この川の水美味しいぞ」グリフィンとガロウが二人して小川の水を飲んでいる。
ガロウは川に直接口をつけて飲んでるし、グリフィンは顔を洗いながら水を飲んでいた。
私は息を落ち着かせながら三角座りをしていた。遠くでガロウとグリフィンのはしゃぐ声が聞こえた。
私は顔を下に向けると地面の小石に水滴が一粒落ちて、小石を黒く染めた。
私は泣いていた。
涙が止まらなかった。
「お姉ちゃん大丈夫?」ガロウが声をかけてきた。
私は一瞬ガロウの顔を見上げるとまたすぐに顔を下に向けた。
「泣いてるの?」ガロウが声をかけてきた
私は俯きながら
「ごめ…っごめんなさい」と詰まらせながら声をあげた。
「どうしたの?擦りむいた傷痛かった?」
私は頭を振った。涙が止まらない。
「おーいどうした?」グリフィンがなんだか楽しそうに近づいてきた。
「え? お前どうしたの?」私に声をかける。
「ごめっ……ん……なさい」声が出てこない。
「どっか身体でも痛むか?」グリフィンも聞いてきた。
擦りむいた膝は痛かったが泣くほどではなかった。
「なんで泣くんだ泣いたってしょうがないじゃないか」とガロウが呆れたように言った。
「ごめん……なさい」私は謝った。
私の胸の中には様々なものが去来していた。それが涙となって襲いかかった。
泣いたってしょうがない。本当にそれはそうだ……だけど
すると急に空模様が悪くなり、雷が鳴った。ポツポツと雨が降り出し、次第に大きな雨になった。
「やべぇ雨だ木陰に隠れるか」グリフィンはそう言うと
私の方に微笑みかけて手を差し伸べた。「ほい」
私はその手を取って大きな木の下で雨宿りすることになった。
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