第11話 俺の予定

「タラルス様、おはようございます」

「おはよう」

「本日は、この洋服を着て下さいませ。」

そう言って小間使いは薄いエメラルドグリーンの上着を俺に渡してきた。

このやり取りは俺がモズーク王に影武者を命じられてからずっと続けてきたもの。

最初は嫌悪感しか無かったけど、今はこれが楽しみになっている。

今日、モラックはどんな服を着るんだろう…

これを着るってことは今日は外交があるのかな?誰か来るのかな?とか、服から色んな情報が読み取れて楽しい。

「タラルス様も、もうすっかり此方の人になってきましたね」

「へっ?!」

「ご気分を悪くされたら申し訳ないのですが、私はそう感じます。最初の方は私と目も合わせて貰えませんでした。ですが今のタラルス様はお変わりになられました。私共と目を合わせてくれますし、モラック様とも仲がよろしいようで…嬉しい限りです。」

「えっ…あーまぁそうですね。モラック様と一緒にいるのは凄く楽しいんですよ。俺と全然違う性格だし、好きな物も違うのに話が合うんです。一緒にいて凄く心地いいですし、。モラック様は俺より何ランクも上の人間のはずなのに俺なんかと仲良くしてくださいますし…」

「喜ばしいことでございます。では、朝食をお運び致しますね。少々お待ちくださいませ。」

そう言って小間使いは部屋から出ていった。


あーはぁーそっか。俺たち傍から見ても仲が良く見えるようになったんだ。これは良かったよか?影武者と本人が仲良いってバレていいのかな…。ま、小間使いも止める様子なかったしいいとしますか。

今日の予定はモラックは外交だって言ってた。

ってことは俺は待機だ。

外交は基本この城で行なわれる。

城の中は兵士もいるし、最新の防犯システムも完備されてる。

だからモラックが狙われる心配が無いんだ。

つまり影武者の俺の仕事は無い。

ただモラックの影武者が居ると他国にバレたら大変なことになる。

だから俺は外交の日は地下の図書館に、籠るんだ。色んな本があるから退屈はしないけど太陽の光を浴びれないのは痛い。

でも外交の次の日になると、モラックが外へ連れ出してくれるから我慢できるんだ。


「タラルス様、申し訳ありません。外交の予定が早まってしまったため、図書館へのご移動をお願い致します。お食事の方は本日分を運び入れますので図書館で摂ってくださいませ。」


うわぁぁまじか…。

もう地下行きか…。

まぁしょうがないか…。

「はい…分かりました。」



はぁぁぁやばい。

太陽見たいよぉ!草木の匂いを嗅ぎたい!鳥のさえずりを聞きたい!

ここは暗いよぉ…。

はぁ…まぁしょうがないんだけどさ…。

俺が嫌だって言ってもどうしようもならないことなんだけどさ…。


図書館は色んな種類の本が置いてあった。

幼児が読むような絵本からモラックがくれた本のワンランクくらい上の難しい本、モストン王国周辺の地図帳なんかもあった。

ま、最初にタラルス王国発展に有利そうな地形図の本や歴史本なんかは頭に入れちゃったからもうここにいる必要性は無いんだけどね。

小間使いにでも言って別室で待たせてもらうことも十分可能だ。


でも"漫画"っていう本が面白くてここに来てるんだ。

これね、すっごく面白いんだよ。

書かれた絵が喋ってるんだ。

いや、本当に喋ってるわけじゃないんだけど俺は、本当に喋っているかのように脳内再生される。

ストーリーが続いていて、読んでくうちに「あっ!あれはここに繋がるんだ。」とかそういうのが多くて面白い。

これがあれば数時間にも及ぶ半監禁状態の日々を明るく過ごせるんだ。


いやぁすごいなぁ。モストン王国は色んなものがある。さすがだなぁ。



「タラルス様、お部屋の方へお戻りくださいませ。」

小間使いが呼びに来た。


もう外交終わったんだ。今日はいつもより短めだったなぁ。


そう思い地下の図書館から部屋へ戻ると、窓の外は綺麗な夕焼け景色が広がっていた。

外がこうなってるってことは単純計算で俺は地下に9時間いたことになる。

結構経ってたんだなぁ。気づかなかった。


「タラルスくーん!明日、あそぼー!えっとね…あっ!そうだ!明日はプール入ろ!暑くなるって爺が言ってたから。」

モラックが部屋の前まで来た。


明日は遊びの日…。

よしっ!やった。今日、動かなかったから思いっきり動きたい気分だったんだ。

水泳なら全身運動…程よい感じで体を動かせるだろう。


ドアをあけモラックを招き入れた。

「どう?明日、大丈夫?」

「おう!明日はプールだろ?楽しみだなぁ。」

「よーし!じゃあ約束ね!明日はプールだぁー!」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る