第9話 秘密基地

「タラルスくーん!こっちこっち!」


俺たちは今、この前ピクニックをした公園へ来ている。

なんと今日は、俺とモラック2人だけなんだ。

護衛も爺もいない。

やっとこの城は、俺の事信用してくれたのかな…嬉しい。

そんなこんなで俺と2人きりの外出だからモラックは、はしゃいでる。

なんでも俺に見せたいものが、この公園にあるらしいのだ。

さっきから俺の手を引いて、森の奥へと案内をしてくれている。


「わかったったから、待てって!そんなに急いでどうしたんだよ?時間はいくらでもあるだろ?」

「う〜んまぁそうなんだけど…はやくタラルスくんにこれを見せたくて!」

「見せるって何を?」

「えっとね〜あっ!これ!ここだよ!」

「へっ… 」

公園の奥へと続く道を少し歩いたところにそれはあった。

「ここね、ぼくの秘密基地なんだ〜誰にも言っちゃダメだよ!ぼくとタラルスくんだけの秘密ね!」

森の奥、ちょうど木々が上手い具合に重なりそこには3畳程のスペースが出来ていた。

木が生い茂っているおかげで、屋根的なものもできていてひとつの部屋のようになっていた。

「えーうわぁ すっご!すげーな!ここ!モラックが作ったのか?それとも元からあった?」

「そうだよ!ここ元からこうなってたんだ。それをね、ぼくが発見したんだよ。すごいでしょ!ここはね、ぼくの避難場所なんだよ。ここなら誰にも見つからないからね。」

「えっ…避難場所?ってどういうことだ…?」

「あっいやいや!違う違う!忘れて!ねっ?ほら!早くあそぼ!」


あっ…そっか。

モラックは、俺に隠してることがあるんだろう…多分絶対。

だけど俺には教えてくれない。

話せないのか、話さないのか…。

話して欲しい、俺はモラックを信じたい。

モズーク王のことは信じられない。この国の人々も信用出来ない。

だけどなんでだろう…。

モラックのことは信じてみたい。

だけど、モラックが俺の事信用してくれてないならしょうがない。

今、こんなこと気にしてたらいけない。

よしっ気持ち切り替えよう。

いつか、モラックから話してくれるだろう。

俺は信じてる。

頼む…モラック。


「よしっ!遊ぶか!」

「うんっ!」

「じゃあ今日はここで本読もー!」

2人で、秘密基地の中へはいると、そこは大量の本が積まれ、まるで倉庫のようになっていた。

「えっ…これって…」

俺の目に止まったのは10冊の新品に近い状態の本…。

その中には、俺の城にもあった王城御用達の本の新刊も数冊あった。

「あっそれ?それね、ぼくの本だよ。でもその辺はもう読んじゃったやつだからなぁ。欲しかったらあげるよ。」

「んで、今日はこっちにしようよ!この本ならタラルスくんも読めるでしょ?」

モラックが差し出してくれたのは、いかにも幼児向けの絵本。

描かれている絵の中からお題の動物を探し出す、人気シリーズのひとつだ。


俺の事を気遣ってくれたのは分かってる。

モラックに悪気が無いことも…。

だけど、だけどなぁこの本は傷つく。

俺、こんなレベルと思われてんだなぁ。

だけど、モラックの方が位は上…。

逆らっちゃいけない。

「おう!これ、楽しいよな!よしっ!やろう。」



30分後…

「ふーたのしかったぁ。久しぶりにやるとすごくたのしーね!」

「うん、そーだな。」

「あっそうだ。タラルスくん!喉乾いてない?ぼく、お茶持ってくるよ!」

「えっ…いや、それは俺が行くよ。俺が持ってくる。」

「いいの、いいの。タラルスくんは座ってて!すぐ戻ってくるから。」

「えっ…いや、でも…。」

「はいっじゃあいってきまーす!」

「あっ…ちょっ…」

~パタパタパタ~

あー行っちゃった。えーどうしよ。

とりあえず本片付けて、スペース空けとくか。

にしても、すごいなぁ。この本たち。

ここにあるやつめっちゃ分厚いよ?

これ、3か月前に出たばっかなんだけど…。

字も他国字だし…旧字体だし…。

俺だったら1冊読むのに1年は余裕でかかるよ?

んで、ここにはそんな本が10冊ある。

モラック、これ全て読んだの…?

ヤバくね…?

父さんだって1冊読むのに4か月前はかかるよ?多分今頃、やっと1冊読み終わった頃じゃないかな…。

やっぱ凄いんだなぁ。モラックってやべぇ。

すごい。かっこいいなぁ。

こんなの読めるんだから、そりゃ頭いいよね。

そりゃ勉強もあんなスピードで進むよね。

あーすごいなぁ。かっこいいなぁ。

俺、なれるのかなぁ。こんな奴の影武者なんかに…。

絶対釣り合わなくて、すぐ見破られちゃう気がするんだけど…。

俺、頑張んなきゃ。頑張って、モラックみたいになんなきゃ。

そしたら、モラックが笑顔になってくれるかも。

俺の事、褒めてくれるかも。

モラックみたいになれれば、父さんたちも俺の事、褒めてくれるはずだ。

頑張ろう、頑張ろう。

俺はやればできる子、やれば出来るんだ。


「タラルスくーん!持ってきたよ〜!」

「おかえり!ありがとう!」

モラックは手にお盆を持ち、その上にカップケーキとティーカップを乗せていた。

「この、カップケーキ美味しいんだよ!一緒に食べよ!」

「あ、ありがとう」

王子にこんなことさせていいのか…?

俺、後で怒られないかな…。

怖い、怖い。

やだなぁ。


「ん!じゃあいただきまーす!」

「い、いただきます。」


モグ…ん!うまっ!

「えっ…美味しい!これ、美味しい!」

「ふふっでしょ〜これ、ぼくの取っておきなの!」

「そうなんだ!めっちゃ美味しいな!これ!」

カップケーキは、ほんのりりんごの味がして、シャキシャキ食感も残っている。

とにかくめっちゃ美味しかった。

「あっそうそう。さっきも言ったけど、ここにある本、タラルスくん読む?僕もう読んじゃったからさ、欲しいのあったらあげるよ」

「ほんとか?!貰っていいの?!じゃあ欲しいな。」

「いいよ〜はいっ!どーぞ!」

「ありがとう!」

こうして俺はモラックに本のお下がりを貰った。


よしっ!頑張ろう。

この本をスラスラ読めるようになって、ちょっとでもモラックのようになれるように。


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