第6話 ピクニック

……遠いっ!

え、どこまで行くの?

城の敷地内にある公園って言ってたよね…?

城を出てもうかれこれ15分は歩いてるぞ?

モラック様はウキウキ、鼻歌歌いながら歩いている。

さっきまでのモジモジはどこいった?ってぐらい元気いっぱいだ。

モラック様って外に出ると元気になるタイプの人なのかな…?

爺はそんなモラック様の数歩後ろを歩いている。

『まだ着かないんですか』なんて事、どっちにも聞けない…。

あぁダルいなぁ。やだなぁ。

俺、何してんだろ…。

早いとこ情報盗んでタスクラ王国に戻りたいなぁ。


モラック様に誘われ、ピクニックに行くことになった俺は今、モラック様の隣を歩いている。

あの後、「ではお着替え致しましょう。」なんて言って小間使い達が新しい服を持ってきたんだ。

邪魔っけな装飾品が着いていない、動きやすい服…だけどやっぱり生地は上等でさすがだなぁって思った。

そうして俺とモラック様は服だけは、そっくりな格好になったんだ。

モラック様は「おそろいだぁ!やったぁ!」って喜んでたけど、これって影武者生活の始まりだよな…。だってそうでもしなきゃこんな全てが同じ服なんて用意するはずが無い。

あぁもう始まっちゃったのか…。

後戻りできないよなぁ。

あぁ嫌だなぁ。


「タラルス君!着いたよぉ〜」

「……」

「…タラルス君?だ、だいじょうぶ?つかれちゃった?」

はっ…。

いけない、いけない。

考え込んでしまっていた。

「あっあぁもう着いたんですか。結構歩くんですね。大丈夫です。疲れてはいませんよ。ちょっと考え事しちゃって…」

「あ、そっか。うん、そうなんだよけっこう歩くんだよ。だってね、このお城広いもん。」

「ですね…。ここ、広いですもんね。あ、じゃあ何かしましょうか。ほら、せっかく公園に来たんですし…。」

「そーだね。えっとね、まずはご飯食べよ?爺が持ってきてくれたやつあるから…。外でご飯食べるとすんごい美味しいよ。」

「あっ…はい。了解です。では、ご飯食べましょうか…」

「うん!」


「んじゃあ爺!シートひいて!」

「承知致しました。」


爺と喋るとモラック様は元気になる…。

ははっ。あーそっか。

俺のことなんて、信用できないもんなぁ。

そっかモラック様にも警戒されちゃってるのか。

ははっ…。あーもういいや。

そっちがその気なら俺だってお前らのこと信用しない。してやるもんか。


モラック様が受け取った弁当はどう見ても5人分はある大きな弁当。

でけーなぁ。これ、俺たち2人で食べるのか?

絶対余るだろ…。


「じゃあ食べよっか…。」

「お待ちください!モラック様。ここに、雑草が生えています。こんな所で召し上がってはなりませぬ。今しばらくお待ちください。私が、全ての雑草を処理致します。」


爺の目線の先を見ると、クローバー畑が広がり、シロツメクサの花も風に揺れていた。


雑草…?

ざっそう…。

あーこれのこと?

これ、雑草なんだ…。

俺にはとても綺麗な花に見えるのにな…。

そっか、この人たちにとってはこれは雑草なんだ。

そっか…。


「雑草…?えっねぇ爺?今、なんて言った?」


ん…?えっ…ひぇ?!モラック様、声違くない?

なんか怖いよ?

えっ…ねぇどうした?


「わ、私は、この雑草を処理すると申し上げましたっっ。」

「これ…雑草なんかじゃないよ?この子達にはちゃんと名前がある。クローバーに、シロツメクサ。そんな素敵な名前があるのに雑草なんて1括りの名前を呼んじゃダメでしょ?この子達が可哀想だ。」

「も、申し訳ございませんでしたっ。」

「謝るのはぼくにじゃないよね…?」

「も、申し訳ございませんでしたっ。クローバー様にシロツメクサ様っ。」

「うん!そうだよね。よく出来ました〜。じゃあ爺、もう下がっていいよ?このあとは、ぼくとタラルス君だけで楽しむから!」

「承知致しました。」


爺はスーッと空気のように城へ戻っていった。

「さ、タラルスくん食べようか。」

「はいっ。」


弁当の中身はシンプルで食べやすかった。

分厚い卵のホットサンドに、ベーコンのカリカリ焼き…どれもこれも絶品だった。


それにしても、さっきはびっくりしたし、ちょっと怖かったけどモラック様って良い奴なんだなぁ。

まさかこんな所に草木の名前を知る奴がいるとは思わなかった。

なんか嬉しいな。

こんな発展してる国でも自然のこと知ってくれてる人は知ってくれているんだ。


「さっきはごめんね…びっくりしたでしょ…?」


さっき…あの爺に怒ってたことだよな…?


「いえ、確かに少し驚きましたが、モラック様が植物に対しお優しい心を持っているとしれてとても良い経験もなりました。」

「そう?ありがとう!そう言って貰えるとすんごいうれしいんだぁ。」

「あっそうそう!タラルスくんってぼくに敬語使ってるよね?それやめて〜!年はタラルスくんの方が上だし、それなのに敬語使うっておかしいでしょ?」

「いや、それは…私と、モラック様では立場がまるで違いますので…」


敬語なしはダメだ。

俺とモラック様はそんな風に呼びあえる関係では無いんだから。


「いいの!ぼくがいいって言ってるんだからOKなの!もし心配ならぼくがパパに言ってあげるからさ!ぼく、友達が欲しいんだよ…。だからさ、ぼくの友達になってよ。」


いいの!って…。

子供かよ…。

でも…ここで断るとあとが怖いし…

かと言ってモラック様に敬語使わないと、周りの視線が怖いし…。

うーん、えっと…あっそうだ。

「わかりました。では、モラック様のお友達になりましょう。私は今からモラック様のお友達です。」

「ほんと?!」

「しかし、敬語を省略するのは2人きりの時のみです。」

「え…なんで?」

「正確に言えば、爺や小間使いにバレないように友達生活を送るんです。その方が、特別な友達という感じが出て楽しめると思うんです。その代わり、2人の時は敬語も、全てなし。2人は対等な関係になります。どうです?私とやってみませんか?秘密の友達ごっこを…!」

「たのしそう!いいね!それやろう!」


ふーよかった。話に乗ってくれてよかったぁ。

これならバレないしな。めんどくなったらバレそうだから〜って友達(仮)を辞めればいいんだ。あー我ながら素晴らしいアイデア!

さすが俺!


「じゃあ今日からよろしくね!タラルスくん!」

「あぁよろしく!モラック!」


こうして俺とモラックは、ひとつの秘密を抱えることになった。



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