第3話 夕食会

荷解きを終え、何もすることが無くなった時、俺の様子を見張っていたかのようにちょうどよく、小間使いが部屋をノックした。

「タラルス様、こちらにお着替え下さいませ。」

そう言って服一式を残して小間使いは下がっていった。

えっ…?俺これから夕飯だよね…?

なのに着替えなきゃなの…?

渡された服を見るとそれはそれは豪華な服だった。


キラキラした糸、見るからに高級そうな生地で作られた上着に、手触りがとてつもなく良いズボン。

こんなの見たことない。

こんな優しい手触りの生地って存在してるんだ。

はへー。あーすごいなぁ。

こんな服を俺に与えられるほど、ここはお金を持ってるんだ。

こんな服を作れるくらい技術も発展してるんだなぁ。すごいなぁ。

ってこれ絶対汚しちゃダメだよね…。

汚したりなんてして国王達の逆鱗に触れて戦争開始!!とかなったらねぇ…ヤバイよね…。

汚さないよう、気をつけないと。


でもこれ貰えたって考えていいのかな?

だって他人が着たようなものもう一度着るってほどここ貧乏じゃないよね。

多分これ俺にくれたって事だよね。

だったら、これタスクラ王国に持って帰って、参考にして類似品とか作れたらいいなぁ。

そしたらタスクラ王国も、もっと発展出来るよね…?


服は特別な構造をしてる訳でもなく、俺でも難なく1人できることが出来た。


あー良かった。コルセットとかみたいに誰かの助けが必要な服なら小間使い呼ばなきゃだもんね。


「タラルス様、ご支度は、お済みになられましたか?」

「あっ…はい。」

「ではご夕食会場の方へご案内致します。こちらへおいで下さいませ。」

「わかりました…。」


俺が通されたのは、またも大きな部屋。

エレベーターで1階に下がった先の1番奥にある部屋だった。

部屋の印象は言うまでもなく広い…それだけだ。


うわっ広いなぁ。ここにタラルス城2つは入るんじゃない?うわぁやばいなぁ。


夕食会場と通されたその部屋には、高そうな銀食器に金で出来た窓枠…そんなものが数惜しみなく置かれていた。

あの食器ひとつあれば3年は遊べるよな…やっぱ凄いなぁ。さすがモストン王国。

そして部屋の中央に大人10人は簡単に座れてしまいそうな大きな机。

机は木目で部屋の雰囲気からは浮いていたが、それがまた味となり違和感は無かった。

まるで絵本の世界の王様のお城みたいだ。

すごいなぁ。本当にこんな生活してる人がいたんだ。


「タラルス様、こちらにおかげになってお待ちください。」

「はい。わかりました。」

小間使いの言う通り、大きな机の端にあった椅子に腰を掛けた。

椅子も豪華で、めっちゃ座り心地がよかった。


待っているとモストン王国の現王、その妻、続けてその息子が部屋へ入ってきた。

てっきりみんな椅子に座るもんだと思ってたから座っていたのに、国王は俺の元へ歩いてきたんだ。

だから、椅子から転げ落ちる勢いで降りて、慌てて膝まづいた。

自分より位の高い人の前では相手が”よし”と言うまで、頭を上げてはらない…。

これは父さんの教えだ。

なのに俺はそれを守れなかった。

自分を責めた。

なんで?なんでなんで?!ちょっと考えれば分かったはず。今日は夕食会なんだから国王も、王子達もみんな来るって。

なんで椅子なんかに座ってたんだ!!

あぁどうしよう。やっちゃった。もう取り返しはつかない。

ガタガタと震えながら、怯えていると頭上から明るいけど力強い国王の声がした。

「やぁ!君はタラルス君だね?初めまして。伏せてないで、顔を上げてくれよ。私はまだそんなことをされるような身分じゃない。」


へっ…?怒ってない…?


バッと顔を上げるとそこには満面の笑みを浮かべた国王がいた。

「私はこの国、モストン王国の王モズークだよ。遠いところからご苦労だった。出会えたことを光栄に思うよ。さぁ今日は無礼講だ!好きなだけ食べて飲んで楽しんで、タスクラ王国の事について色々と教えてくれ!」

「はっ…了解致しました。」

「ははっ。そんなに固くならないでおくれ。私は国王ではあるがそれ以前に1人の人間だ。今日は私と家族、そして君と対等な立場で笑い合いたいんだよ。だからそんなに固くならずにね。」

「分かり…ました。」

「うん!その調子!いい感じだね。さぁ今日は楽しい楽しい夕食会だ!その前に自己紹介が先かな?えぇっとさっき言った通り私は国王のモズーク、こっちが妻のミカ、そして息子のモラックだよ。」

紹介をされ、後ろに立っていたミカと、モラックはぺこりと頭を下げた。

「君の名前は、タラルス君…だろ?」

モズーク王は笑みを浮かべて俺に問いかけた。

「はいっ私は、タスクラ王国第1皇子タラルスでございます。この度はご招待頂き誠にありがとうございます。私はタラルス王国とモストン王国の友好を深められるよう勤めていきたいと考えております。どうぞよろしくお願い致します。」

そう、胸に手を当て答えた。

「ははっ。タラルス王国とモストン王国の友好関係を深める…か。いいじゃないか!考えが新しい!これは、楽しそうな未来が見えてくるぞ。」

そう言って上機嫌?になったモズーク王が席に着いたタイミングで夕食会は始まった。


料理は前菜から綺麗な野菜が使われ、メインディッシュには魚と肉両方がでてきた。

しかもしかも!なんと!デザートまであったんだ。

びっくりしたよ。

だってタラスラ王国は万年金欠の貧乏国家。

自作農をやってるったって、こんな豪華な夕食は指で数えるくらいしか食べたことがない。

しかも、野菜がめっちゃ綺麗だったことに驚いた。ピカッピカのきれーな野菜だったんだ。

だって野菜なんだから、普通汚れのひとつくらいあるだろ?

どんなに洗っても落ちない汚れが。

キャベツに穴があいてしまってるとか、じゃがいもの芽が出てるとか変色してしまった人参とか…。

それがひとつもなかったんだ。

凄いなぁ。モストン王国は、農作業技術も1歩進んでるんだなぁ。いや、1歩どころか10歩ぐらい進んでるか…。

凄いなぁ。


「タラルス君、どうだったかね?口にあったか?」

「あっはい。とても美味しく頂けました。ありがとうございました。」

「そうか。よかった。」

「さぁ今日はもう遅い。部屋に戻りなさい。そしてまた明日今回、君を受けいれた理由を話そうじゃないか。」

「わかりました。」

「よしっ。ではもうおやすみ。いい夢を。」

そう言ってモズーク王、ミカ様、モラック様は部屋を出ていってしまった。

「おやすみなさいませ!!」

モズーク王たちの背中に向かってそう言うと、モズーク王は手を振って答えてくれた。


部屋には俺1人となった。

はー、疲れたぁ。

精神疲労やばいなぁ。

あの王様何考えてるんだろうな。なんか上手く言えないんだけど絶対隠してることある目してんだよなぁ。

怖い、怖い。

俺に関係ない事だと良いんだけどな。

ってかミカ様とモラック様一言も喋ってなかったな…。

あれが普通なのかな?

食事ってみんなでワイワイしながら食べるもんじゃなかったけ?

うーん。

まっいっか。

今は自分が大事だ。

他のこと気にしてられない。


んじゃ部屋に戻って明日に備えて寝るとしますか!

なんか明日、重要な話がある的なこと言ってたしね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る