第18話 離れて…

 あれほど頻繁に、やりとりしていたメールの回数も徐々に減っていった。


 彼女のメールの返信が途切れるということは、他の男、あるいは客と会っているときだと知ったから、ソレを遠ざけるようになった。

 もとより人付き合いの下手な僕に知り合いは少ない。

 今までは、人と会うことが苦痛ではなかった。

 それが金に裏打ちされた安い自信だと理解してから、人と会うのが辛くなった。

 そう、僕は他人を見下しながら会っていたのだ。

 高い服、時計、買い物…その行動すべてが見せ付けるためだったと知った。

 人に好かれるわけもない。


 レストランで食事するより、好きな人と定食屋で食事していた方が楽しかった…。

 僕は過去を振り返るばかりで、人を遠ざけた。


 唯一、会うのは彼女だけ。

 依存していたのかもしれない。


「もう僕にお金なんかないんだよ…」


 ある日、彼女にそう告げた。

 金が無くなれば彼女は僕に用事などないはずだから。

「でも、時々でも会いたいよ」


 そう言った彼女が愛おしくて…同時に憎くもあった。

 必要のない買い物に出費して、誰とでも重ねる唇を特別だとは思えるはずもない。


 何のために?


 僕は自分の中に何か価値を見出そうと藻掻いた。

 新聞記者をやったり、小説を書いたりもした。

 人と違う価値が欲しいと願った。


 彼女の事もそうだったのかもしれない。

 風俗嬢を恋人にする、その価値が欲しいだけなのかもしれない。


 それだけのこと…そう思えれば、どんなにか楽だろうに。


 誰とでも重ねる唇を愛おしいと思ってしまう。

 彼女にとっては、何の価値もないキスも僕には特別なものだった。


 彼女の奇行も言動も、ムカつきながらも愛おしい…。


 僕は…バカだ。


 死ぬ勇気があれば、死んでいた。

 僕には未練など、何もない。

 元より、空っぽの人生なのだ、未練などあるはずもない。

 死ねないのは、ただ勇気がない臆病者だからだ。


 だから人の死が羨ましい。


 殺して貰えたんだ…死んでしまったんだ…いいなぁ。


 きっと不謹慎だと解っている。

 だけど本音ではある。


 何度、思っただろう…

 いや、いつも思っている。

 コレで最後にしよう。

 彼女に会うときは、いつも思っている。


 もう終わりに…コレで最後に…と。


 それでも考えない日はない。

 想わない日もない。


 会わなければよかった。


 あの吹雪の夜…あの夜が、何年も僕を苦しめることになった。




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