第14話 不平等

 彼女は旦那とは別れない…そんなことは解っていた。

 その立場の違い、僕は待つだけの時間を過ごす様になっていた。

 彼女からのメールを待つ、電話を待つ、彼女がアパートに来るのを待つ…

 待つ…待つ…待つ…

 彼女の気まぐれで逢える、それだけの空虚な時間と日々は、僕をイラつかせた。

 会いたいから、自分の予定を入れない、待つとは自分を削ることだ。

 少しづつ…確実に、僕の中で何かが変わっていった。

「桜雪さん、付き合っている人いるんですか?」

「ん、なんで?」

「いや…そういう話しないですよね」

 時折、そんなことを聞かれることもある。

 どう答えていいのか僕は、しだいに嘘を吐くようになる。

「いる」

「いない」

 の回答は聞かれた相手による。

 自分でも、よくわからなくなっていた。

 恋人ではないのだから。

 僕は、架空の彼女を想像して話すことにした。

 エピソードは過去のエピソードを話す。


 不倫とは『嘘』を吐き続けることなのだ…


 僕は、その自分の嘘にストレスを感じていた。

 それでも彼女のために、僕は…

 引き換え彼女は、僕との関係を友人に話してしまう。

「○○さんと親しくなってね、それで桜雪のこと話したの、大丈夫だよね」

(大丈夫なわけないだろ…)

 僕は、次第に彼女の行動や言動、それが普通ではないと感じ始めた。

 隠したい僕と晒したい彼女、それが、どういう結果を招くのか?

 彼女は理解できていないようだった。

 独身の僕と既婚者の彼女、明らかにリスクは彼女の方が大きいのだ。

 彼女は、僕に会うことが重要ではないのだ。

 人が付き合いにくい僕が、自分にだけ優しいという特別感が欲しかっただけ…そんな気がしていた。


 僕はそれなりに彼女に惹かれていたし、僕自身も会社で一番美人だと言われていた人妻を自分のものにしたという優越感はあった。

 互いに、惹かれていたものが同じ…それが一致した結果の不倫。


 きっと愛情とは違う。


 だから、彼女は、僕に会うことは優先事項ではなかったのだ。

 どこかに行くときに誘う程度の男。

 大切なのは、不倫をしているという事実だけ、そこに会いたいなどという気持ちはないのだ。


「きっと愛じゃなかった…」

 気付いた時には、僕の手の中には何も残っていなかった…。


 空っぽの愛。


 形にするなら、淫靡な空箱…品の無い色、軽い器、中身なんて何もない。


「そう…何も無かったんだ…」

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