第12話 薄い壁
元々、僕には好奇心が無い。
全てに無関心で、何にも興味を示さない。
子供頃から、全てを諦めていたように思う。
貧乏な家に産まれ、両親も親戚も仲は悪い、家族、親戚の陰口ばかりの中で育った。
ただひたすらに本を読んで過ごした。
化学、オカルト、UMA、SF、伝記、ファンタジー、色んな本を読んだ。
大人になると、それらが会話で役立つと知った。
誰と会話しても、途切れることなく会話を進められた。
会話には緩急が必要で、経験を踏んでその強弱を学んだ。
言葉で人を傷つけた。
言葉で人を欺いた。
言葉で人を動かせると知った。
子供の頃に、コレを学べば人生も違ったものになったのだろう…。
僕は高校を卒業してから別の僕になったような気がする。
モテるなどということはないが、好意を拒まれることは少なかった。
人妻だって…その容姿に惹かれただけだと思っていた。
好奇心が強くなっていただけ…
その好奇心を彼女は満たしてくれた。
彼女は僕を連れて、どこへでも行った。
人妻とは思えぬ時間帯でも彼女は僕を連れ出した。
僕の知識は頭の中だけ…彼女は僕と違い身体で感じるタイプ、アクティブに動く。
見た目に反してアウトドア志向だった。
僕は彼女を通して色んな物に触れ、色んな事を学んだ。
見た目は、おしとやかな容姿、和装が似合いそうな美人、それを自覚している。
ゆえに、人ごみを嫌わない。
人目を気にするのはスリルであり、不倫を隠そうとはしない、少し警戒心が薄いのだ。
毎週のように僕をどこかへ連れ出す。
遠出ならまだしも、地元でも、あまり気にした様子は無かった。
当然、会社でも…自分の仲のいい友達を誘って、僕と出かける。
噂がたっても仕方ない。
「仲がいいだけだよ~」
そんなことを言いながら、それだけじゃないんだよという表情を見せる。
僕は心のどこかで、少しだけ彼女の行動を嫌悪していた。
ある日、
「前に会社にいた○○さん覚えてる?」
「あぁ…何度か話したことはあるけど」
「彼女も不倫しているんだって、それでね、お互いのパートナーと4人で飲まないってことになったの」
正気か?
と思った。
当時の僕は所得も良かったので、400万程度の慰謝料を払えば終わることだと思っていたが、彼女は失う物が多すぎる。
その彼女の方が警戒心が薄いのだ。
彼女の心の闇が少しずつ見えてきたような気がしていた。
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