人妻の章

第11話 年上で人妻で

「桜雪、私を好きなら、彼女とはケジメをつけて…」

 人妻である彼女は、僕の曖昧な態度に苛立つことがあった。

 自分だって…旦那とは別れてないだろ。

 そうも思ったが、それは口に出せなかった。

 僕より10歳年上、美意識が高く、自身の容姿に自信を持っている。

 前の彼女と違って、アクティブな性格。

 休みの日には外出する、それまで家に閉じこもることが多かった僕には刺激的だった。

 彼女には色々な事を教えてもらえた気がする。

 彼女と付き合うことがなければ、決して自分ではやらなかったであろうことも多く経験できた。

 それは僕にとって世界が広がったようで、彼女に誘われるままに僕はいろんな場所へ行き、色んなものに触れた。

 料理が得意、ちょっとした服なら自分で作るほど器用、容姿もいい。

 およそ欠点がないような女性だった。

 旦那も稼ぎが悪いわけではない、自分も働いている。

 彼女は、きっと色んなものを持て余していたのだと思う。

 不倫も2度目だと言っていた。

 僕に興味を持ったのも、きっと刺激を求めたんだと思う。

 自分で刺激を求めていく彼女は、その後ろめたさや、背徳感を愉しんでいるようなところがあり、僕は時々、その大胆な行動に驚かされた。

 女として扱われることを求めていた、そんな風に僕には見えた。

 妻でも母でもない、女として…

 彼女の美しさに惹かれた、それは事実だっただろう。

 だけど、僕は彼女の美しさより、その貪欲さに惹かれたのかもしれない。


 ずっと閉じこもったような生活を続けていた僕に、彼女は色々な場所で、様々な物を見せてくれた。

 彼女と付き合わなければ、僕の世界は狭いままだったのだろう。

 小説を投稿するなんて考えもしなかったはずだ。


 不倫という関係でなければ、もっと上手に付き合えた。


 最初は、僕のアパートで隠れるように会うことも楽しんでいたはずだ。

 でも彼女は、次の刺激を…そんな性格、会社でも僕の靴置き場にお菓子を置いたり、すれ違う時に手を寄せてきたりと、スリルを楽しむような彼女は、どこか魔を帯びているように魅力的でもあった。


 料理も好きで、僕も彼女に習って色々と料理を覚え、自分でも作る様になった。

「桜雪は元々、器用だし、味覚もちゃんとしてるから、美味しい物を作れるわよ」


 スーパーなんて、お菓子以外買ったことが無い僕が、野菜を買ったり、調味料を買ったり、彼女に染まっていくのが自分で解っていた。


 僕は女性を通じて物を覚える…彼女と付き合い過去を振り返れば、そんな気がした。

 つまり…僕には何もない。


「桜雪は、不思議な感じ…雰囲気が好き…愛している」


 違うんだ…きっと空っぽなんだ。

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