第10話 災難と災厄
仕事は順調だった。
僕は会社でも特別だった…いやそう思っていた。
自由に振る舞い、誰からも指図されなくなっていた。
色々な会議に出て、仕事が出来ていると思っていた。
そんなときに震災にあい…僕は仮設住宅で暮らし始めた。
ほとんどの家財を彼女の家に置かせてもらい、狭い仮設住宅には生活に必要なものだけを置いていた。
彼女は仮設住宅に来たことは無く、行きたくもないと言っていた。
仕事も忙しく、徐々に隣の市に住む彼女に会いに行く回数は減っていった。
メールだけは毎日、何通もやりとりしていた。
なんだか仮設住宅に住む僕は、どこか惨めな気持ちで過ごしていたのだが、そんな僕に声を掛けてきた女性がいた。
社内でも1番美人だと言われていた人妻だった。
雨の日にたまたま、会社近くのポストの前で立ち話した…話が弾んで、30分ほど話していたと思う。
「桜雪さん、皆、怖いって言うけど…話すと面白い人だよね」
人妻は、その後、よく話かけてくるようになった。
メールのアドレスを交換すると、深夜までメールをやりとりするようになり、ある夜、出張先で足を痛めた、そんなメールを送ると駅に人妻の姿があった。
仮設住宅まで送ってもらって…僕は人妻を抱いた。
一方で僕は、彼女のメール返信が滞るようになっていた。
元々、器用な方じゃない…。
『僕はアナタを裏切りました、きっと僕のこれからの人生はロクなものじゃないでしょう』
僕は彼女に別れのメールを送った。
そのことを人妻に伝えると、とても喜んでいた。
いつか、自分も旦那と別れる、そしたら一緒になろうと…
そんな日が来ることは無い。
僕は解っていたんだ。
選択を間違えたことを…だけど後ろに戻ることなど出来なかった。
彼女は、きっと…泣いている。
人妻が、笑う倍以上の悲しみを受けている。
今でも…僕は…
だから、この日から、今まで、僕は幸せを望まない。
今、僕が死を選ばないのは…今が辛いから。
彼女を裏切った僕が受ける、当然の仕打ちだと認識できるから…
だから…このままでいいと、今を受け入れる。
この惨めな今を…。
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