第7話 愛が情へ
僕は仕事を辞めた。
彼女との交際がバレ、社長からの嫌がらせが増えた。
彼女は社長のお気に入りだったから…。
僕は店長から、副店長へ降格させられた。
出入りしている営業や業者からは「なぜ桜雪さんが?」そればかり…。
言われるのも、聞かれるのも、そんな状況に嫌気が差していた。
「あれだけの実績を出したアナタがなぜ?」
正直、他の店長からも、よく思われてもいなかったから
「社長の女に手を出した」
そんな風に社内で言われていることは知っていた。
だから…それだけではないのだが、彼女も辛そうだったし…僕は辞表を出した。
「なんだ、店長じゃなくなったらヘソ曲げたのか?」
受け取った社長は楽しそうに僕を罵った。
「いえ…バカに使われることに嫌気が差しただけです」
そう言って、社長室を出た。
30歳を過ぎて無職になった。
パソコンを習いに行って、そのまま専門学校の講師の職に就くころに彼女も会社を辞めた。
何も言わなかったが、きっと居づらかったのだと思う。
この頃から、僕たちの会話は変化していった。
なにがというわけではないのだが…環境が変わったということなのだろう。
休みの日には彼女と職安に行った、だが彼女は50歳近い、正社員としての雇用は難しくバイトを転々とすることになった。
僕も正規の講師ではない、年契約の契約社員みたいなものだ。
「桜雪先生、来年から担任を任せたいんですよ」
校長からそう持ち掛けられたのだが、僕は講師に本腰を入れる気になれないまま、その話を断り、退職した。
時折、僕たちは同じ日雇いのバイトをしたりしながら彼女の家で暮らしていた。
そんな頃に、彼女の娘が猫を貰ってきた。
どこか不安しか見えてなかった日々に、子猫は希望だった。
猫の世話に追われながら、日々が過ぎていく、その後も猫を貰い続けて4匹を買う頃には僕は就職をして週末だけ彼女の家で過ごすようになっていた。
「次はいつ来る?」
「また来週の金曜に来るよ」
「トラちゃん待ってるから、ちゃんと来てよ」
猫がいるから…彼女はしきりに、猫を会話に出すようになっていた。
今思えば、終末しか来ない僕に不安があったのだと思う。
年齢の差は埋まらない…。
「お金さえあれば…家から一歩も出したくない」
そんなことを口にするほど、彼女は不安だったのだ。
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