年上の女性の章
第6話 ホントに来たんだ
彼女は美人だった。
背が高く、会社に出入りする男によく口説かれていた。
バツイチだと知っていた…
「好き」というより「興味」だったのかもしれない。
最初は…
18歳も歳が違えば、相手にもされない当然だろう。
仕事中の他愛もないやりとりから、食事に誘ってみた。
受けるわけない…そう思っていたが、意外にも「いいよ」という軽い返事だった。
休みを合わせて、当日…待ち合わせの場所に行くと、彼女はジャージにサンダル履きで現れた。
「嘘だろ…」
僕の車を見つけると、ゆっくりと歩いてくる。
「ホントに来たんだ?」
「そりゃ来るでしょ…」
「冗談だと思ってた」
「そうなの? 楽しみにしてたんだけどね」
「楽しみ?アタシと食事に行くことが? 変わってるとは思ってたけど…ホント変わってるんだね…じゃあ、着替えてくるから…待ってて」
彼女の家は、すぐ近くらしい。
20分ほどで彼女は戻ってきた。
何を話したか…何を食べたか…覚えていない。
それから何度か食事に行って…僕のアパートへ…僕は彼女を抱いた。
「これで…終わりでもいいんだよ…」
「どういうこと?」
「歳も違うし…子供も2人いるんだよ…」
「だから好きだとは言わない…だけど…好きになったから…」
僕はきっと…幸せだったんだと…今は思う。
この彼女と過ごした時間が…何よりも幸せな時だったと思う。
彼女は年相応の女性でありながら子供のような振る舞いも見せた。
学のない僕に資格を取れと言ったり、一緒に行く夕食の買い物ではしゃいだりもした。
ベッドの隅で眠ることが癖になっている僕が自分に背を向けていることを嫌い、僕を抱きしめるように眠った。
僕の誕生日に、僕が眠っていると思って彼女が呟いた言葉が今も耳に残る。
「早く追いつけ…」
僕の誕生日だけ18歳の年の差が17歳になるから…
追いつくはずもないのに…
彼女は、僕にとって『母』でもあり『女』でもあった。
彼女が嫌がるから携帯から女友達の番号を全て消した。
彼女が嫌がるから煙草も止めた。
色々な本を読むようになった。
パソコンも彼女に勧められたから覚えた。
今の僕のベースは彼女によって創られている。
彼女と出会わなければ、僕は何もできない中年になっていた。
全てが順調に回っていた。
必要な人だった。
僕は彼女というフィルターを通して社会に触れていた。
常識が欠落していた僕に、彼女は普通を教えてくれたのだ。
週の半分くらいを彼女の家で過ごすようになっていた。
そんな頃に、彼女の娘が猫を貰ってきた。
いつからか…僕たちは猫を介して会話するようになっていた。
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