第4話 価値観

 彼女は相変わらず僕のアパートへやってきた。

 まぁ24時間、アパートで過ごすだけの日々は退屈で、社会に取り残されているような空虚感が僕を太陽から遠ざけた。

 怖かった…

 深夜にコンビニで食料を買ってレンタルビデオを借りてくる。

 彼女のバイトが終わるのを待つ…数時間一緒に過ごす、それだけの毎日だ。

「仕事探さないの?」

「あぁ職安に明日行くよ…」

「そう…」

 そんな会話が続く…

 彼女は僕のアパートに大きなジグソーパズルを持ち込んだ。

 会話は減っていった。

 彼女は僕に結婚してなどとは言わなくなっていた。

 SEXのときも…黙って僕の部屋でパチパチとパズルをはめ込んでいる。

 僕も、もう何をしていても楽しくはなくなっていた。

 TVを観ていても…ビデオを観ていても…少しでも社会に触れることを恐れた。

 現実を見たくなかった。

 ただ…何も考えたくないから…僕は彼女を抱き続けた。

「今日…生理だから…やめて…」

「いいよ…生理でも…」

 少し強引に彼女を押し倒すと

「やめてってば‼」

「…ごめん」

「桜雪…おかしいよ…私の身体だけが欲しいの?」

 何も言えなかった。

 僕は彼女の身体だけが欲しかった…全てを忘れていられる時間は、そのときだけだから…。

「私もテスト近いから…しばらく会うのやめよ」

「うん…」

「桜雪…愛してるから…」

「うん…」


 彼女の言葉を僕は信じてなかった。


 彼女は僕というフィルターを通して社会を覗いていただけだ。

 もうすぐ、自分も社会に出るとなったときに、僕というフィルターは、もう必要ない。

 自分の目で指で触れることができるのだから…


 そう思うと、すべての人に捨てられていくような疎外感が僕を苦しめた。

 僕は、ますます外に出なくなった。

 真夜中、車で知らない何処かに行く…。

 時折、酔っ払いや、威勢だけのバカが絡んでくる。

 SEXの代わりに僕は喧嘩を求めた。

 失うものがないから…まったく理性にブレーキが掛からない。

 知らぬ間にバカが集まるようになっていた。

 つまらなかった…誰といても…誰を抱いても…誰を殴っても…

 幾度か警察にも泊った。


 もう…破綻しか見えなかった。


「早く誰か…僕を殺してくれよ…」

 そんなことばかり考えていた。


 死にたい…死にたい…死にたい…死にたい…


 携帯など無い時代…家に居なければ、連絡の取りようもない。


 明け方…アパートに戻ると、彼女が部屋にいた。

「桜雪…」

 僕は、彼女を抱いた…幾度も…幾度も…彼女の中で果てた。

 起たなくなっても…ただ腰を振り続けた。

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