第13話 真相
「それって、凛が吉田さんから告られたときに一緒にいた佐野さんのこと?」
「ああ、その佐野だよ」
マッシーとカジには、僕が吉田さんから告白された日から、ほとんどの事は報告してある。
「勝手な事してホントに申し訳なかったと思う。
ただ、佐野だったら本当のことを知ってると思ったんだ」
(まさか……カナが二股していた…?)
「凛、大丈夫かよ!?」
マッシーからの謝罪の言葉に反応を示さず、1点を見つめて静止していた僕に気づいて、カジが心配そうに声をかけた。
「えっ、ああ、うん。大丈夫。
いや、ごめんマッシー、それについては、俺を心配して動いてくれたことだから、別に、マッシーを恨むようなことはないからさ」
「すまん、ありがとう…。
一応確認しとくけど、俺が佐野から聞いた話、しちゃっても大丈夫か…?」
「ああ、頼むよ。このまま帰ったらモヤモヤして寝れそうにないし。この際、全部教えて」
この疑惑が真実なのか、それとも何かの間違いなのか…。
話を遮る形で、カジがここで疑問を投げかけた。
「ちょっとその前にいいか?佐野さんて、吉田さんの親友だよな?だとしたら、完全に向こうサイドの人間なんだから、マッシーに真実を話してるって保証、無くないか?」
確かに、佐野さんは吉田さんのことを妹のように心配するような関係性だ。吉田さんに不利になるようなことなら、言わないかも知れない。
「いや、佐野は『カナの名誉のためにも、あえて本当のことを話す』と言ってた。
それに俺、アイツと2・3年の2年間同じクラスだったけどさ、不正とかウソとか、そーゆーの許さないタイプっつーか。白黒ハッキリさせないと気が済まないタイプっつーかさ。
そーゆー奴だったから、多分ウソは言ってねえと思う」
「そっか…まあ、俺らとしては佐野瑞希とゆうより、マッシーを信じるほかないな」
カジも納得した。僕もそれで良いと思う。
「で?その吉田さんの名誉の為っつーのは、どーゆーことなん?」
「ああ、まず…リンリンからしたらだいぶショックかも知れないけど…吉田が部活の先輩と付き合ってるってのは、事実だそうだ」
「…!」
いきなり真実を聞かされるとは思ってなかったので、思った以上に心の準備が整っていなかったらしい。僕は言葉を詰まらせた。
そして、何より…ショックだった。
驚愕?落胆?怒り?悲しみ?もしくは…その全て?
そういう感情が、一瞬、波動のように一気に全身を駆け巡った気がした。
恐らくマッシーもカジも、僕のショックの程を表情で感じ取ったに違いない。ただ、そこにあえて触れてこなかったのは、僕という人間を良く理解してくれている2人の親友の優しさだと思う。
「マジかよ…」
僕の言葉を待つ必要がないように、代わりにカジがリアクションを返す。
それを受けて、マッシーが話を続ける。
僕がそうして欲しいことを理解した上で、そうしてくれている。この2人が親友でいてくれて、本当に良かった。
「ただ、佐野が『名誉のため』って言ったのは他でもなくて、少なくとも2人が正式に付き合い始めたのは、吉田とリンリンが別れた後からだっていうことみたいだ」
「つまり、二股はかけてないと?」
僕が言いにくいことを、カジが聞いてくれた。
「ああ、佐野が言うには、吉田は『そういう卑怯なことをする子では絶対にない』とのことだ」
「確かに俺も吉田さんがそーゆータイプだとは思えないけど…でも、別れてから付き合ったにしちゃ、やっぱり早すぎねえか?タイミング的に」
僕はしばらく、このやり取りを2人に任せることにした。思った以上にダメージが大きく、積極的に口を開く気力がわかない。それに、僕が気になっていることは、カジが見事に質問してくれる。
「ああ、俺もそれは思ったから、ツッコんで聞いてみた。
どうやら、その相手の先輩は、入部してすぐの頃から吉田にアプローチをかけていたらしい。
最初のうちは、吉田のほうも彼氏がいるからって断っていたみたいだけど、向こうもそれで諦めなかったみたいなんだよな」
「なんだよソイツ。普通、諦めるだろ。
つーかさ、そもそも俺が言いたいのはさ、吉田さんも吉田さんで、いくらコッチと別れた後とは言えよ?そんなすぐ、じゃあ次に行きましょ、ってなるかってことよ。
凜には悪いけどさ、そんな好きでもねーヤツとすぐ付き合ったりできるかね?」
そこだ。この話に僕がまだリアリティを持ちきれてないのも、そこにある。
「それにさ、たとえ野球部と吹奏楽部が練習上の付き合いがあるとは言えよ?
そんなすぐに黒川の耳にその噂が入ってくるっつーのも、ちょっと胡散臭いんだよなあ」
さすがカジ。もしかしたら、その相手の先輩ってのが流したデマか、もしくは事実とは違う形で広まった噂って可能性もある。
「そこだな。実はここからがこの話の最も大事なトコロに当たるわけだが…」
そう言うと、マッシーは眉間にシワを寄せ、大きく「ハア〜っ…」と溜息をついた。
「夏休みの頃から、吉田はその先輩と一緒に帰ったりしてたみたいなんだ。
黒川んトコの野球部、恋愛禁止らしくてさ、そーゆーの目ざとく見られてて、『吹部のやつらは良いよな〜』って話題になってたらしい。まあ、他にも何組かいるみたいだけどさ。
黒川は元々そーゆーの興味ないほうだけど、吉田は同じ中学だし、リンリンとのことも俺から聞いて知ってたからさ、そんで、心配して俺に報告してきてくれたんだ」
「…じゃあ、その段階ではまだ噂話の
いやてか、なんで一緒に帰ってるわけ!?そんとき、夏休みなら、凛とまだ付き合ってんじゃん!」
(一緒に、帰ってた……?確かに、夏休みの頃は会う頻度も少なくなっていたけど…まさか…。)
カナが知らない男と2人で校門をくぐる姿が目に浮かぶと、心臓の辺りに痛みにも似た苦しさを覚えた。
「それについては、さすがに佐野も『そこはカナの良くない所』だと言ってた。
相手が先輩だし、断りきれない部分もあったらしい。それに、色々と部活の相談にも乗ってもらってたみたいだったな。」
「とは言え、自分に好意持ってるってわかってる相手と、一緒に帰るかよ?」
「う〜ん、これは佐野が言ってたことだけど…吉田は部活が忙しくて、逆にリンリンは部活やってないだろ。それですれ違ってるという事を、佐野はよく吉田から相談されてたらしいんだ。
だからその…その頃はかなり気持ちが揺れてたんだって、佐野は言ってたな…」
そうだったのか…。あの頃は確かに、僕のほうが向こうの部活の都合に合わせなきゃいけなくて、そのせいで素っ気ない態度を取ってたからな…。
けど、それでも決して怒ったりなんてせず、我慢してきたのに…それがこの仕打ちかと思うと、どんどん心がトゲトゲしい感情に支配されてゆく。
「マッシー、向こうの味方かよ?」
「んなわけねーだろ!あくまで佐野の言葉だよ!
俺だって、内心『ハア!?』って思ってたよ」
「だよな!?」
「当たり前だろ!」
そう言うと、マッシーがこちらを向き直す。
「…まあ、佐野も本音としては、このままリンリンと付き合って欲しかったって言ってたよ。吉田からの相談に乗ってた時も、そうなるように後押ししてくれてたらしい。
リンリン、花火大会の時、佐野に会ったらしいじゃん?」
「…ああ、佐野さんと、あと中学の女子たち何人かいたな」
僕は、覇気のない返事を返す。
「そんときも吉田が部活で待ち合わせ時間に遅れてるって聞いて、リンリンがイライラしてたみたいだから、心配で声かけたって」
隠してたつもりだったが、佐野さんにはイライラしてる事を見透かされていたようだ。
「ああうん、確か『カナのことあんまり責めないであげて』って言ってた」
「そっか。まあ、その後のことは俺らもリンリンから聞いて知ってるけど、結局、その日ギクシャクしたのが決定打になったみたいだと、佐野は言ってたよ…」
マッシーが僕に伝えたかった話はここまでで、あとはカジとマッシーが2人で、一緒にヘコんでくれたり励ましてくれたりした。
もう別れている訳だから、今さら何がどうなる訳でもないが、マッシーはこの話をしてくれた理由について、
「最後まで言おうかどうか迷ったけど、リンリンはリンリンで色々向こうに合わせようと頑張ってたの知ってるし、最終的には俺の気が済まなかった。
もう別れた相手の事だから、聞かないほうが良かったかも知れない話なのに、ほんとにすまん」
という事だったが、これについては、
「いや、もし知らなかったら俺、なんかすげえマヌケじゃん…?
ぶっちゃけ、まだカナに未練あったしさ。下手したら、またやり直そうとかLINEしそうになってたからさ。
いや〜あぶね〜。そんなことしたら俺、完全ピエロじゃんね」
と、ちょっとおどけて返事を返したが、聞いてる二人からすれば、かえって痛々しかっただろう。
2人の前ではそのくらいのテンションは保てたが、その日、自宅でひとりになると僕は猛烈な嫉妬に襲われた。
自分でも全く想像すらしてなかったが、感情が溢れて止まらなくなり、涙を流した。
家族に声が聞こえないよう、布団をかぶり枕に口を押し当てて、大声で「ああーーー!!」と叫んだ。
これほどの悔しさを味わったのは、今までの人生で初めてのことだった。
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