第5話 お誘い
春休み初日から完全に失敗した。
いや、春休み初日というか、お付き合い初日からと言うべきか。
昨夜は吉田さんからのLINEにあえて返信をしなかった訳だが、今日、朝起きたらキチンとこちらから返信をする予定だった。
…のだが、なかなか寝付けなかったせいで、昼12時頃まで爆睡してしまった…。
大至急返信をしようとスマホを開くと、なんと吉田さんから先にLINEが来ているではないか…。
「おはよう!
今日はいいお天気だね〜。
昨日は夜遅くに返信しちゃってごめんね。
部活も受験勉強もない長期休みって、何して過ごしたら良いんだろう?(笑)
とりあえず、高校入学前の課題はやらなきゃなんだけどね。
全然手が付かなくて、思わず小室くんにLINEしてしまいました。」
というメッセージと共に、侍の姿をした犬のキャラクターが「御免!」と言っているスタンプが送られて来ていた。
受信時間は…ついさっきだ。
とりあえず、返信をしなければ!
「おはよう!
昨日はもう遅かったから、返信しないほうが良いかと思ってやめといたんだけど、結局あの後なかなか寝付けなくて、気づいたら今まで爆睡してた…。
こっちこそ、返信遅れてごめん!
ちなみに、俺も課題出てるけど、少なくとも今日は手を出すつもりなかった(笑)
春休みは、部活のメンバーで遊ぼうって話は出てるけど、まだ全然決まってない。
とりあえず、今んとこ特に決まった予定はないかな〜。」
…と、ここまで書いて、送信する手前でふと思った。
待てよ…。コレって、こっちから遊びに誘ったほうが良いのだろうか…?こーゆーのって、普通男から言ったほうが良いものなの?
いやでも、とりあえず昨日の時点では、春休みの予定を聞かれてるだけだしな…。
まあ、正直言えばこちらから誘うというのはハードル高すぎてビビっただけなのだが、とりあえず、そのまま送ることにしてみた。
LINEを送信し、パジャマから部屋着に着替えて、今日はスマホを持ったまま1階へ降りた。
歯磨きと洗面を終えてリビングへ行くと、
「あら、おそよう。いいご身分だこと。」
と、母から嫌味全開の挨拶をくらった。
家には母しか居なかったが、そう言えば、1、2年生はまだ学校があるんだった。父は仕事、妹の結は学校だ。
「お昼は昨日の夜の残りが冷蔵庫にあるから、それで良ければさっさと食べちゃって。」
と、先に昼食を済ませたらしい母から催促され、言われるがままに冷蔵庫を開けると、昨夜のご馳走がコンパクトに皿に盛り合わせられていた。
昨日の残り物とは言え、自分の好物ばかりが盛り付けられた一皿だけに、それなりにテンションは上がる。
レンジで温め、1人食卓で昼食をとる。
確かに、いいご身分だ。
食事中に、パーカーのポケットの中のスマホがブブッと反応した。
吉田さんも知れない。
食事中にスマホを見る行為が好きではないので、まずは昼食を済ましてしまおう。
ただ、せっかくのご馳走ということもあり、それなりに味わって完食した。
食器はしっかりと洗い場へ片付け、ふうっ、と呼吸を整えてからスマホの画面を開く。
「気を遣ってくれてありがとう。
やっぱり小室くんは優しいなぁ。
実は私も昨日なかなか寝れなかったんだ〜。それなら、もう少し話してれば良かったカモ…。
やっぱり小室くんも課題出てるんだね。
でも小室くんなら頭良いから余裕だね。
私も、今日はもう課題はいいや〜って(笑)
あの、もし良かったらなんだけど、春休み、会ったりできないかな?
私は全然ヒマなので、もし大丈夫なら、小室くんの予定に合わせます。」
…ええ??完全にやらかしたのに「優しい」とか言われててるゾ!?あと、別に頭良くないし!
いや、それよりも…「会ったりできないかな?」…って書いてありますな。コレ、2人でってことだ…よな?そのつもりで、話進めちゃって良いんですよね??確認とかしたら変ですよねえ…???
誰にも聞けない……。
ただ、少なくとも僕らは「付き合う」ことになったはずなので、友達連れて行くほうが絶対、不自然だよな?
いったん頭の中で、4つのパターンをシミュレーションしてみる。
①僕がひとり。吉田さんもひとりで来たパターン。
→全く問題無し!…いや、問題無くはないだろ!2人っきりとか……ええ!?マジか…!!
②僕がひとり。吉田さんは友達連れて来るパターン。
→…恥っっず!!「え、まさかコイツ、2人っきりで会うつもりだったとか!?キモ!!」…これは吉田さんのキャラと違いすぎるな…。まあただ、メチャクチャ恥ずいことだけは間違いない。
③吉田さんはひとり。僕が友達連れて行くパターン。
→吉田さんが②の僕状態になるってことか!最低!俺最低!!これは無い!一番無しのパターン!!
④吉田さんも友達連れて来て、僕も友達連れて行くパターン。
→ある意味最も平和だが…意味わからん。なんの会なのコレ?てか、それぞれの友達の意味なによ…保護者??
…ということで、僕さえ友達を連れて行かなければ、最悪でも恥をかくのは僕だけで、吉田さんに恥をかかせることは無い。
よし!ここは確認せずに話を進めて、僕は1人で戦場に
とりあえず、「優しい」と「頭良い」を否定しつつ、僕のほうはいつでも大丈夫だという旨を返信する。
…しかしアレだな…もし会うとなると、休みの日だから当然私服だよな。
困ったことに、僕は今まであまり服に気を遣った事がない。小学校は私服だったけど、服なんてほとんど
中学は毎日制服だし、休みの日も男友達と会うのにわざわざ服装を気にする必要も無いと思っていたので、「最も楽な格好」というコンセプトで服をチョイスしていた。
とりあえず、従兄弟から貰った服から、自分なりにマシだと思える組み合わせを考えて選んでいくしかなさそうだ。
自分の服のセンスが良いのか悪いのかは全くわからないが…。美術の成績はほとんど5か4だったので、その実績くらいしか今は
そうこうしてると、スマホからブブッ、といつもの呼び出しがかかる。
「そんなことないよ〜!
少なくとも、小室くんは優しいです!これは間違いないです!
私なんかにはモッタイナイ…。
ほんとに!?良かった〜!!
せっかくだから、近い日程が良いなあ…。
明日とかだと、急すぎるかな??」
…え、明日!?
いや、特に予定はないけど…明日!?
いや、明後日なら良いとかいう問題ではないけど…明日!?
昨日、人生初の告白を受け、人生初の彼女ができた。そして僕はどうやら明日、人生初のデートをすることになるかも知れない…。
は!?「デート」!?いま、「デート」って言った!?
チートなら知ってるけど、デートってなんだ…!!?
完全なるパニックである。別に、バラ色の高校生活が待っているなんて事は、妄想こそすれ現実はそう甘くないと思っていたが、まさか高校生活がスタートする前から我が人生にこんな怒涛の展開が待ち構えているなんて、一昨日までは1ミリたりとも思っていなかった。
人生、何か起こるかわからない。人生には油断は禁物である。
とは言え、明日のお誘いをお断りする理由なんて無い。服のセンスだってすぐにどうこうなるような物でもないし、今日のうちに服屋に行ったって、どうせ僕のセンスと小遣いじゃあ、どうにもならない。
むしろ、従兄弟から貰った服のほうが、僕が選んだ物ではない分、マシな気がする。
そう結論付け、吉田さんに明日でオーケーの打診を入れる。
今回は間を開けずに、すぐに返信が来た。
「ホントに!?わ〜い!
じゃあ、時間とか場所はどうしようか?
明日もお天気みたいだし、せっかくだから午前中からにしても良いかなあ?
明日は、色々お話する日にしたいなあ…。
あ、でも、小室くんが行きたいところとかあったら、言ってね!
楽しみだな〜、
早く明日にならないかな〜!」
メッセージの後に、首に金メダルを下げた犬のキャラクターが「ヤッターー!!」と叫んでいるスタンプが付けられていた。
その後のやり取りで、近所だと知り合いに見られるかも知れないからという理由で、最寄りから2つ先の駅で待ち合せることにした。
大きな公園があって、近くにカフェもあるからお昼はそこで食べることができる。
駅前にショッピングモールもあるから、やる事がなくなってもそこでヒマをつぶす事もできるだろう。
地元からさほど離れている場所ではないため、ここら辺の人間はかなりの頻度で足を運ぶ駅だから、ぶっちゃけ誰かに見られる心配がさほど減る訳でもない。ただ、ド近所で見られるほうが、なんだかより恥ずかしい気がする。
それに、万が一見られたところで、もう卒業してるから学校で変なウワサが立つようなことはないのだ。
もし同級生にバッタリ会ってしまって、
「2人、付き合ってるの!?」
と聞かれたら、その時は開き直って「そうだよ」と答えてやろうじゃないか。
さて、そうと決まれば明日着ていく洋服を選ぶことが、まず最初のミッションだ。
その日は終日、親に隠れてコソコソと1人ファッションショーを演じながら、吉田さんとLINEのやり取りを続けた。
果たして、今夜はちゃんと寝付けるだろうか……。
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