作家になろう! ~天国編~

貴方は、ゲームの開発者になったことがありますか?


PCとかアプリとかコンシューマとか、RPGとかファンタジーとかエロゲとか、プログラムとかCGとかシナリオとか、何かに関わったことはありますか?

わずかに満たされる渇望と、いくら高額でも時給には換算したくない報酬を求め、おのれの未熟さと心無いユーザーに、わざわざ打ちのめされるために関わったことはありますか?


私はあります。


平成8年ごろから約10年間、フリーのゲームシナリオライターとして、PCを始め、せがた、初P、ドリキ、白鳥、ガラケー等。

企画だけのものを除いて10数本。

あくまで副業の枠でしたが、人様ひとさまからお金を頂くシナリオを書いてまいりました。星は少なくても、それなりに楽しい思い出がありました。

優しい人たちとのコネとわずかな才能に恵まれながら、それ以上続けることができなかったのは、まことに私の不徳と致す所であります。


もし、またお金のもらえるゲームシナリオを書くチャンスがあったら……


絶対やらないです。


だって仕事でお話を書くってすごいシンドイもん。


(尻鳥雅晶「あの世って何なのよ?」11話「アバターもエクボ」冒頭より引用)



てなわけで。


もし今の私に書籍化の話がきたら、大喜びで修正ぐらいはするでしょうが、それでそのまま「小説家になろう」なんて決して思いません。たとえ副業レベルだったとしても「辛さ」はたぶん同じくらいだろうし、現状の執筆レベルですら放置された奥様が大変ご不満の様子なので(ええ、そうよ!)、とてもムリというものです。


「じゃあ、その気になったら、お前はプロ作家になれるのか?」と、

貴方だったらこう言うかも知れません。


なるほど。


確かに私は、「プロ作家にはなりたくない」という意味のことを書きました。

しかし、「なりたくない」と「なれない」は違います。


では、フリー投稿サイトから書籍化というビジネスモデルで、今の私の能力で本当に専業作家になれるのか、というシミュレーションをしてみましょう。


まず前提として、そこまで追い込まれているとしたら当然、今の会社はクビになっているでしょう。つまり結果的に専業作家です。必要があればバイトはするかも知りません。住むところは実家もしくはローン完済後の現住所になるでしょう。ある程度に健康で、奥様との話し合いも奇跡的についているでしょう。

(えーっ、ないないない!)


ただし、妻を本当に説得するには、1年くらいは兼業(バイトとかの)の状態で「テスト期間」を設ける必要があるでしょう。もし、テスト期間中にフル専業の場合の3割以下の成績しか出せなければその時点で失格です。

100m走って息切れしてたらマラソンで勝てるはずがありません!


※ご注意 ワタシは別に尻に敷かれてないですよ!(笑)

(そうよね~)

ただ、まともな「大人の分別」を大事にしているだけです。



まずはお金の計算です。


フリーランスである作家は、会社員よりも国保などあれこれ余分に必要です。ある程度の年収相当(家賃除く)の生活がしたいと思ったら、その5割増しは稼がなければなりません。書籍に換算すると、運に恵まれたとしても年に2~6冊は出す必要があると思われるので、とりあえず楽観的に3冊としましょう。

テスト期間中なら年1冊ですね。


※ご注意 ここらへんの金銭感覚は、私の実経験と、ラノベ作家であった友人と、友人の友人であった「ハズレになった」かたの、実話を参考にしています。

もちろん、現在の事情とは多少違うでしょう。



次は時間の計算です。


作家は自分の身体だけが資本です。脳も含めて。

体調管理のためには、1日12時間以下、週60時間以下しか働けないでしょう。

平和な家庭を維持するためにもその程度に抑える必要があります。

(もちろんですとも!)


ちなみに、オタク的な趣味活動は、勉強や取材(まとめてビジネス用語である「インプット」と呼称します)として、この労働時間に含まれます。徹夜でゲームをする(しないけど)のも、フリー投稿サイトを読み漁る(するけど)のも、インプットとして労働時間に含まれます。


インプットに費やす時間は、モチベーションのバランスを考えると、執筆活動の時間と同程度の割合になるでしょう。つまり執筆時間は最大で週30時間程度(甘すぎる?)でしょう。書籍のための書き直しは執筆時間に含まれます。


※ご注意 フリーランスの最大のデメリットは管理されないことです。自己管理イコール不自由だと思う思想のかたには、私はフリーランスをお勧めしません。


次は、必要な執筆量の計算です。


書籍1冊には約20万字、書き直しと書き足しが約10万字とします。フリー投稿サイト掲載から書籍化打率2割と楽観的に予想するとして、年に書籍3冊だと約330万字は執筆する必要があります。これを週に換算すると、約6万3千字になります。

えっ?

したがって、えっえっ、時間当たり約2100字となり……


ええ~っ、もう全然ムリじゃん!?


そりゃあ、私でもノリにノッているときなら、そのくらい書けると思いますよ?

でもそれは、100m競争と同じスビードで走ればマラソンで勝てる、というお馬鹿ロジックと同じです。毎時毎日毎週毎月毎年、続けられるワケがありません!


でも、テスト期間中だったら……


1日6時間を創作活動(インプット含む)にするとして、1ヶ月で書籍1冊分の量を執筆できて、それを毎月毎月達成できる能力とその実績が必要です。つまり「できる」って言うだけじゃなくて、「実際にやった」という結果が。


そして、未達成の月が1回でもあれば、即・失・格。

さらに年1冊書籍化という結果が必要です。

しかも、相当に「皮算用」しているので、これは最低ラインです!


ムリムリムリ!


テストのさらに半分のレベルですらムリ。

3ヶ月くらい試しにやってみよう、なんてカケラも思わないほどムリ。

第一、偉そうにできると言うなら、いまの時間と能力の使い方で、それなりに書けたりレビューもらえたりしてるはずじゃん!?

マラソンで勝てる、と言うなら、出勤前に毎朝数kmくらいはランニングできなきゃ、いや、やってなきゃお話になんない、ってのが現実か~

あ~、やる気を出せば年に書籍1冊ぐらい出せるんじゃないかな~なんて漠然と思ってたけど、その前提ですらクリアできないわ~

(ほら~やっぱりーっ!)


すみません。

上から目線でモノを言ってごめんなさい。

私程度ではどうやら、少なくともカクヨムのようなフリー投稿サイトを利用した方法では、作家に「なりたくない」ではなくて「なれない」ようです……




そんな私は、貴方が作者さんのひとりだとしたら、問いかけたいことがあります。




貴方は、ご自分のことを「作家」だと思ってますか?




誤解を生む前に、大急ぎで私の見解を述べますね。

私は、貴方のことを、まぎれもなくさんだと思っています。

なぜなら、からです。


※ご注意 私がどういうロジックを展開するのか、もう読めたかたもいらっしゃるとは思いますが、まあ、しばらくおつきあいください。


カクヨムは広告収入を得ています。


貴方がロイヤルティプログラムに参加していようがいまいが、サイト全体としてのその「広告」に寄与しているという事実に変わりはありません。貴方がリアルマネーを得ていなかったとしても、それは貴方が契約上そうだというだけの話で、カクヨムの存続というカタチで貴方は基本的収入を得ています。経費とトントンである状態に過ぎないのです。


収入が少ない?


日本のアニメーターや介護士は、生活するのには不十分な収入である場合があります。また、赤字覚悟で続ける商売をするかたが実在します。そして、収入の多寡でプロかどうかを決めるのは、職業差別と言えるでしょう。


書籍化してない?


ネットでのみ書かれていて、それなりの収入をあげている作家さんは実在します。

また、シナリオライターのように書籍とは関係ない作家業も実在します。


専業作家ではない?


作家さんのほとんどは、専業作家ではありません。本業が別にあるかたなら(あるいはニートのかたなら)、作品の収入で贅沢はできるかも知れませんが、それをメインにして暮らしているとは言えません。それでも、彼らはプロに他なりません。

また、専業作家の中には、取材やスランプなどで何年も執筆活動を停止するかたが実在します。彼らはその間、作家ではないのでしょうか?


プロとしての覚悟や矜持きょうじを持っていない?


貴方は、社会の様々な分野のプロのかたがたを目撃しているはずです。そのかたがたは、すべて、そのようなものを持っていらっしゃいますか?


プロと言えるほど作品が面白くない?


貴方は、プロの作品ならすべて面白いと思っていますか?




もし、貴方が、ご自分のことを「プロ作家」だと思ってなかったとしたら、それは貴方の線引きがであって、プロの正確な定義によるものではありません。

つまり、そういう貴方は、



のです。


プロの誇りを持っているのなら、プロなんじゃないの?


さて、私は今回、「作家になろう!」というテーマで、この項を書かせていただきました。その結論は、「作品を投稿した貴方は、もうすでにプロの作家さんである」という「気付き」の提示です。


私は今回、ふつうに言う具体的な「作家になる方法」については書きません。

そもそも詳しくないし、説得力がないからです。

そして、その方法についてはすでに他の作家さんたちが書かれたノウハウが、カクヨムに限らずネットには山のようにあるからです。


しかし、「自分がプロである自覚」の有る無しは、それらのノウハウの受け取り方に大きな差を生むでしょう。「こんなのありえない」とか「ここまでやりたくない」という反射的な否定ではなく、「実際に他の人がどうしてるか」とか「どこまでならやれるか」という具体的な視点を持つことができるでしょう。


なぜなら、自分が線引きしたプロの水準に自分自身が達していないことを、すでに戦いのステージに立ってしまった未熟なチャレンジャーであることを、他ならぬ貴方がよ~く判ってしまったからです。

また、「どうせ私はアマなんだからこれでよい」という甘えを、みずから切り捨てることができるでしょう。


まあ、貴方は貴方が定義する「作家」になれる、と言う資格は、私ごときには残念ながらありませんが……


しかし。


繰り返しますが、カクヨムに投稿する限り、貴方はとして作家です。

それはまるで、ある意味天国にいるようなものなのです。


だって、シンドイことは何もしなくていいのですから!




さて、次回は。


実は、私にはまだ、作家になる方法が残されています。

でもそれはある意味、地獄に落ちるようなものなのです。



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