わたしは知らない
詩舞澤 沙衣
第1話
1.
おはよう、の一言さえも惜しいくらい、いつも遅刻寸前で学校に到着する。理由なんて多分ない。ただただ、六年間もこのお城のように立派なだけの建物に行くまでに、石段を上っていくのが億劫なことくらいだ、さしあたり。その日も、ぎりぎりを狙ったつもりだったのだけれど、電車を乗るタイミングに失敗して、その上、道なんて訊かれてしまったものだから、すっかり遅れてしまった。「おはよう」のあいさつは惜しくても、他人が困っているところを見せつけられると、手を差し伸べたくなる。たとえ、わたし自身があとで困ることになっても。「それが『隣人愛』というんですよ」と牧師の先生はおっしゃるけれど、それが聖書に載せなくちゃいけないくらいには、人類には不足していることなんだと思う。
そんなことを思いながら、石段をどうにか早足で走り抜けたものの、無情にも下駄箱のところで始業の鐘が鳴った。母親にまた、あとあと通知表とにらめっこでお小言を言われてしまうのだ。未来のことなんて、べつにどうでもいいことだけれど、気には病む。そう思いながら、チャペルに向かおうとしたところだった。女子トイレに明かりが煌々と点いていて、そこに人がいることは分かっていた。けれど、この時間に教室か教員室以外に人がいることは、まず考えにくい。ちょっとした好奇心から、女子トイレのなかに足を踏み入れる。と、洗面台の前に見たことのない少女がいた。タイの色で学年がわかることがこんなに便利だと思ったことはない。少人数の先鋭女学生のかたまりである珠ヶ原女学校では、同学年であれば誰しも顔くらいは知っている。もう夏休みも終わって、とうの昔に九月だ。知らない顔なんているはずがなかったのに、そのほぼ同い年の少女は、わたしの知らない子だった。
「だれ?」
わたしは思わず訊ねてしまった。そうしなければよかったのではないか、と今のわたしは思ってしまう。ただ、そこはやはり、わたしのなかの「隣人愛」とやらが発動してしまった瞬間なんだろうと思う。
「トイレの花子さんかもね」
相手の少女は微笑んでいた。その肌の白さは、ディズニー映画で観た白雪姫のようで、わたしはたぶんその時恋のようなものに落ちてしまった。そうとしか説明がつかないのだ。
「ちがうでしょ」
とりあえず否定だけして、わたしは少女の手をとってしまった。
「え?」
呆気にとられている彼女を連れて、わたしは教員室の外をかすめるように歩き、とっておきの場所に案内した。家庭科室だ。ここは、女子トイレと違ってセンサーが作動して電気が点いたりはしないし、第一、「日直番長委員会」が通過しないエリアなのだ。ちなみに、「日直番長委員会」は、わたしたち中学一年よりずっと年上のお姉さまが担当する委員会で、朝礼拝の頃に学校を巡回している。そのルートはおおまかに決まっているらしく、わたしはたまたまお姉さま方がいる教室前の廊下を通った時に、小耳にはさんだ。決して、聞き耳を立てていたわけではない。
「ありがとう」
可憐なる少女は、わたしにそっとささやいていた。栗毛色ですこしウェーブの効いた髪は、お人形のようだ。正視することができないくらいのとびきりのかわいらしさ。「ありがとう」の声色ひとつとっても、「鈴の音のような」という形容を学んでいてよかったと思うくらいしっくりとくるものだった。
「大したことない」
わたしは視線をそらし、言ってみるものの、あまりに分かりやすい虚勢で、少女はくるくると笑いだしていた。仕方なく、わたしは人差し指を口元で立ててみせたら、彼女はおとなしくなった。
「僕は羽風燐、リン化合物の燐よ」
うやうやしく、彼女はお辞儀をしながら言う。
「美しい名前」
わたしは思わずため息を漏らしていると、それがまたおかしかったらしい。彼女はまた、くすりとだけ笑った。
「貴女は?」
「わたしは、白戸由衣」
この簡単な漢字だけの集まりがひどく嫌いだった。だから、美しい出自と画の持ち主の燐がうらやましかったのだ。
「わかりやすいっていいことなのに」
わたしの表情を見て、コンプレックスを見抜かれてしまったらしい。けれど、それに対して燐は笑わなかった。
「羽風さんは、どうして隠れていたの」
どうせ答えなんて教えてくれないだろう、と思ったら案の定。
「ひみつ」
と答えを寄越してくれた。その言葉は、まるで魔法のようだった。なにもかも「ひみつ」の一言で消し去ってしまえそうだった。
「もう行かないと」
わたしはようやっと理性を取り戻した。そう、大遅刻の罪で咎を受けることになることが確定してしまったのだから。すると、途端に顔をくもらせて、羽風さんは「そう」とだけ言って、走り去っていってしまった。この時、わたしは試されていたんだろう。そんなことなど知りもしないから、教室に戻ってしまったけれど。
もう行かないと、という一言を自分のなかで反芻して、その無情さにいらだったりして、一日が終わってしまった。そして、わたしは決意するのだった。
2.
わたしは、翌日も遅刻した。これは、電車に乗り過ごすみたいなドジでもなければ、道案内をしていたりする隣人愛のせいでもない。自分で、選んで遅刻したのだ。また、羽風さんに会いたくて、それだけを考えて登校していた。
「日直番長委員会」に見つからないように、こっそり校内を歩く。さながら泥棒にでもなった気分だけれど、幽霊のような存在を探しているのだから、そちらの方がよっぽどおかしな話だ。
「きみ、なんでいるの?」
後ろから声がした。かと思えば、耳元で聞こえたのは、間違いなく羽風燐のその人の声だった。
「なんでって、遅刻したからだよ」
「ほんとう」の理由なんて打ち明ける気には到底なれなかったから、当たり前の「うそ」をついた。
「そっか、それならさ。今度は礼拝が終わるまで一緒にいよう?」
そんな潤んだ目で袖を握られてしまっては、わたしはとてもじゃないが身動きが取れない。観念して、羽風さんの言う通りにすることになった。
「わかった」
そう言う時、羽風さんはわたしのかばんをかすめとって、あっさりと中身の一部を強奪してみせた。
「へえ。『桜の森の満開の下』かあ。本、読むんだ」
「だって、授業も学校の友達もつまらないし」
「そっか。じゃあ、僕と本の話しようか」
それからわたしたちは、遅刻を毎日繰り返すようになった。そうしたら、わたしは羽風さんに会える気がしていたし、実際そうやって偶然にも彼女を発見することができたからだ。毎朝、好きな本の話をするようになった。学校の図書館で借りた本の話ばかりで、他の生徒たちと話すような、意地悪な先生の話だとか、成績の話だとかは、一切出てこなかった。同じ学校に通っているはずで、同学年のはずの羽風さんに、どうしてもそういう話をしようという気がおこらなかった。
3.
そんなことを繰り返していたら、母親が学校に呼び出された。
「なにしているの」
先生にも母親にも圧迫質問をされて、それでも、わたしは何も言わなかった。というよりも、言えなかった。羽風さんのことを話したら、羽風さんはこの学校にいられなくなってしまうだろう、ということは想像に難くなかったからだ。
「わたしがドジだから遅刻しているだけです」
そう頑として突っぱねていた。今までのわたしだったら、考えられないことだ。いつかの未来に先延ばしにすることをやめて、自分だけで責任をとろうとするなんて。これは、隣人愛なんかではなくて、ただのエゴイズムだろう。
先生からも、家族からも、冷たい視線を浴びることになろうとも、わたしは気にしなかった。家庭科室でこっそり隠れて、わたしたちは小説の話をすることが何より楽しかったから、そこに後悔なんて微塵もなくて。わたしは、突っぱねていることができた。魔法のひとときを、過ごすことが、できていた。
4.
その日の朝も、羽風さんと一緒に家庭科室でたわいない話をしていた。
「君は、稲垣足穂を知っていて?」
そう羽風さんは問いかけた。
「一千一秒物語を書いた人でしょう」
するとニタリと笑ってみせて、装丁の月夜が美しい本を取り出してみせた。
「彼は室生犀星とも親しくてね、随筆を読むと、その顔が出てきたりするのよ」
けれど、わたしはその話をちゃんと聞いていなかった。気が急いて、おかしくなってしまいそうだった。
「羽風さん」
「なあに」
羽風さんは、わたしが自分の名前を好きではないことを知っているから、名前を呼んだことは一度もない。ただ、もうその頃のわたしとしては、名前を呼ばれることがないのを、さみしく思っていた。いつも「ひみつ」をしているのに、それでもわたしは名前を呼ばれたことがない。
「ひみつ、おしまいにしよう」
口をついて出たのは、その言葉だった。ただ、名前を呼ばれないということだけで、すっかりいらだっていただけだった。
「そっか」
ぽつりと羽風さんは言った。
「君は、小説を書くんだろう。読みたかったな」
それは疑問のようでもあったし、当て推量のようでもあった。曖昧な言葉尻は、見事に彼女の雰囲気を演出していた。
事実、わたしは小説をノートに書き出しては、完結することのないまま放り投げていた。そんなことを羽風さんに話した覚えなどない。やましいというわけではない。ただ、恥ずかしかったのだ。
「なんで、それを」
わたしが震える声で呟く。
「拝借したのよ、君の鞄からね」
それはあの時と同じだ。『桜の森の満開の下』の文庫本を鞄から抜き取った時と、まるで違わない。けれども、わたしにはそれが痛恨の打撃となった。
「やっぱり、ひみつはおしまいにしよう」
わたしは言いきる。言い切ることでしか、羽風さんを封殺することができないからだ。そう、わたしは言葉で彼女を殺そうと願ってしまった。
「どうしてなの」
彼女は問う。明白だというのに、どうしてそんな疑問を投げつけてくるのだろう。彼女もまた、わたしを殺そうと願っているんだろうか。
「だって、わたしは知られたくはなかった!」
叫んだ。きっとこの声で、所在は教師に分かってしまうだろう。もういいや、そう思ってしまったからこその叫びだった。彼女はすっかり黙っている。
「名前のことをコンプレックスに思っていることも知られたくなんてなかった! 何故って、わたしは貴女のことを知らないのに、貴女はわたしのことを知っている。それが耐え難い苦痛。わかる?」
激情に猛ったわたしを、止めるものは何もなかった。すべてを曖昧にしてきたわたしの、すべての罰がここに集約されているかのようだった。
「わかる」
彼女はたった一言発した。わかるって、どういうことなんだろう。それがわたしには、まったくもってわからなかった。
5.
わたしの大声によって、先生たちはわたしたちの「お城」に気付いてしまった。電気も点けずにふたりでひそひそ話をしていた空間は、滅びの時を迎えていた。
「君は」
先生が羽風さんを指して何かを言おうとしたけれど、上手く続く言葉が出てこないようで、わたしに矛先を変えた。
「白戸さんはどうして遅刻したのか白状なさい」
わたしはもう潮時だろうと思った。息を吸って、吐いた。そして告げた。
「羽風さんに会いたくて、時間を見つけて会っていました」
彼女は、今にも泣きそうな顔をしていたけれど、きっと泣かないだろうなと思った。そういうわたしが持つ期待には、いつだって応えてしまう人だった。今更になって気付いてしまって、わたし一人だけが泣いた。
みかねた先生は、わたしだけを職員室に連れ出した。
「羽風燐の話は知っています」
先生は、部屋に到着すると、厳かに言った。
「どういうことですか」
「キリストを信仰するはずのこの学び舎には、何故だか幽霊のような存在がいるのです」
溜息を吐きながらも、しっかりと説明する気らしい先生を、わたしは見つめる。
「っていうことは、羽風さんは存在しない、と」
「存在はしますよ。羽風燐は」
わたしは答えを聞いてなお、反応に困っていると。
「燐さんは不登校児、いや正確にいえば保健室登校をひっそりと行っているだけで、なんの特別なことはなかったんです」
そういう存在が、この世の中にいることは理解しているつもりだったけれど、仮にもエリート校のこの学校には、そんな落ちこぼれみたいな人はいないと思っていた。
そんな存在が、わたしのすぐ隣にいただなんて。
「羽風さんは幽霊じゃないんですね」
それなら、わたしは彼女に謝ることができる。存在しない人に、何かを願うことはむなしいけれど。存在している人になら、人は願うことができるのだ。わたしは勝手にそんなことを信じていた。
「彼女は、もう学校には来ないでしょうね」
そう先生は漏らすように言った。
「どうしてですか!」
わたしは駄々っ子のように叫んだ。そうしなくては、羽風さんを繋ぎ止めることなどできないと思ってしまったから。
「貴女みたいな子は、たくさんいて、彼女はただ一人しかいないってこと」
「そんな説明じゃ、わかりません」
「傷つきすぎた、彼女は。貴女みたいに近寄ってはおかしくなってしまう子は多くてね、美しさだとかに見惚れてしまっているうちに、彼女は勝手に傷つくんだよ」
「でも、わたしは羽風さんに謝りたい」
先生は困った顔をして、言う。
「それじゃあ、さようならをしてきなさい」
「わかりました、ありがとうございました」
わたしは職員室を去る。羽風燐が本来いるべき場所を目指す。
6.
保健室にたどり着くと、ベッドに横たわる羽風さんの姿が見えた。
保険医の先生は、事情を了解しているのか、すんなりわたしを部屋に通してくれる。
「蒼野さん」
遠くを見つめるようなまなざしで、きっとわたしに目の焦点が当たってはいないだろうけれど、彼女は確実にわたしの名前を呼んだ。
「羽風さん、わたしは名前を呼ばれたかっただけで」
「僕はね、何を求められているのかをなんでも手に取るようにわかってしまう、変わった目を持っていてね。だからこそ、君を裏切ったのさ」
確かに、羽風燐はわたしの理想の少女であり続けた。見目麗しくて、頭がよくて、すこし不思議な少女然としているのは、見ていて幸せな気分になるものだった。
「裏切ったってどういうこと」
「君が暴かれたくないのは、ノートの中身だろう」
「そうだけれど」
「だから。暴いた」
わからないけれど、わたしに嫌われるためにきっとわたしのノートを盗み見ることを覚えたのだろう。
「わたしは、いつか小説家になるから、そんなこと気にしたらいけないと思っているから、羽風さんのやったことは裏切りなんかじゃないよ」
わたしは笑ってみせた。そうすれば、もしかしたら、駆け寄れる資格が生まれはしないかと思ってしまったのだ。
「やっぱり、白戸由衣じゃない名前で呼ばれたいんじゃないかい」
羽風さんも微笑んでくれた。
「そう。ほんとうの名前は、原稿のなかにあったから」
わたしは自分の名前が嫌いで、きっと羽風さんも自分のなかのなにかが嫌いで、だからこそ学校にちゃんと通えなかった。それだけのことなのだ。
「僕はね、君にだけはずっと『ひみつ』を続けていくよ」
唇の前に指を立てて「ひみつ」の合図をする。
「本当の貴女と話がしたいのに」
わたしは願う。わたしのための貴女でいるのは、ひどく疲れることだろうと思ったから。
「そう口に出していても。理想の姿に心酔してしまう君を見ていたら、それを守りたくなるものだよ」
残酷にも、彼女は言う。わかってしまいはじめていたけれど、わたしが口に出さないでおいていたことを、貴女は軽々と言葉に乗せてしまっていた。
「君の小説の続きが読めないことだけがかなしいよ」
「わたしはいくらだって小説を貴女のために書くことができる!」
声を思わず大きくするわたしに、保険医の先生はすこしばかり驚いた様子なのが、視界の端に映った。
「君が君のために書いていた物語がいとおしかったのだから、それでは、それでは駄目なんだよ」
手を伸ばして、貴女はわたしに言う。わたしは駆け寄って貴女の手を握った。
「わたしは、わたしのために物語を書く。それは貴女の物語でもある。それを読んではくれない?」
そんな文句がついて出た。そんな物語は一語たりとも紡いだことはなかった。だから、「うそ」に限りなく近いけれど、けれどわたしはそれを「ほんとう」にすることを、貴女の前で誓う。
「じゃあ、それをいつかみせておくれよ」
握り返してくれることなどない、弱った細い腕を下ろして、貴女は言う。
「ごめんなさい、また明日」
そういうふうにわたしが切る前に、貴女は言った。
「さようなら」
それから先、わたしは羽風燐を名乗る少女に会ってはいない。
7.
学校を卒業したら、もう朝礼拝を抜け出すことなどないだろう。家庭科室は警備が強化されて行くばかりで、きっと授業以外では出入りできる人はいない。そう思っていたわたしに、「日直番長委員会」の任がまわってきた。幼い昔のわたしには知る由もなかったことだけれど、「日直番長委員会」は、下級生がつけたあだなで、結局のところ「番長」だなんて牛耳っている人がいるわけでもない、ただの日直当番だった。みんな消極的に、ただちょっとだけ礼拝をサボることのできる背徳感に浸ることができるくらいの、なんてことない用事。昔のわたしみたいに、遅刻している下級生をお咎めなしにすることなんて造作もないことだったし、それくらいのことは先生も気にはしていなかった。最初から、そうやってみんなをグルにしてしまえばいいだけの話だった。隠し事をしていたらそのぶんだけ辛くなってしまうものだけれど、話してしまえばしょうもないことだったりする。昔の自分が知っていたら、どれだけ楽になれただろう。
今、私はすべての教室の鍵を開ける権利をもっている。それは決して、付与された権利をみだりに行使していいものではない。だから、わたしは家庭科室の鍵を使わないでいた。どこよりも厳戒態勢が敷かれるようになった、そんな家庭科室を根城にする人などいるはずがなかったからだ。けれど、これはあくまでわたしの主観の話でしかない。家庭科室にばかり目が行きがちだったから、そう錯覚していただけなのかもしれない。そんなことを考えながら、悶々と人気のない廊下をさまようように巡回していると、目の前には家庭科室の扉があった。
ルートを選んだつもりはないけれど、行きあたってしまってはのぞかないといけない。そんな気持ちになって、そっと鍵を開けて扉を開く。
「やあ、君。遅いじゃないか」
昔聞きなじんだ声がする気がした。
ずっと保健室を探していたのに! わたしは崩れ落ちてしまう。
「書くのに時間がかかってしまって」
言い訳がとっさに思いつかなくて、けれどその言葉は真実だった。
「さあ、君の物語を読ませておくれ」
貴女はそう言ってくれるのを期待して、わたしは、この物語を書いた。貴女のために、小説を書いた。わたしのために小説を書いた。きっとずっとこの学び舎でわたしを見守ってくれていたであろう、貴女に見てもらいたくて、その一心で文章をつづった。ピリオドは、貴女が決めてくれるはずだから、最後をわたしは描かない。描くことができなかった。わたしの未来は貴女とともにあると信じていたかったから。「隣人愛」とはよく言ったものだ。わたしは貴女の隣でありたい、と願っていたし、きっと貴女もわたしの隣でいたいと願っていたことを信じていた。願うだけならば、自由だろう。そういう気持ちで、わたしはこの白いノートを埋めていた。だから、どうか、貴女に再び出会わせてください。
貴女の答えをまだ、わたしは知らない。それが、幸せなことなのか、不幸なことなのか。今のわたしには、まだ何もわからないでいる。
わたしは知らない 詩舞澤 沙衣 @shibusawasai
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