第7話 十人の幹部

中は歓楽街のようで、市場と同じぐらいの人たちが集まっていた。


違っていたのはその行き交う人のほとんどが仮面やお面をつけていたということだ。


俺は「いくぞ」と言って少女の手を握り、人をかき分けて、あの無駄にでかい城へと向かう。


ルーレットの形をした看板のお店の下で、トランプをしている成金たち。


客引きをするバニーガール、そのバニーガールの後ろにはピンク色のお店が建っていた。


首輪のついたウエイター姿の客引きで、その後ろには『健気なペットはお探しですか?』と書かれた奴隷店が建っていたり、嫌に天国みたいな白い装飾のした清楚なイメージのお店で、看板には『天に登るような気持ち』と書かれているヤクのお店が建っていた。


俺はこれらを見て、冷静に狂っていると思った。


派手な色彩と明るい装飾にかもかかわらず、内容はかなりブラックだった。


ここにいては道徳の感覚がおかしくなりそうだ。


俺はひたすらに真っ直ぐ進んでいく。


ここから抜け出したくて仕方が無かった。


城の目の前になんとか到着、と言っても門のから真っ直ぐだったから、迷うことなんてあり得なかった。


城の前にいた申人ヒューマンが俺を中に案内してきた。


中に入れば、入り組んだ階段と、どこも似たような絵が飾っている廊下があり、まるで迷路だった。


やっと着いたか最上階。


少女は目をまわしてぐーるぐる。


無理もない。


俺だって少し吐きそうだった。


大きな扉を開けば、そこにはユービトという申人ヒューマンの男が一番の奥で机の上に足を乗せ偉そうに椅子に座っていた。


そして、右と左にはあらゆる種族の幹部たちが控えていた。


「オイ、またアッタナ、オンナ!」


一番近くにいた体の大きい豚戎オークが話しかけてきた。


「だれ?」


少女は答えると、


「オラだ!わすれタノカ?サンザンこけにシテクレタのくせに!!」


俺はそのセリフで納得して、この豚戎オークがこの前少女がズタボロにしたあの黒ローブであることを伝えると、彼女は納得した。


「ホラ、兄弟静カニシロ」


隣にまた違う眼帯のつけた豚戎オークが注意する。


「でも、アニジャ!」


「へーこの子がクーパを負かしたっていう子?可愛いじゃん!でも…武器はグロッキーだね」


そう言ったのは黒い服装をした猫耳で寅人ジャガーマンの愛らしい少女であり、その寅人ジャガーマンは黒髪の少女の顔を見たあとに武器を見て苦笑いする。


「手合わせしたいなあ、先生もそう思うでしょ?」


先生と呼ばれたのは、古びた白い礼服を着て、兎の耳を持つ白い髭を生やした老師で、どうやら禹人ゲットウのようである。


「ううむ、ワシはそれよりもその武器が気になるのう、今までそのような武器をワシは見たことがない」


禹人ゲットウの老師は興味津々に言うと、


「へえ、先生も見たことないのか?そりゃあすげえなあ」


ユービトがそれを聞いて感嘆し、


「珍しいですね、先生が知らないなんて」


老師の隣にいた眼鏡をかけている魚氐マフォークも感嘆していた。


「皆さん、静かにしてください話が進まないでしょう」


と言ったのは酉人ハーピーである。


その酉人ハーピーはどうやら女性のようで、黒い翼を背中に宿し、黒に近い青のような色をした服を着ていて手には槍を持っていた。


「そうだぞ、みんな静かにしろ」


「殿、あなたもその一人ですからね?」


「とりあえず早く始めよ、ね、ダンナ」


その子人フェアリーは優しい顔をした少年で、魚氐マフォークの肩の上に座っている。


「あら? ガルードがいないけどいいのかしら?」


と聞いたのは羊の角を生やした坤人デーモンで、黒いドレスを着ていて、たぶん風俗嬢で男を虜にするであろう優美さに溢れていた。


「あいつはいいんだよ、職人だからな、こういう公っぽい場所は苦手なんだろ?あとついでに言うと、カルロスもいねぞあいつは隣の方に配達してもらってるしな」


「話はまだか?」


俺はつれなくいうのは茶番に飽きたからだ。

さっさとしてくれ俺は早く帰りたいんだ。


「おう、そうだな、それじゃあまあ、何を話すでもねえし、ささっとちょうだい」


俺はそう言われると、机の側まで近付いて机の上に瓶を置いた。


「これでいいか?」


俺は煽るでもなく普通に言うと、


「もう一つ」


俺は舌打ちをして、黙ってもう一つ瓶を置く。


「やっぱり、もう一つ」


「調子に乗るな」


「ハハ、やっぱ無理か、んじゃ帰っていいぜ」


俺は机から離れて後ろに歩いていく。


こんなとこささっと帰ろうと、俺は少し早歩きだった。


俺は少女の腕を掴んだとき、


「はあ、やっぱ面倒くせえな」


ユービトはそう吐き捨てのを驚いて見てしまった。ユービトは


「こんな強引な手まで使ってこの二つは正直、割りに合わねえし、いちいち調べるのも面倒だ」


と言い机の上から足を下ろすと、幹部の寅人(ジャガーマン)の子が「出た、気まぐれ」とぼそっと言ったのを、俺は聞いた。

ユービトは俺の顔を見て言うのだ。


「ささっと、純粋スライムの製造方法を教えろ」


俺はそれを聞いてやはりバレていたかと青ざめる。


グリーンスライム自体の作り方は簡単。


だって純粋スライムに青カビを食わせるだけなんだから。


しかし、純粋スライムを作るのはそう簡単じゃない。


「純粋スライムってなんじゃ?」


禹人(ゲットウ)の老師が質問すると、


「スライムは最初に食べたものに合わせて消化器官を生成する。つまり、まだ何も食べてないスライムのことをそう呼ぶ」


「ほう、では簡単ではないか?新しい子を作らせればよいではないか?」


「それは無理だ」


俺はその無知蒙昧な意見を一蹴する。


「なぜじゃ?」


「スライムは俺たちとは生殖の仕方が根本的に違う。俺たちがおしべとめしべを使うのと違って、それらを使わない。


「ほう、なるほど、つまり親と子が全く一緒だから違う腹を持つ子など作れないというわけか」


「そういうことだ、でもこいつは本来作れないはずのスライムを作れる。でないとこれをこいつは作れるはずがない」


「教えてくれよ」


「嫌なこった」


俺は後ろを振り返ってドアノブを握ろうとすると、後ろから「動かないで」と言われる。

後ろを振り返れば、寅人(ジャガーマン)の少女が俺の首に獣の骨でできたダガーを突きつけられる。


焦って右を向くと、黒髪の少女があの気色の悪いダガーを抜こうとしていたのを、「やめとけ」とユービトが脅すのだ。


少女の右側のほとんどの人間が金棒や盾といった武装を持っていた。


はっきり言って勝ち目はない。少女はそれを見ても構わずその見にくいダガーを抜いた瞬間に「中胸(ちゅうきょう)」という言葉が聞こえたと思えば、少女が禹人(ゲットウ)の老師に胸を突かれて気絶させられていた。


やばい、どうすればいいと、頭の中が不安というか塊で埋め尽くされ正常な判断、考えが浮かばない。


「やめとけって、言ったのによぉ」


後ろからユービトというあの憎たらしい男が余裕そうにいうのである。


「先生、殺してねえよなぁ?」


「大丈夫じゃよ、ちゃあんと手加減はしたわい、本気(マジ)でやったらきっとこのおなごに風穴が空いてるわい」


「俺をどうするつもりだ?」


「どうする? どうするってぇ?どうしよっか?あんまり考えてなかったわ」


ユービトという男は薄ら笑いを浮かべながら俺に近づいてくる。


「まあ、やり方なんてたくさんあるからなぁええと、鞭打ち、亀甲縛り、あとは…洗脳?」


片手で指を折りながら悠々自適に語るのだ。

それを聞いただけで俺はちびりそうだ。


「ああ、洗脳ってのはそんなに難しいことじゃない?変な薬なんぞ使わなくても簡単に出来るぜ、時間さえあればな」


「悪いが、絶対に教えないぞ」


はったりでもいいから、言っておけ。


「汗だくだくで言われても説得力ねんだよ」


ユービトは豚戎(オーク)二人に「連れてけ」と指示して、寅人の少女に「離れていいぞ」と俺からダガーを離させた瞬間である。


ユービトの腹にあの醜いダガーが黒髪の少女によって突き刺される。


彼女は気絶していなかった。フリをしていた。

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