第3話 不気味な笑い
「すごい…」
あの少女と大男は互角にやりあっている。
大男は見た目通りに力強いが動きが遅いので、たぶんこの狭い路地裏では身動きが取れないのに、対して少女は小柄なせいか身のこなしがよく壁などを使い大男を翻弄し、少しずつ包丁で切り刻もうとしている。
しかしながら、俺にとって彼女はとても不気味で仕方がなかった。
なぜなら、彼女は終始笑っていたからだ。
ものすごく、不気味でいて、気持ちの悪い笑いかっただった。
あちら側といえば、
「旦那?どうして興味深そうに見てんだ?」
「あ、いや、あの少女の剣売れそうだなと」
「誰も買いませんよ、あんな気色悪いの!!」
「いや、でもいい剣だぞあれ、うちのクーパの金棒は甲ノ鋼級だぞ?それなのに金棒が刃こぼれしてるし」
というなんとも呑気な会話をしていた。
仲間が殺されそうなっているのに呑気だなと思った。
そうしているうちにクーパのローブに赤いしみが増えてきた。
「フガアアア!!チョコマカトォォォ!」
クーパが金棒を振り下ろしても当たらず、ゼェゼェと根をあげているばかりだった。
「クーパ、そこまでにするぞ」
「デモ、ダンナ!」
「お前、疲れてきてるじゃねえか?」
「マダ、ヤレル!」
クーパは力尽きそうなのに、まだ金棒を降って戦おうとしていた。
「ああ、だめだありゃ、グラッパ」
「フガ」
グラッパはクーパに近づいて振り回している、所々に傷のついた金棒を掴んだまま、
「兄弟、イクゾ」
と言って強引に引っ張る。
「アニジャ! まだヤレル!」
「はーい!それじゃあ撤収!」
と言って男たちはすたこっらささっと逃げていった。
心の中で俺は二度と来るなと思った。
「だいじょうぶ?」
黒髪の少女は包丁を持って、こちらに近づく。返り血を浴びていて人形のように笑っているかめっちゃ怖い。
「お前、いいからそれをしまえ!」
と言われ黒髪の少女は肉の塊でできた包丁をしまうと、人形のような笑顔もなくなり、無表情になる。
「だいじょうぶ?」
もう一度聞かれて、俺は
「ああ、なんとかな」
と答える。
「これからどうする?俺は商売に戻るけど」
「もうすこし、さんぽしてくる」
「わかった、それじゃあな、暗くなるまでには帰ってくるんだぞ」
黒髪の少女は静かにうなずいてどこか走って行った。
「さてと、戻るか」
と思い、商売道具のところへ戻って行った。
「あ、ない」
目を離した隙に薬草やらなんやらが全て盗まれていた。
そして、しかも…
「あれ?ない!ない!」
俺は袋の中や、風呂敷の下を探したが、もちろんなかった。
瓶がなくなっていた。袋と一緒に瓶も入れといたはずなのに、あの瓶は紛失するのは本当にまずい。
「うおおおおおおおおおおお!!!!どこだああああああああ!!!泥棒がああああああああ!!」
と言って俺は街の中をひたすら走って行った。
「ない…ない…本当にない…」
俺は膝に手をついて、汗を垂らし、ゼエゼエと喘ぎ声を出していた。
たぶん、街を一周したんじゃないかと思う。
やばい、どうしようか。
俺は絶望感に浸りながら、地面に座った。
アレがなくなるのは本当にまずいだよな…
と思ってしばらく座っていた。
空を見上げると、もう夕方になっている。
「あ」
俺は少女に言ったことを思い出した。暗くなる前には帰ってこいと確かに言った。
俺は遅くなるわけにはいかないなと思い、絶望感を振り切り、渾身の力を入れて立ち上がる。
「勘弁してくれよ、俺昨日から何も食ってねえんだから」
まあ、といっても
立ち上がったあと、ゆっくりと俺は歩いていく。
そういえば、必死に走っていたから気づかなかったが辺りを見てみると、ハリボテの家が立ち並んでいるところだった。
スラム…街らしいと思ってこれは一層まずいと思って進んでいくと、俺はあるものを見つけてしまった。
「これは…」
それはとにかく青かった。
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