宮子、エミシの巫女となり、エミシノイドを授かる

異空間

「ここは…どこ…?」

異空間に引き込まれたミヤは周囲を見渡す。

「アッチラコッチラも真っ暗闇…もしかして…オラは死んぢまっただぁっ!?」

「間一髪であった…」

「だ…誰でがんすか!?」

(ア…アイヌの人だか?)

混乱の余り忘我するミヤの元に現れたのは、黒地に赤い炎を模した紋様のアットゥシクッで締め、ルウンペ羽織マタンプシ鉢巻きテクンペ鉄甲ホシ脚絆ケリ鮭皮靴で構成されたアイヌ民族衣装を着た男性が2人現れた。

もう1人は同じ黒地のアイヌ民族衣装だが、炎を模した紋様は朱色になっていた。

「俺の名前は阿弖流為」

「俺は母礼」

炎を模した赤い紋様の方は阿弖流為、朱色の紋様の方は母礼と名乗った。

「あ…阿弖流為…?母礼…?本物だか?」

「正確には霊的次元のエネルギー生命体、肉体を持たないが生きている。神と人間の中間と言ったところだろうか」

「ますますわちゃわちゃしてわがんねぇけど、要は神様みたいな存在になった、ちゅう事でいがんすか!?」

「神そのものでは無いが…まぁそう解釈してもいいだろう」

「んで…オラは何じょなったの?本来に死んぢまっただ?」

「死んではいない。肉体ごと別の空間に転移させただけだ」

「転移…?」

「その証拠にお前が捕まっていたそのバイクもそこにあるだろう?」

「ああっ!オラのトリニティ!」

阿弖流為が指を刺した先にはミヤが運転してきたトリニティが浮いていた。

「いがったぁ〜身体もバイクもどっちゃも無事で…」

「ところでお主をここに呼んだのは助けたばかりではなく、頼みたい事があるからだ」

「なんでがんしょ?」

「奥羽の地と民の心は狙われている。俺達より遥か昔に、最初にこの地へ侵攻してきた「上毛野田道」が鋼の龍として復活し、奥羽の民狩りを始めた」

「民狩り?」

「奥羽を憎む心を持つ者を鬼にし、更にはあらゆるものに取り憑いてロボット生命体として使役し、互いに争わせる…これを「鬼夷」という」

「なんちゅうおっかねぇ手を使うだ…」

「田道の鬼夷に対抗するため、奥羽の意思はかつて各蝦夷の長から我々を選び、エネルギー生命体として復活させたのだ」

「んなのすか…ってもしかしてさっきオラを襲った恐竜みでなロボットは?」

「恐らく多賀城若しくは宮城郡に住まう我等の同胞が鬼夷にされたのだ!」

あんやほになんてこった…」

「そこで俺はこの地を走り、土地を愛する心を与える乗り物を基に、対鬼夷兵器「エミシノイド」を作った!」

「エミシノイド?ああっ!」

阿弖流為が指を刺した先にはEF81形電気機関車と24系客車1両を模したメカが浮いていた。

「出世列車“あけぼの”だじゃ!先日臨時便が消えたなんてニュースを見たけんど、阿弖流為の仕業だったんだか!?出世列車を東北地方防衛マシンさしちまうなんて!!」

「そう言う事だ」

「だが問題はそこではない!」

「神孫子宮子、お主を田道と鬼夷から奥羽の地と民を守る「蝦夷の巫女」に任命したい!あのエミシノイド1号機「エミシオン」と共に田道と鬼夷から奥羽を守ってくれないか!?」

「オ、オラが…い、いぎなりに「守ってけろって言われたって、オラさ出来るべか?東北地方防衛なんて…」

「求められるのは肉体的な強さではない!」

「お主が生まれ育ち、そしてまだ見ぬ景色が広がる陸奥国と出羽国を愛する心が強いか否か。蝦夷の巫女に求められる強さはそれだ!」

「東北地方を…愛する力?」

「そうだ!田道の鬼夷は陸奥国並びに出羽国の人と地を憎む力を源にしているが、エミシノイドはその逆。陸奥国、出羽国、奥羽の地とそこに暮らす人々を好きになれるかどうか。それが力の源になるのだ!」

阿弖流為と母礼から説明を受けたミヤは、しばしの沈黙の後口を開いた。

「なる!オラ、蝦夷の巫女さなる!普段から思ってたのっしゃ!あの震災からオラの心がこの多賀城さ常に引き寄せられているのっしゃ!」

「それは、お主があの時に俺と同じエネルギー生命体として蘇った蝦夷の首長の力に守られたからだ」

「あ、あんやほに…んだがらあん時オラばり助かって本当のおどっつぁんにおがさんは…」

「己を責める必要はない。お主を庇った蝦夷の首長のエネルギー生命体の正体はお前が蝦夷の巫女になる事で顕現するだろう」

「わがった!どこまで戦えるかわがんねぇけんども、オラを蝦夷の巫女さしてけらいんください!!」

「良くぞ言った!」

-ピカァッ

阿弖流為が手をかざすと、手先から光の球が現れ、その球は阿弖流為の手を離れ、ミヤの全身を纏った後に、アイヌ民族の装身具「タマサイ」に似た勾玉と小さい円形の鏡で紡がれた首飾りに変形した。

-ピイイイイ

「おおおっ??」

「それは奥羽を愛する力を力の源に変える魔石、「Kアンバー」、「Iペグマタイト」を同じ力を持った油、「Aオイル」を染み込ませた同じ力を持つ蚕糸「Oシルク」で繋ぎ合わせ、同じ力を持った「Kゴールド」で装飾した「北轅鏡ほくえんきょう」だ。使い方、戦い方はその北轅鏡に手を当てれば教えてくれる」

「すげえ!まぼい変身アイテムみてぇだじゃ!」

北轅鏡をまじまじと眺めるミヤに対し、阿弖流為は指示を出した。

「よし、行け!蝦夷の巫女、神孫子宮子よ!奥羽の脅威から人々と大地を守ってくれ!!」

「わがりすた!阿弖流為!母礼!」

「とその前にお主のバイクもエミシノイドにして、エミシオンと連携して急行できるようにしよう!」

「は?」

阿弖流為がミヤのトリニティに向かって手をかざすと、直接光波を放ち、ミヤのトリニティを面影が無いサイドカー付きトライク型マシンに改造してしまった。

-バシュー

-グングングン

「あーオラのトリニティが!!せっかく買って運転したばりなのにやー!!」

「エミシトライク」だ。偵察や現場急行に使うといい!」

「でもコレはコレでまぼいかも…」

「先程の場所に戻すぞ!体勢はいいな!?」

「はい!!」

-ブワッ

ミヤとエミシトライクは異空間から現実世界の多賀城跡の駐車場に転移された。

そしてミヤを見送った異空間では、母礼が阿弖流為に質問していた。

「阿弖流為、あの神孫子宮子とか言う少女の中にあいつが眠っている事を知って蝦夷の巫女になるように仕向けたんだろう?」

「さあな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る