第4話 オムライス

人間どうしようもない問いを考えていると、本当に考える人のポーズをとって、唸るものらしい。自分で自覚はなかったけれど、どうやら、俺は考える人のポーズをとって唸っていたらしい。


「お兄ちゃん、さっきから、ロダンの像みたいな体勢で唸ってるの、なに?ただでさキモイお兄ちゃんが余計キモイんだけど」

「……なあ柚葉、これは俺の友人の話なんだが──」

「お兄ちゃんでしょ。友達いないのに、何で友達の話なんてできるの?イマジナリーフレンドなの?だったら精神科にでも行けば?」


こいつは、俺の二個下の妹で、まぁ見てのとおり思春期真っ盛りなんだが、本当はお兄ちゃんのことが大好きなのに、反抗してしまう中学二年生なのだ。

………だよな?

まさか素で嫌われてるなんて言われたら泣いちゃうぞ。

というか今日いつもよりあたり強くない?

生理か?

……まぁ下らない話は置いといて、友人の話をしよう。友人の、な。


「………友人の話なんだが」

「………」

すげぇ黙るじゃん。まさここいつ俺に本当に友達の一人や二人いないとか思ってんのか?

「……話してもいい?」ダメって言われたら泣いちゃう。

「もういいからさっさと話してよ!」

ぷいっと横を向いて言う柚葉。

「こいつ可愛いな?ツンデレか?お兄ちゃん大好きか?」

「きもい声漏れてる。好きじゃないし、ツンデレでもない。さっさと話せ」

可愛いのは否定しないのかよ……

実際可愛いからいいけど。


「……いやさ、俺の友人がどうもね、好きな人がいるらしくて、その子に告白したらしいのよ。そしたら、その告白された女の子が友人君は私のこと好きじゃないから、私のこと好きになってって言われたわけよ。意味わかんなくない?」

自分で話してて思ったけど、マジで意味が分からんな。絶対俺悪くないだろ。

「確かに意味わかんないけど、お兄ちゃんが悪いよ。美奈子ちゃんの話でしょ?それって、だったらお兄ちゃんが悪いよ。愛が足りてないんだよ。」

「は?俺の話じゃないけど、俺の友人は愛で生きているような男だから愛が足りてないわけないだろ」

「いい加減しつこいな。認めりゃいいでしょ。その年にもなって、そんなんだから愛想つかされるんでしょうが」

こいついっちゃいけねぇ言葉を言っちまった……

「お前それ証拠あんのかよ?証拠、あんなら出せよ。おらぁ!」

「チンピラみたいな反応なに?事実でしょ。ストレートに振るのは嫌だったんでしょ。だってお兄ちゃん逆上して犯罪とかしそうだし」

「……」

妹にいじめられて泣きそうなんだけど、俺の威厳どこよ?

あぁもう無いか……


「まぁでも好きって言ったのはすごいじゃん。これで前に進めるね!女の子なんて星の数ほどいるんだから心配ないよ。きっとお兄ちゃんにも素敵な人が現れるから」

「星には手が届かないってか?」

「めんどくさいなぁこの人」

「悪かったな。めんどくさくて」

リビングから時計の音がチ、チ、と鳴る。それを見て、もうお昼時だと知る。

「取りあえず飯食うか?話聞いてくれた礼にご飯ぐらい作るよ」

「うぅん。じゃぁお願い」


甘えたような声でお願いと言った柚葉はもうスマホを触ってソファーでゴロゴロしていた。

それを見てから俺も、料理に取り掛かる。

家は両親とも仕事が忙しいため、自然と俺や柚葉は料理ができるようになっていた。

昔は水瀬の家で夕食をご馳走されることも多く、その時は柚葉も一緒に夕食をご馳走になったものだが、もうだいぶ、水瀬の家には行っていない。

そういえば、水瀬の作ってくれたオムライス上手かったんだよな。


当時水瀬が唯一お母さんに教えてもらって、上手にできたものだったから、勿論手伝ってもらってだが。だからいつもは水瀬の母親の葵さんが作ってくれたんだけど、その日は水瀬が葵さんと一緒にみんなのぶんをつくってくれたんだよな。

アレを食べて俺も水瀬への対抗心からか、料理作ってみようかな?なんて気分になって、料理するようになったんだっけ。確か。

案外覚えてないもんだな……

水瀬に分かってないって言われたけど、本当に分かってないのかもな。

こんなことすら忘れていたんだから。

そんなことを考えていたからか

「お兄ちゃん、私オムライス食べたい。お兄ちゃんの作るオムライス美味しいから」

ソファーからひょこんと顔を出して笑いながら柚葉が言う。柚葉の顔を見て、分かった。作るよと言った。


オムライスは俺の得意料理でもあるのだから。

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