初めて投稿した掌編

34回目の孤独

 1回目の孤独を葬ってから何年か経ち、34回目の孤独がやってきた。


 前回に限って言えば、僕は確かにヤツを仕留めたはずだった。首根っこをグイと掴み、金麦が二本程運ぶのにちょうどいい大きさのセブンイレブンの袋に押し込んでキツく固結び、ゴミ箱に放り込んだ。放り込んだ後、やはり気になるのでそのままアパート脇のゴミ収集場にまで持って行き、重たい扉の中に捨ててやった。


 1回目の孤独との遭遇はきついものだったが、34回目にもなると手慣れたものだった。孤独であることを知ればそれは友達となる。しっかりと耳を澄ませば、ちゃんとその予兆はある。気付かないだけなのだ。もしくは、気付かないふりををしているだけなのだ。


 手早く同様に始末した後、コーヒーを淹れて飲みながらテレビを観ていると、スマートフォンが鳴った。家ではマナーモードにしていないので、木琴の音が静かなリビングに響いた。発信元は不明。「不明」。


「もしもし」

 もしかしたら会社からかも知れないので電話に出た。別に僕の休日の1分、2分が失われた所でどうという事はない。

「ワタシは友達だよ?」

 低くくぐもった声が聞こえた。

「孤独か」

 僕はそう聞き返した。こどくか。カッコいい。映画のセリフみたいだ。

「そうだよ、なんで捨てるんだよ」

「要らないからだ」

 即答した。必要ない。世界で一番必要ない。トイレットペーパーの芯、切った爪、猫の独り言、割れた窓ガラス、夏の濡れたアスファルトの匂い、知らない子供の笑い声、木にぶら下がったTシャツ。

「だから捨てるの?」

「綾波レイかお前は」

 エヴァンゲリオン破は素敵な映画だった。Qも悪くない。でも、ちょっと謎掛けが過ぎる。


 くぐもった声は少し沈黙した後、意を決したようにキッパリと言った。

「いつも見て見ないふりをしてワタシを捨ててるけど、これだけは言わせてほしい。だから電話した。もう、マジで、本当に勘弁ならない。言わせてほしい」

「どうぞ」

 さっきも言ったけど、僕の休日の2、3分が失われた所で、本当にどうということはないのだ。

「ワタシを捨ててる時、あなたは自分自身の一部を同時に捨てている事に気付いた方がいい。今はまだ大丈夫。あなたには余裕がある。たっぷり蓄えたエイヨウがあなたを守っている。支えている。でも、いつか必ず、致命的な部分をワタシと一緒に捨ててしまう。そうすると、もう取り返しがつかない。あなたは一生元に戻らない」

 それだけ一息で言うと、電話の向こうで孤独は沈黙した。

「なるほど。それで、どうすればいいのかな?」

「どうって…」

 明らかに動揺していた。孤独も動揺するのだ。

「とりあえず、この暗くて臭い場所から助けてほしいんですけど…」

「バカか。どこに一度捨てた孤独をゴミ箱から救出する変態がいるんだ」

「いやしかし、今すごく良いことを言っ…」

「もう思わせ振りや、見えないものを大きくして自分自身の事にするのは終わりだ。僕はもう大人になった。影は影、犬は犬、ファックはファックだ。100回言っても良い。たかだかコピペを100回するだけだ。失せろ、そこで朽ち果てろ、バナナの皮と一緒に臭くなって死ね!」


 ピンポーン


 アパートのベルがなった。

 妻が帰って来たのだ。


「もうお前に用はない、二度と僕の目の前に現れるな!」

「待っ」

 受話器を叩きつけたい所だったが、持ってるのはスマートフォンだった。僕は左手でスマートフォンを持ち、肩を小さくしながら右手の人差し指で赤い受話器ボタンを押した。問答無用だった。何と言っても、妻が帰って来たのだ。最優先だ。もうすぐ晩御飯の時間だ。


 おかえり、と言いながら僕は玄関を開けた。とびきりの笑顔で。孤独なんか、まるでなかったみたいに。



「ちーっす、クロネコヤマトでーす」



 アマゾン。ドットシーオージェーピー。


(完)






集計期間: 2018年1月23日 23:50 〜 2020年3月17日 00:43

⭐︎3 💗5 👁49


解説

初めて投稿した掌編。何も分からず右往左往して、初めて💗が付いた時はとても嬉しかった覚えがある。その後⭐︎システムを知ったのだけど、あんまりよく分からなかった。「小説、ずいぶん昔に書いてたな、ちょっとだけ書いてみようかな」とノリで書き始めたのだけど、ペンネームを思い付くまでに少し時間が掛かってしまって、イライラした覚えがある。江戸川台ルーペは意外と好評で、僕も何となく気に入ってきた。


書き始めるとすごく楽しくて、読み返せば読み返す程、いかに僕が語りたかったか、ものを書きたかったかが分かって、辛かった。自分がものを書くという事に飢えていたなんて、全然自分では気付いていなかった。この掌編の一行一行の隙間に、僕が語りたい事がぎゅうぎゅう詰まっているように思えた。かっこよく言えば、僕のカクヨムの原点であり、故に消すのも憚るので、ここに残しておく次第である。今読み返すと本当にひどいものだなぁ、と思う。でも愛着はある。










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【エッセイ集】空気の中から取り出した名無しの感情 江戸川台ルーペ @cosmo0912

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