9.カクヨムに書いて失敗した

※TOPに並んでいるものと同内容です


 ポジティブな事しか書かない事で有名な(どこで有名なんだ)このエッセイも今回を含め、あと二回となった所でついにこのお題であります。すなわち、『失敗したこと』。誰でも失敗はする。失敗しない人はいない。そうですよね?


 一番最近僕が、しまった、失敗したなぁと思ったことは、

「カクヨムで小説やエッセイを書いてしまったこと」

 だ。ツイッターでフォローしてた人が小説を書いて、その人を応援する為に登録したカクヨムがその発端である。しばらく放置していたが、ついムラっときて書いたのが最初の「34回目の孤独」だった。ペンネームもその時適当に考えた。書くことはとても楽しかった。


 それから、新しい小説を書き始めてしばらくして、「そういえば、他の人はどんな小説を書いているのだろう」と気になってきた。仕事が終わってコツコツと書いたり、休みの日にテレビを消して文章を書いていると孤独な気持ちになる。志を共にする人達の文章を読んで、励ましの気持ちをちょっとだけもらいたい。そんな気持ちになる時がある。いつも中指を立てて俺イズゴッド、ファック、デムニッ!などとテンションが高く保てる訳ではない。そこには、僕が敬愛する春樹や龍や亜門やアーヴィングみたいな小説がたくさん載っているのだろうか?



 異世界転生ハーレムが大ブームだった。

 三行くらいの女子高生の日常が大人気だった。

 職場の愚痴や実態(これは面白いのもあった)を暴露していた。



 そこで僕は、自分がこの中で老害に類するオジさんであり、文章や小説に一定の固定観念を持つ石頭であり、場違いなレストランに入店し、周囲も見渡さずにホイホイと上着を脱いで、給仕に案内もされずにとっとと座った席でお冷を待つ招かれざる客であった事を思い知った。もっと具体的に言うと、中高生が大勢たむろするサイゼリヤに紛れ込んだ住所不定無職の小汚いおっさんになったような気持ちになった。これは結構キツイ。


 ちょちょちょ、ちょっと待って、ちょ待てよ、と思った。キムタクみたいに。

 僕の中で、文章を書くのって中学校や高校でも陰の方に座ってる人達という認識だ。とても時間が掛かるし、頼まれもしない何かをほじくり出して人様にお見せする公開処刑を自ら進んで受けようと言う、ちょっと変わった(性癖の)人達が取りも直さず、もう書かずにはいられないから書くモノだったのではなかったか。何故にそんなに楽しそうに美少女やロリっこを戦わせることが出来るんだ。冒頭でバインバインの女性に「はにゃぁぁぁぁ」などと絶叫させる事ができるのだ。空想か、空想の共有か。それはそれで素晴らしいけども。


 一緒に文章を書く志を持つもの同士が集まる場所で、いや、そういう場所だからこそだと思うのだけど、より一層深く深く孤独な気持ちを味わった。もうこんないい歳こいて、必死こいてみっともなく書いた文章を発表する場所は、この地球上のどこにも無いのだ。チラシの裏に書いてうんこ拭いて流すくらいにしか使い道がないのだ。サイゼリヤの明るい店内で、大テーブルに座った大勢の中高生がはしゃいでいるその隣で、僕は電源が切れた携帯をいじるフリをしているオジさんでしかない。



 鬱だ、氏のう。

 ……そう思って書くのをやめるのが以前までの僕だった。



 でも今の僕は違う。

 僕はもう歳をとったおっさんだ。

 いっぱい恥をかきました。

 いっぱい挫折をしてきました。

 いっぱい絶望してきました。

 いっぱいとおっぱいは似ている。

 こんな事も平気で書いて、しかも翌日には忘れてるくらい馬鹿なんです。



 誰かが言っていた。

「喫煙室で物事が決まる会社の風習なら、自分もそこに行ってパッパと決めちゃう方が早いよね。人や会社を変えるより、自分自身を変える方が簡単だから」

 とても優秀な人だと思う。

 そうだ、人を、組織変える、なんておこがましいにも程があるのだ。

 カクヨムは空想を共有する装置。

 そこに僕やカクヨムを利用している作者様は好きなものを書いて、読み合って感動したり笑い合えば良いのだ。読まなくっても全然自由なのだ。僕は何を絶望していたんだっけ?


 そう、そうだ。

 僕と同じ気持ちで、テンションで文章を書く人達が偶然たまたま見当たらなかったから孤独を感じていたのだ。僕が読みたい小説が見当たらなかったからと言って、勝手に絶望していただけだったのだ。何様ですか僕は。後からノコノコやって来たくせに、自分ばかり自分勝手に小説を書いて他人の物も読まず、ひょこっと覗いた他人の小説を読んでクサす。冒頭「はわああああああ」の何が悪いんじゃ。最高に斬新だわ。パクるわ、逆に。ナメんな、カクヨムを。そもそも僕はカクヨム以外にどこに書けっていうんだ。どこでも一緒だ、面白い小説はどこで書いても芽吹く筈だと信じている。信じている。


 きっと僕と同じ気持ちになった人が少なくとも三十人はいると思う。一人のなろう作家(この呼び方は嫌い)が思うことは、他三十名が同様の事を考えているという調査結果もある。あると思う。そして、そうした潜在的仲間はどこかへ去ってしまったかも知れない。アメーバ星か、なろう星か、ハテナ星あたりに。そこで書き続けているかはわからない。書いていて欲しいな、と願う事しか出来ない。遥か頭上の空にはインターネットの無数の星の海が瞬いている。ここに留まる理由は彼等には見つからなかったのだ。




 ☆ ☆ ☆ ☆




 僕はレストランに入店した。

 あたりを見回すと、どうやら価格帯が低い、でも店内は明るく、とても活気溢れるお店のようだ。先客が大勢いる。僕は、とある事情で彼等が同じ志を持った尊敬すべき先輩達である事を知っている。

 給仕が気付いて、僕をテーブルに案内してくれる。

「こちらへどうぞ」

 とても感じの良いウェイトレスだ。来るものを拒まない笑顔が素敵だ。

 

 僕は大勢が座る大テーブルの脇の、一本通路を隔てた窓際の席に通される。

 大テーブルの客を横目に見ると、若い男性や女性、そして何か被り物をしている年齢・性別不詳の人達だ。食事をしながら大きな声で賑やかに盛り上がっている。

「初めまして、江戸川台ルーペと申します。よろしくお願い申し上げます」

 頼まれもしないのに僕は挨拶をする。

 本当はそんな挨拶なんか必要が無いのかも知れない。

 でも、こう見えて僕は礼儀正しいことで有名なのだ。

 その瞬間、大テーブルに着く人々はシンと静まり返って僕を凝視する。こいつは何を言っているんだ?、というような雰囲気で。

 男性、女性、にわとり、セガサターン、犬、猫の被り物もある。とにかく大勢が座っている。テーブルの向こう側が見えないくらいに。


 それから何かの拍子で、再び大テーブルはドッと活気を取り戻す。何事もなかったかのように。僕に近いところに座っている数名が

「よろしくね」

 と、歓待しない大テーブルの責任の一端がまるで自分にあるかのように、申し訳なさそうに挨拶を小声で返してくれる。その人を僕はとても良い人だと感謝すると共に、ちょっとだけそんな風に言わせてしまった自分に罪悪感を覚える。


 僕は上着を脱いで、メニューを手にとって眺める。

 感じのいい給仕の女性がニコニコしながら水を持ってきてくれて、そのまま去る。僕が然るべき注文を決め、呼び鈴を鳴らす瞬間まで、彼女はカーテンの向こう側で躾の良いドーベルマンのように待機しているのだ。

 さてと、と僕は腕まくりする。

 向かいの席は空席だ。

 誰がそこに座るだろう?




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