4.良い文章って何だろう

『 手紙かな 』



 第一回目で文章が好き、と言いながら、僕は毎日は本というものを読まない。本を読むよりずっとBSでやってる映画を観る頻度の方が高い。持ってる数も本より映画のDVDの方が多いかも知れない。映画は一日二本はいける。最高で四本(レンタルDVDの時代だ)観た事があるが、さすがにしんどかった。見終わった後、一本目の感想が他の三本に上書きされて一切思い出せなかった。観終わった後の気持ちや余韻はどこに行ってしまったのだろう。ひっそりと僕が気付かないところに設置されている心の倉庫みたいなところで出番を待っているのだろうか。


 僕の得意技は、一度観た映画ならどのシーンでも五秒くらい観たらタイトルが当てられるところだ。さすがにエンドクレジットや冒頭でありがちな黒字に白文字で出演者やスタッフの紹介ではわからないけど、役者が演技をしているところや、建物やモブの人達が行き交う街なんかでも映画のタイトルを覚えてる限りパッと名前が出てくる。その特技に気付いたのは、昔(今もやってるかも知らんけど)年末にWOWOWの連続映画上映みたいなやつがあったのだけど、自部屋からリビングルームに行くたびに、掛けっぱなしにしてる映画をちょっと見るたびにタイトルを当てて気持ち悪がられたからだ。僕は滅多に褒められないので、そういう褒められパターンは死ぬまで忘れない(憐れむ目で僕を見るな、見ないでくれ)。


 村上春樹の短編集「夜のくもざる」も友達から借りて、一度読んだら本文の一部を音読してもらうだけでタイトルを当てる事も出来た。今はその内容も忘れてるし、出来ないけれども、いわゆる興味のある物事について短期記憶能力はすこぶる高い、と言えるかも知れない。言えなくもなくなくないかも知れない。その代わり興味のない事や、長期記憶については壊滅的だ。ほとんど痴呆レベルで残念だ。


 本は読まないけれど、僕は毎日インターネットを見ている。趣味はインターネッツ。ウェッブサーフィンです! と面接官の目を見て自信を持って言える(そして落とされる) インターネッツは文字の大海原、ほとんど文字で埋め尽くされており、かわいい動物やエッチな動画(並列するな)以外は文字を読むという作業に没頭できる。熱心に本を読んでいた時よりも、読む文字数で言えば今の方が多いのではないか。


 文章を職業にしていない人でも、書いたブログや小説やツイートなど、何でも良いけど、普通に感動させられたり、笑えたりするものが多い。みんながインターネットをやっていて、発表する場がぶあーっと広がったから、そういう「もっている」人が出し惜しみする事なく目に触れられる機会が増えたからだろう。YouTubeでも歌唱力超絶高須クリニックな方々が大勢いて、もう何でもアリだな! という気がする。


 一方で、そういう個人でやっているインディーズ的な ──収益を考えず、趣味として公開しているものの中で、映画やドラマのようなものは観たことがない。敷居が高須クリニック(気に入った)なのだろう。役者を揃え、音声を拾い脚本を書き天気を気にして撮影して編集してというのは想像するだけでも大変だ。しかも構成する中でどれか一つだけでもチープだと、一気に作品に安物感が際立ってしまう。映像関係はそうした意味で超絶頑張っても報われ難い、気の毒な表現媒体と言えよう。


 僕は自分で書いた文章で暖かいご飯を食べたり、冷たいコーラが飲めるようになりたいと願っている一人ではあるが、そのハードルはすこぶる高いと認識している。認めはしないけど、「甘いこと言ってるんじゃねーよおっさん」「この文章力でか」と言われても仕方のない事だ。僕は将来、文章家になりたいとこうして活動を始めた訳だけれど、いわゆる糸井重里的ないい事も言えないし、ドラクエ10の攻略サイトをやっている人のように細々とデータを取って発表するようなマメさもない。もちろんYouTubeで上手に歌も歌えない。何もできない。


 でも、って思う。

 メールではなく、手紙くらいは書けるんじゃないかと。


 誰か親しい人に向けて、近頃どうしてますか? お元気ですか?というような文章だ。便箋や封筒にちょっと気を使っても楽しいかも知れない。手紙は一生手元に残って、読もうと思えばいつでも引っ張り出して読める。その手紙にはもちろん糸井重里的ないい事は書いてないし、厚生年金(こだわるなー)や所得税の合法的な免れ方なんかも書いてない。残念ながら、そういうのを書くには僕の教養や知識が足りないからだ。


 だけど、手紙を貰って嫌な気持ちになる人はあまりいないのではないだろうか。かつてすんごい意地悪な事をされた、「絶対許さない」と決めた人からの手紙以外、破り捨てたりせず、ちょっと嬉しい気持ちになる筈だ。そして、その手紙を読んだ後、もらった人が思わず返事を書きたくなる文章こそが良い文章なんじゃないだろうか。日当たりの良い部屋で、あるいは夜勤が終わって帰宅したばかりの、まだ朝方の暗い時間帯に、普段PCや食事でしか使わない机に便箋とペンを用意して、元気でやってますよ、とか、隣の空き地の猫が……とか、そういう事を報告したくなる。そういう風に人を日常からちょっと違う風景に連れていく文章こそが、人を暖めて、放っておくとつまらない事ばかりで埋まっていく1日を少しだけ明るくしていくのではないか。


 そうやってしたためられた返信の手紙は、必ずしもポストに投函されなくても良いものだと思う。iPadや電話のメモや、音声にして録音しておいても良いと思う。僕の文章を読んで、「俺も、私も文章書きてぇー! なんか作りてえー!」って思っていただければそれが一番嬉しいかも知れない。何て言ったって、しょうもない四十代のおっさんが時々涙ぐんだり、気持ち悪い笑みを浮かべながらこうして文章を書いているのだ。何でもアリだ。僕は出来れば、これからそういう手紙のような文章を書いていければいいなぁと思う。


 何だかハードルを上げるみたいでこれから公開する小説については語るのが怖いのだけど、ほとんど書き終わってる小説は、何回かセックスシーンが出てくる。人が死ぬ。これは個人的な小説だと割り切って、「人に嫌われても仕方ない。そんなの気にするな」と何度も思いながら書いた。人に宛てる手紙のような文章を書きたいとついさっきまで言っておきながら、手紙にファックシーンがわりと詳細に書かれてたら失礼かも知れないと思って補足させていただいた。


 それはそれ、これはこれ。


 最強ワード。

 座右の銘にしたい(爆弾みたいにバカだな)







【コメント】

◇江戸川台ルーペさんの文章は、面白いです。このエッセイだって、別によくよく読めばなんてことない内容なのに。内容云々ではなく、読ませる力を発しているものは、文章そのものそれ自体、という感じです。


◆(お名前)様

コメントありがとうございます!

(お名前)さん程の世界観をお持ちの方が、このような文章を読んでいただき、さらにコメントまでいただけるのは大変光栄です。本当に、自分でも大したことを書いてるつもりはないのですが、それでも面白いって言われるとすごく、すごく嬉しいです。大げさではなくて、生きてるって感じがします。読んでいただいてありがとうございました!

江戸川台ルーペ 2018年6月30日 00:22


レビュー☆13

読んでしまう

★★ Very Good!!

読み始めると読んでしまっている。

作品のどれにもそんな力があります。

2018年6月29日 15:41



集計期間: 2018年4月25日 21:02 〜 2020年2月15日 06:34

❤️9 👁62


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