第2話 お呼び出し
あぁ、この1ヶ月間、コツコツと積み上げてきた成果が、一気に崩れ落ちた気がする。
「しゃ、社長っ!い、今のは……っ」
やばいやばい、本当に私はおそらく今日でクビになるだろう。
すると、ずっと黙っていた社長がようやく口を開いた。
「……お前、桜だったな。」
「……はい。」
「今すぐ社長室に来い。」
「は、はい……。」
社長はそそくさとオフィスから出ていく。
わたしとまりあ含めて前社員が、こちらに注目して青ざめいる。この瞬間、誰もがこう思っただろう。
(((今日、あの子クビになる……)))
私は言われた通り社長室に向かうためエレベーターに向かった。
あーもう、何やってんだろう私。取り乱すなんて。まりあは「大丈夫、そんな簡単にクビにはしないわ。これを機に社長に意見を言えばいいじゃない!」と言ってくれたが、なかなかそうはいかないだろう。だって、あの黒王子だもの。(はぁ〜、足取りが重い……)
コンコンコン。私は社長室の分厚く大きいドアの前に立ち、震えた手でノックをした。
「…お入りください。」秘書の朝比奈さんの声がした。
「…失礼します。」深いドアの開ける音が社長室に響いた。私は恐る恐る入る。
一直線先には、堂々と社長らしいオーラを漂わせながら、足を組んで座っていて、となりに秘書が姿勢よく立っていた。
私は震えて声が出せなかった。
カチャと朝比奈さんのメガネの音がした。これは、さっさと社長に謝れということだろう。
私は震えながら声を上げた。
「……この度は……っ誠に申し訳ありませんでしt))」
「桜さん」私の精一杯のお詫びの言葉は、朝比奈さんの言葉によって遮られた。社長はまだ顔が怖いまま。相当怒っているのだろう。
しかし、朝比奈さんは口を開き、予想もしなかった言葉を言う。
「……桜さん。」朝比奈さんもいつもの笑顔ではなく、何気に顔が強ばっているように見える。
「は、はいっ」私は社長とは違う悪寒を感じ、反射的に返事をした。
「桜さん、あなたは謝る必要はありません。」
ん?今朝比奈さんなんて言った?
「は、はい?」私は信じられずもう一度聞き返してしまった。
「要するに、悪いのは全てこの人なので。」
朝比奈さんは社長である黒崎さんを思いっきり指さしている。
「…朝比奈、俺に指を指すな。」
さっきまで強ばっていた表情がさらに黒くなった。
私は訳が分からず、とりあえず単刀直入に聞いてみた。
「…何を仰っているかよく分かりませんが、私はクビなのでしょうか…?」
すると朝比奈さんは即答した。
「桜さんをクビにはしません。当たり前でしょう。私はどちらかと言いますと社長をクビにしたいくらいです。」
え?朝比奈さん?そんなこと言っていいの?いくら幼なじみだからって社長に向かって……。私は変な汗ばかり出ていた。自分の首の心配よりも、朝比奈さんが痛い目に合いそうでそっちの方がヒヤヒヤした。
すると社長はダンッと机を鳴らし、立ち上がった。
「あー!もう!!」
「え!?」しゃ、社長!?
「朝比奈ぁ!さっきから俺が喋らなかったことをいいことにベラベラと本人の前で悪口言いやがって!!」
「すみませんが全て本音です。」ときっぱり言う朝比奈さん。
「で、では、どうして私を……?」
「はい、実は桜さんに頼み事がありまして……」
今日の出来事が、後に人生が180度変わるということをこの時の私はまだしらない__
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