社会人1年目、社長に求婚されました。

@aisuya

第1話 新人

会社内に響くタイピングやクリックの音、ほのかに香るコーヒーの匂い、私はすぅっと息を吸い、深く深呼吸をする。私はさっきの社長の言葉がずっと頭に残って忘れずにいる。

「__お、俺と結婚を前提に付き合え。」

そこには、顔を真っ赤にした社長がいた。




__遡ること数ヶ月前。


私が入社して1ヶ月の頃。

早朝出勤にはもう慣れた。早起きは得意ではないが、今日は定時で帰るために提出しておきたい仕事があるため、バタバタしつつもいつもより30分早めに出勤できた。

(あ、社長だ)私は社長室に向かう社長と秘書を見つけた。

「........なぜ社員の出勤はのんびりなんだ。」

朝から機嫌が悪い社長、眉毛の間のシワがすごい。そんな社長をお構い無しに秘書の朝比奈はきっぱりと告げる。

「仕方がありません、社長。そもそも社員の出勤時間は8時半ですし、何しろあなたは社長ですから、社員より早く出勤するのは当たり前でしょう。…小学生じゃないんだから、早起きどころでグチグチ言ってないでください。……馬鹿なんですか?」

「バッ……そ、そんなことわかってる!!うちの会社には優秀なヤツらばかりだが、仕事をこなそうという熱意が足りないのだ、、、。」

はぁ、と少々呆れている社長。でもさすがに社員に対して厳しすぎないか?そんなのみんな頑張ってるのに……。私は腹が立ってきた。(ってか私出勤してるんだけどなぁ。)

せっかく早朝出勤してるんだから、挨拶しておかなくては。

「……黒崎社長!」私は社長の元へ急ぎ足で行く。

社長は自分と朝比奈しかいないと思っていたため、びくっと肩を揺らし振り返る。

「お、おはようございます。」

「あ、あぁ、おはよう。……えーっと、確か……」

社長は人差し指を顎にあて私の名前を思い出している。いや、忘れるの早くない?

するとすぐに隣にいた秘書が答える。

「桜、蒼井桜ですよ、社長。つい先月入ったばかりの新人です。」

「あぁ、そうか、どうりで……」

見ない顔だって?社長はこんなやついたか?という表情をしている。分かりやすいな、この社長。私は社長を前に失礼なことを思っていた。

「どうして新人のお前が早朝出勤している、まだ他のやつは来ていないぞ」

「そうなんですが、今日中にどうしてもまとめておきたい仕事がありまして。」

「お前、新人にしてはやる気があるな。良いことだ。」

「ど、どうも……」

褒められると思わなくて思わずぺこりと頭を下げた。私は歩きながら、社員に対して厳しすぎる社長への苛立ちが冷めないでいた。




その30分後、同僚や他の部署の社員も続々と入社してきた。

「あれ?桜?今日早いね!」

おはよう、と声を掛けてきたのは私の友達でもあり同僚である まりあだ。

「おはよう〜、今日早朝出勤しないと終わらない仕事があって。」

「へぇ〜、私も見習わないとな笑 同じ新人同士で任されてる資料ちょっと違うもん。さすが、仕事出来る女!」

なんかその言われようは複雑だ。

そして毎日のようにこの時間になると黄色い悲鳴が聞こえる。

「「キャーッ!黒崎社長と秘書の朝比奈さんよ!今日もお美しい……!」」と朝から女子社員が騒いでいる。

まぁ、美形だとは思うけど、イケメンにはあまり興味が無い。そりゃあ、恋愛して30歳までには結婚はしなくちゃとは思っているが、今は仕事に専念していたい。

「やっぱ、あの2トップには叶わないねぇ〜」

3次元には興味無いとか言ってたまりあもなんだかんだ言ってあの2人のかっこよさには認めている。ただ、タイプじゃないの一点張りだが。

「へぇ〜。」全く興味のない返しをする私。

そんな私の反応に「いや、反応うっす!」とツッコミながらも告げる。

「あの2人幼稚園からの幼なじみらしいよ!」

なるほど。早朝、社長と秘書の会話に関わらずそこには少なからず友達関係のようなアットホームな雰囲気を感じたのはこのせいか。

私は納得して思わずうんうんと頷いた。

でも私は1週間前、同じく同僚の拓也にすごく厳しく叱っているのを見ていた。いや、まぁ拓也のミスもいけないが、言い方がキツイのだ。目につく点は他にもある。

とりあえず、社長には愛想が全くないのだ。仕事関係の偉い人には営業スマイルをするわりに、社員には厳しく、それに比べて秘書の朝比奈がそれをカバーするように笑顔を振りまくので、余計悪目立ちしている。

そんな社長は裏では社員に黒川ならぬ黒王子と呼ばれている。あの態度で王子という名がつくのは、よほど顔が良いからである。そして、それに対比するように、秘書の朝比奈は白王子と名付けられている。

(ほんとに、社長はもっと素直になればいいのに。それじゃ社員が……)

なんかだんだん腹が立ってきた。あんなのが社長でいいはずがない。あーもう!!

「ん?桜、難しい顔してどうしたの?」

「もう!!この会社、あんな社長じゃ絶対上手くいかないわ!このままじゃ、社員もやりずらいわよ!」

「!?さ、桜!?急にどうし……、っっ!!」

「まりあ、聞いて!朝だってね、社長すごく……」

私は声を上げ過ぎてしまったのだろうか、まりあがびくっと肩を揺らして驚いている。でもそんなのでは私のイライラは治まりそうにない。

「……すごく、みんな頑張ってるのに、熱意がないって愚痴ってたんだよ……!あんなのいくらなんでも酷すぎるよ!」

私の言葉はもう止まりそうにない。

まりあの顔色がどんどん青ざめている。やばい、言いすぎたかな、と少し焦った瞬間だった。

「……さ、桜!う、後ろ!」

「……え、後ろ……?」

どうやら青ざめていたのは私の言動ではなかったらしい、そこには黒いオーラをまとって明らかに怒っている、黒崎社長、いや、黒王子がいた。

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