第18話 桜鬼(4)

一方、アニスの方は力任せに攻められて、少し苦戦していた。

横目でちらちらとバーンご主人様の方をうかがう。

あまり形勢が良くないことを悟った。

バーンご主人様はやさしいから。

情けなんてかけないで、あんな強突張りの妖怪ババアなんて、吹きとばしちゃえばいいのに。

もうw。

力を使っちゃうし。

困っちゃうなぁ。)

そんなことを思いながら、殴りかかってきた一体の鬼の腕を走り上っていく。

はやくこの三体の桜鬼を倒して、バーンご主人様のフォローをしなければ使い魔としての名がすたる。

「あんまりやると、気が荒くなっちゃうけどお。、行きま~す!」

アニスは、両手で鬼の角を持った。

彼女の目が深紅になる。

鬼は彼女を頭にのせながら苦しんだ。

振り落とそうとするが、なかなか落ちない。

袖口に付いた黒いレースのフリルが振られる体と反対方向に激しく揺れた。細かった彼女の腕が一瞬だがボディビルダーのように極太に変化した。

腕を通して何かが吸い上げられていっている。

「ごっちそうさまでっしたぁ!!」

その言葉を叫ぶと同時に、一体の鬼は、ぱあんっと弾けるように桜の花びらに戻って、消えてしまった。

「けぷっ! あら、やだぁ。」

アニスは、猫のような身軽さで地面にすとんと降り立った。

ツインテールの髪の毛が、まるで羽根のように見えた。

アニスは淫魔サキュバスである。 *「THURISAZ」参照

桜鬼の精気を残らず抜き取ったのだ。

「あと二体。さあ、かかってきなさい。別に同時でもいいわよ!」

食事を終え、力をつけたのか先ほどより頬に赤みがさしていた。

手のひらを上に向けて、4本の指を揃えて、Come on. Come on.していた。

自分の背丈より3倍も大きい鬼に臆することなく自信満々である。

一体が後ろから彼女の体を両手で押さえつけた。

もう一体が彼女の頭を目がけて殴りかかってきた。

「どうしてこう、攻撃に品がないんだか〜。もうワンパターンな攻撃には飽きちゃった」

ため息をつきながら、両足で地面を蹴った。

小さな体のどこにそんな力が隠されているのか、不思議に思えるほどの怪力だ。

押さえていた腕が跳ね上がり、戒めが外れるとまた彼女はくうを舞っていた。

ちょうど桜鬼同士で殴り合う形になってしまった。

殴られた桜鬼は、殴った桜鬼の腕が胸を突き破り、そのまま砕け散った。

あとには大量の花びらだけが残った。

「ほんとに世話のやける」

落ちながら、最後に残った一体の首に腕を巻き付けた。

「さて。」

深紅の大きな瞳をさらに見開いた。

アニスの腕がひとまわり太く、しかも桜鬼の腕のように再び筋肉質になっていく。

そして、さっきよりも速いスピードで、桜鬼は元の姿に戻っていった。

2回転して、音もなくアニスは地面に降りた。

「これで太っちゃったら、困るなぁ。」

首にぶら下がった鈴が、かすかに鳴った。

アニスは、バーンご主人様のもとへきびすを返して走りはじめた。

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