第11話 シャヌラ-5
食後、休憩をしながら順番にお風呂をいただいた。
「寝床なんですが、我が家ではベッドが人数分無いので、近くの空き家をお貸しします」町長さんが提案してくれる。
「家を貸してもらっていいのですか」ぼっさんが尋ねる。
「えぇ。早速向かいましょうか」
「ちょっと待ってください」僕は引き止める。
皆がこっちを見る。
「もう一つだけお願いがあるのですが……」
「何でしょう」町長さんと目が合う。
「玄関のドアのノックを一人ずつさせて欲しいです」ここははっきり。
少し間を感じたが、町長さんは夫人と顔を合わせ、そして笑い出した。
「いやー。何事かと思いましたが……。お安いご用です。では向かいましょう。玄関へ」町長さんは願いを受け入れてくれた。夫人はまだ笑っている。
夫人が手に持つランプの灯りを頼りに、僕はドアに付いている凛々しい犬が咥える輪っかを握る。そして、肘の関節を動かしトントンと二回ドアを鳴らす。
「おおおぉぉぉー」と四人で興奮。
その後、代わり代わりノックをしていく。一人はゆっくりと、一人はリズミカルに。そして大胆に。
僕らは喜びを共有した……。
「みなさんが別の世界からきたということをなんだか実感できます。このようなことで楽しむ姿を見て」町長さんも嬉しそう。
夫人は腹を抱えて静かに笑っていた。
「ここがそうです」一〇分ほど歩き、空き家と言っていた場所に案内してもらった。
多少暗くて全体がよく見えないが、外観はコンクリートで塗り固められており、建物は横長い直方体をしている。
「周りの家とは違い、前衛的なデザインですね」素直に感想を口に出す。
「ここは私の友人が住んでいたのですが、先月亡くなりまして……」
僕たちは黙って聞く。
「身寄りも無かったので、空き家状態となっているのです」玄関のドアに鍵を入れ解錠をする町長さん。
「生活のためのものは一式ありますので、遠慮せずに使ってください」靴を脱ぐ町長さん。
足の砂を綺麗に払う僕たち。
町長さんの家同様、内壁と床は木造であった。キッチンにリビング、浴室、トイレ、それと六畳ほどの部屋が五つある。リビングには暖炉が備わっており、一人がけのソファもある。
「ベッドのみの部屋が四つありますけど……」部屋一つは生活感ある空間だったのだが、残りは綺麗なベッドのみが置かれているのが気になった。
「あぁ。役場でこの空き家をどうしようかと考えていまして、見た目が変わった家なので、簡易的な宿泊施設にしようかということで、とりあえずベッドだけ置いてみたんです」
「なるほどです」シェアハウスみたいなものかな。
「それでは、お言葉に甘えて使わせていただきます」一通り見終わったあと、ぼっさんが伝えた。
僕たちは改めてお礼をし、町長さんと夫人は帰宅した。
我々も疲れているので、適当にベッドのみの部屋を割り振り寝ることにした。
よほど疲れていたのか、ベッドで横になると気絶するようにすぐ寝てしまった。夢も見ることもできず、リビングから聞こえる声で目が覚めた。
ふらふらと焦点も合わせにくい状態で部屋を出て、リビングではなく、トイレに行く。用を足した後、改めてみんながいるであろうリビングへ向かう。
ドアを開け、おはようと挨拶をした。
「シキさんは枕あった?」おんちゃんが近づいてきて開口一番に疑問系の挨拶をしてきた。
「枕? あったよ」裸エプロン姿が脳を刺激し、少し目が覚めた。
「じゃあ私の部屋だけ無かったのか」おんちゃんは肩を落としながら、リビングのソファに尻を落とす。
ぼっさんとうにやんが座っているテーブルへ行き、椅子に座る。ぼっさんが青色のお茶が入ったマグカップを渡してくれる。
ありがとうと受け取り、お茶をすする。白色のマグカップであり、お茶の青さが映える。
「おんちゃん、枕が無くて寝付けなかったらしいよ」状況を一言で説明するうにやん。
「クローゼットには無かったの?」
首を縦に振るおんちゃん。
「じゃあ、僕の枕使っていいよ。僕は無くても寝れるから」
サッとこちらを振り向くおんちゃん。
コンコンっと玄関のドアがノックされる。おんちゃんがご機嫌で機敏に玄関へ向かう。
訪ねてきたのは町長さんであり、何やら急いでいる様子だった。
「今日、家内が早朝から友人と出かけることを忘れていてね。遅刻しそうなんだよ」っと少し息が荒れている。
言葉から察するに、いつもは夫人に起こしてもらっているが、夫人がいないので寝坊したらしい。
「えーっと。こんなものしか無いけど食べて」とパンが入ったカゴがテーブルに置かれる。「それと、これは家内からね」と犬の絵が描かれた封筒を手渡される。
中身を取り出すと、お札が一枚入っていた。
「いいんですか?」
「昨日、料理と風呂を手伝ってもらったお礼だから大丈夫。それと面白い話も聞かせてもらったからって……。必要なものを買うといいよ」と仰ってくれる。
町長さんは腕時計を見て、それじゃと素早く挨拶をし、バタバタと出ていってしまった。
僕らは呆気にとられていたが、意識を立て直し、とりあえずパンをいただく。
パンにはカスタードクリームが入っており、甘さが五臓六腑に染みわたった。
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