第10話 シャヌラ-4
「このひとが私の主人であり、シャヌラの町の町長です」と夫人が紹介してくれた。
続いて夫人が町長さんに僕たちのこと、ここにいる経緯を含めて説明してくださった。助かります。
「チヴェカ君に仕事を頼んだのは私なので、間接的に私も少しだけみなさんの一助になれたんだね」朗らかに喋る町長さん。
「そうだったんですか」ぼっさんが食い入る。
「アクアサの町長に手紙を渡して欲しくてね」低い声だ。「えーっと、今みなさんに必要なことは……」言いかけて止まる。
「…………」
「話が長くなりそうなので、ご飯でも食べながらにしましょうか」有難い提案をいただいた。異議なし。
話が一時中断したのち、ぼっさんとおんちゃんは夫人の料理の手伝いを買って出た。僕とうにやんはお風呂の準備を手伝うことにした。大量のお湯を沸かし、バスタブに運び入れる作業だ。水道設備は整っているみたいだが、湯沸しは自動ではない。流石に。
キッチンでみんなが食事を作っている横にて、大きな鍋を使用しお湯を沸かす。そしてそれをバスタブに持っていくのを繰り返す。結構な労働だ。夫人曰く、お風呂は数日に一回使用するとのこと、他の日は濡れタオルで身体を拭いていると。
薪をくべながらお湯の沸騰を待っている際、ふと隣を見ると抹茶色のエプロンをしたおんちゃんがジャガイモの皮を剥いていた。
「エプロン貸してもらったんだね」何気なく声を掛ける。
「うん。ぼっさんも付けてるよ」後ろを振り返ると、ぼっさんが桃色のエプロンを付けて、食器を棚から出していた。色は夫人の趣味だね。きっと。
ふぅーんと平静を保っていたが、僕は動揺していた。おんちゃんが裸エプロンであることに。まさか人生初の裸エプロン姿を拝見する相手がおんちゃんだなんて。若干落ち込んだ。若干ね。
ちなみに今までおんちゃんが腰に巻いていたうにやんのシャツはリビングの椅子に掛けられている。
お風呂の準備が終わると同時に、リビングでは食事の準備ができていた。
皆テーブルに集まり着席し、いただきますをした。食前の祈りとかそういうものは無いみたい。
「何から話していこうか」と町長さんが話を始めてくださる。
僕はクリームシチューを頬張りながら耳を傾ける。
「今私たちがどのあたりにいるのかを知りたいのですが」ぼっさんが質問する。
ちょっと待っててと言わんばかりに手振りをし、リビングを出ていく町長さん。
「このシチュー美味しいです」うにやんが食事の感想を言う。
「ありがとう」と夫人が返す。「でも二人のおかげでとても早く楽しくできたわ」ぼっさんとおんちゃんを見る。「それとお風呂の準備も助かりました」と。
町長さんがリビングに帰ってきて、地図をテーブル中央に拡げる。僕たちは食器を自分たちの前に集め、スペースを開けた。
地図を覗くと、大まかに五つの大陸に別れていることがすぐに分かった。真ん中に一つ、左右の上下に一つずつだ。
「ここが現在地、シャヌラの町です」町長さんが真ん中の大陸の下の方を指差す。
僕は指でパンを千切る。
「そして、ここがアクアサの町で」町長さんの手が地図の南西の方角へ移動する。
僕のパンを持つ手が口元へ移動する。
「ですので、シャヌラとアクアサの間のこの辺りが、みなさんが現れた場所だと思います」町長さんの手が少し戻り平野部を示す。
パンをシチューに付けたほうが美味しいなと思い口元から戻し、パンをシチューに浸ける。
「じゃあ、山を目指さずに反対側、南に進んでいたら何も無い海に出てしまっていたんですね」とぼっさん。
「チヴェカさんに出会う前から山の方角を目指していて正解だったわけだ」おんちゃんがサラダにドレッシングを掛けながら声を出す。まだエプロンを着ている。
「この線は国境を表しているんですか?」うにやんが大陸中央を横断している破線を指差す。
「そうです。私たちがいるのがミクスリス王国」
へぇ。国王がいるんだ。シチューに浸けたパンを頬張りながら思う。
「そして北側の国がグネーグマスター」
ぶフっと口の中のパンが吹き出しそうになる。国としてはユニークな名前が耳に入ってきたためだ。
「…………」
どうかしましたかという空気に包まれる。
「失礼しました」パンを飲み込み、とりあえず謝っておく。「グネーグマスターという名前の国ですか?」確認してみる。
「そうです。ここは、グネーグマスターはマスターフィコイが治める国です」
「あぁ……。国を治める人の称号がマスターなんですね」
「その通りです」
とあるSF映画を思い出し、さらに口の端が緩んでしまう。
それから、僕たちは周辺のアクアサ以外の町のことや、王都メリアニャについて教えてもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます