第12話 シャヌラ-6
「何が必要?」四人でテーブルを囲み、一枚のお札を俯瞰する。お札は10000と記されており、ひらがなの「ひ」を九〇度左回りさせ横線が二本引かれた記号が付いている。おそらく、いや間違いなくお金の単位だ。読み方は分からない。
「おんちゃんの服じゃないの」ぼっさんがおんちゃんを見る。
「あぁ、正直この格好にも慣れてきたけど」おんちゃんがエプロンを軽く引っ張る。
「いや。俺たちは見慣れないから。いつまでも。これからも」とおんちゃんの裸エプロンを一刻も早くやめさせるように持っていくぼっさん。
口を尖らせるおんちゃん。
「ボクたちの下着もいるでしょ」うにやんの発言。
うんと頷き同意する。
「あとは食料だね」
「うん……。とりあえず、そんなところじゃない」とぼっさんが立ち上がる。
僕らも立ち上がり玄関へ向かう。
「靴は? 買う?」靴箱が機能していない玄関を見て呟く。
「うーん。とりあえず後回し?」ぼっさんに迷いが生じる。
「後で大丈夫でしょ」おんちゃんが裸足で外へ出ていく。
少しだけ心強さを感じた。
買い物といえば、ということで、昨日通り過ぎた商店街へたどり着いた。ぱっと見食料ばかりで衣服を売っている場所が見当たらない。僕たちは手分けして探すことにした。
昨日からずっと共にいるので、たまには個別で行動しようという提案がされた。僕によって。
みんなには悪いけど、目立たずに街を散策したいのだ。ふっふっふ。
とりあえず、服屋を最初に探して、のんびりと他の店を見ながら皆と合流しよう。
「すみません」善は急げ雨あられ。前を道行く人に服屋の場所を元気よく聞いてみることに。
だが、振り向いた人を見て心底驚いた。忘るることができないこの顔は。
「…………」
昨日商店街で最初に話しかけた男性だった……。
向こうも僕のことを覚えていたようで、二人して「あっ……」と言ってしまった。
僕が前世に何をしたんだろうか。このような仕打ち、あんまりではありませんか。っと脳内の自分が天を仰ぐ。現実の自分は俯いている。しかし、相手の男性にとっては被害者であり、僕は加害者になるのか。そう考えると申し訳なさが気泡のように浮かんできた。
「シキさーん」と後方から天の声、否、おんちゃんの叫ぶ聞こえてくる。「あったよー。服屋あったよー」
衆目の中、裸エプロンの男に大声で呼ばれている。振り向けば知り合いだと思われてしまう。しかし、もう目の前の男性には、知り合い同士であることがバレている。振り向かない訳にもいかない。まさに前門の虎後門の狼。使い方合ってます?
仕方ないので、男性には失礼しましたと謝り、僕はおんちゃんの方へ走り寄った。
僕が歩いていた大通りではなく、一本横の狭い通りに衣服関係の店が立ち並んでいた。ぼっさんとうにやんも一緒であり、どの店に入るか選んでいたとのこと。
「なんていうか。服屋の人からすれば、店に裸の人が入ってきたら、こんなの絶対服買うでしょって思うから。店側から見れば、おんちゃんは鴨ネギだよね」うにやんが面白いこと言う。
「でもさ、実際に自分が服屋の店員だとして、裸の男が入ってきたら恐怖でしかないよね」ぼっさんが別の視点で言葉にしてくる。
「あぁ」想像して納得する僕とうにやん。
「あのー。入店し辛いことを言わないでもらえます」おんちゃんが後ろから声を掛けてくる。
「ごめん」心を込めないで謝る僕ら。
結局、明らかに趣味ではない服屋は避けて、適当なところへ入ることにした。
扉を開けチリンチリンとドアベルを鳴らし入店すると、カウンター奥で座りながら新聞を読んでいる四十代ほどの男性がいた。おそらく店長だろう。店長は「いらっしゃいませ」とこちらをらチラ見して、再び新聞に目を落とした。しかし、素早く顔を再度こちらに向け二度見してくる。店長の中の警戒レベルが上がったのであろう、瞬時に立ち上がりこちらに小走りで近づいてきた。
「本日はどのようなご用件でしょうか」と月並みなセリフが鼓膜を揺るがす。
「この人に衣服を一式欲しいのですが」とおんちゃんを手で示す。
抹茶色のエプロンのみを着ているおんちゃんを見ながら「素敵なお召し物ですね」とお世辞を言う店長。
おんちゃんは店長に任せて、僕たちは下着を探しながら、適当に見回ることにする。
早速、下着、パンツを見つけて値段を確かめると500と値札が付いている。数字の後ろには例のお金の単位記号も。
「パンツ一枚五百は高いの? 安いの?」ぼっさんがパンツ片手に話しかけてくる。
「さっき、キャベツっぽいものが一玉200って書いてあったよ」僕は大通りで見た記憶を頼りに喋る。
「じゃあ、無難な価格設定か……」しかし、ぼっさんの表情は変わらない。
「他の店も見に行ってみる?」
「そうしようか」
おんちゃんに四苦八苦している店長に、「ちょっと、外出してきます。すぐ戻ります」と伝え三人で出ていく。「えっ!」と驚きの表情を隠せない店長。
僕たちはどこの店も同じような値段であることを確認して、言葉通りすぐ戻ってきた。安堵する店長。
「とりあえず、一枚ずつ購入でいい? 今履いているのを合わせて一人二枚ずつ所持するということで」パンツ両手で聞いてくるぼっさん。
「おんちゃんは今履いてないから、もう一枚必要じゃない?」僕は考えを述べる。
ぼっさん、あちゃーという顔をする。
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