第7話 シャヌラ-1

「うにやんさん、そのTシャツ……」


「鈴知こもか」うにやんはTシャツの端を持って軽く伸ばし、生地のたるみを無くした状態のこもかを見せてくれる。


 鈴知こもかとは「なないろヘルツ」という作品のキャラクターである。女子高のアイドル研究会を舞台とした作品であり、最初はネットラジオの番組からスタートしたのだが、歌の動画配信&ライブ活動をこまめに行なっていった結果、着々とファンを作り、現在はゲームやアニメが作られているほどに成長した。鈴知こもかとは、その「なないろヘルツ」の主人公。ではなく、天真爛漫な性格でメンバー間の円滑油的ポジションにいる女の子なのだ。Tシャツの絵柄も笑顔で描かれている。


 おんちゃんはうにやんのシャツを腰にあて袖を結びバスタオルのように巻いた。まぁ、おんちゃんのモノが露わになっていないだけましなのかなという考えがよぎった。


 ぼっさんの顔を見ると、首を振り俺は知らない、悪くないという仕草をする。その後、ぼっさんは「鈴知こもか可愛いね」とうにやんに声を掛けた。



 看板を後にして、シャヌラの町に入り道を歩くと、民家が見えてきた。さらに遠くを眺めると、ポツポツと建物の存在を視認できる。道も枝分かれされており、町の雰囲気が漂ってきた。


「チヴェカさんから町長さんの家を訪ねると良いと聞いたけど、肝心の家が分からないね」うにやんが見渡しながら口を開く。


「誰かに聞いてみようか」おんちゃんからの提案。


「そだね」


 先行き道の民家で植物に水を与えているおばさまを発見した。


「あの人に声かけてみよ」


 僕たちはズイズイとおばさんの方へにじり寄る。しかし、おばさんはこちらに気づき、急いで家の中へ入ってしまった。持っていたジョウロは放り出されている始末。悲しい。


「やはり、まだ警戒されるか」ぼっさんが察する。


「流石にモノだけ隠せても、まだまだ怪しいでしょ。それに……」うにやんの方をみる。


「こもか可愛いでしょ」再度Tシャツを伸ばして見せてくれるうにやん。


「うん。可愛い。可愛いけど、ここの人たちにどう見られているかが……っね」



 さらに、町の奥へ歩いていくが、すれ違う人たちには奇異な目で見られ、遠ざかられ、子供に笑われるというジャブを連打された。ストレートを喰らわずにノックダウンしそうです。


「とりあえず、誰でもいいから町長の家の場所を聞こうか」ぼっさんが声を掛けてくる。


「そうしよう」


 いつの間にか店が立ち並ぶ道に出ており、人もたくさんいる。みんなこっちを見ているけど。


 勇気を出して、野菜売りの前にいた男性にすみませんと声を掛ける。「え、私……」と、まるで罰ゲームに選ばれた人みたいな反応をされた。悲しみ。


「町長の家を探しているのですが、どちらにあるのでしょうか?」


「え、あ、」どもっている男性。


「町長の家なら、この商店街を抜けた先にある青色の家だよ」野菜売りの主人が男性に助け舟を出してくれた。


「ありがとうございます」と僕たちはお礼を言い、商店街を後にした。



 すでに陽が落ちてきており、空の水色が橙色に侵食されつつある。


「色々な建物があるね」うにやんがキョロキョロする。


「うん。最初は木造の家ばかりだったけど、この辺は石造りの家が多いね。いつの間にか道も石畳になってるし」僕は下を見る。


 民家の窓からは明かりが漏れ出し、道の街灯に火を付けている人も見受けられる。


 僕たちは愚直に直進して歩いているが、野菜売りの店主に教えてもらった青色の家を見つけられていない。そして、見つけられぬまま道が左右に別れた突き当たりにきてしまった。


「どうしましょ」ぼっさんを見る。


 肩をすくめるぼっさん。うにやんとおんちゃんは左右の道をそれぞれ見ている。


「すみません」


 歩いてきた道から声がした。このように後ろから声を掛けられる展開が前にもあった。


 僕は期待を込めて振り返る。


 そこに立っていたのはチヴェカさんではない別の女性だった。

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