第2話 はじまり-2
「おんちゃんだけ、転移された時、服を没収されたの? 前世悪いことした?」僕は疑問の乱れ打ちをした。
「元から裸だったからね。ちなみに前世のことは分からない」おんちゃんは冷静に対応してくる。おんちゃんは格ゲーでも冷静に反応してくることが多かった。余談です。
「元から!? 寝る時裸ってこと?」ぼっさんが突っ込んでくる。
「そうそう」
えっと皆驚く。
「まぁ裸で寝る人は少ないよね。でも地球上の生物を含めれば裸で寝ることが多数派になるわけよ。故に服を着て寝る人たちは普通ではないということだ」
「とどのつまり、その時の状態でこっちに転移させられたわけだ」おんちゃんの煽り?をスルーして、考えを言う僕。
「でも、ぼっさんの眼鏡は地面に落ちていたんだよね。寝るときは眼鏡を掛けてないでしょ?」うにやんのするどい指摘。
「そうだね。眼鏡は掛けてなかったね」とぼっさん。
「眼鏡は必需品だから、一緒に転移してきたんだろうね」と僕。
「つまり、私の服は必需品ではないと!?」おんちゃん。
「裸が多数派で。普通なんでしょ」とぼっさん。
「うん。それは寝る時のことを言った訳で、人前に出るときは下着くらい欲しいものだ」
現在の皆の衣服事情を説明すると、僕とぼっさんはTシャツにハーフパンツ。うにやんはTシャツの上にシャツ、そして細めのジーパンを履いている。絵を描くときはゆるい部屋着では無く、外出用の衣服をきた方が気持ちが引き締まるとのこと。そして、もちろんおんちゃんは裸だ。ちなみに皆、裸足である。
「靴欲しいね」裸足で思い出し、唐突に声に出す僕。
「この辺りの草で草履作れないかな」うにやんが下を見渡す。
「草履ってこういう草で作れるものなの?」ぼっさん。
「さぁ」っと皆分からない様子。
しばしの静寂。歩きながらの会話であり、少しずつ山が近づいているのは分かるが、民家や人の気配を感じない。
「まぁ。人が住んでいる場所を見つけたら靴は手に入るさ。この世界に人が居ないと分かったら、そのときは履物を作ろう」言い出しっぺの僕が話をまとめておく。
すると、おんちゃんが急に立ち止まった。
「どうしたの? 足痛くなった?」うにやんが声をかける。
「歩くから靴が必要だと思うんだ。つまり歩かなければいい。逆転の発想だ」誇らしげな声で叫ぶおんちゃん。
「食料や寝床の問題もあるから、先に進むよ」ぼっさんが優しい口調で、冷たくあしらう。「おんちゃんも裸のままでは嫌でしょ」
素直にまた歩き出すおんちゃん。
「そういえば、食料問題もあるのか」おんちゃんは少し落ち込んだのかと思ったが、食べ物のことを考えていたようだ。「さっき、山に行けば木の実ぐらいはあるだろうとは話していたけど、動物はいるのかな? お肉も食べたくなるでしょ絶対」
「動物はいると思うけどねー」っと根拠もない言葉を出しながら、上空を見上げる。
「…………」
「あっ!!」僕の叫び声のあと皆が同時に顔を上へ向ける。「鳥、とりっ!!」手をあげて指し示す。
ちょうど逆光で、シルエットがかろうじて把握できたが、すぐに遠くへ行き小さくなってしまった。だが確かに羽ばたいてはいた。
「肉はあるみたいだね」っとぼっさん。
「捕まえることができればだけど。あんな上空じゃ。しかも結構速かったね」うにやん。
「うん」
「…………」
「動物はいるという疑問が解消されたところで先に進みますか」
鳥が飛んで行った方向を見ながらも再び山の方角へ歩き出す。
皆、疲れてきたのか言葉少なめになってきた。そんな僕も少々喉に渇きを感じてきた。陽は出ているが、特段暑くはない。麦秋のような気候であり、普段であれば心地よさを感じることができるだろう。
ふと、前をずんずんと歩いているぼっさんの背中をみていると、見知った文字が書かれていた。
「そのTシャツ、水上よもぎの?」
「そうそう。ライブTシャツ」ぼっさんは振り返る。
水上よもぎとは女性声優である。アニメの仕事の他に作曲、ライブ活動を行っている。音楽ジャンルのことはよく分からないが、電子音を多用した中毒性のある作曲を行っており、彼女の音楽活動から水上よもぎを知ったという人がいるとのことで、知名度も徐々に上がってきている今後期待のお方なのだ。
「先月のライブ?」
「うん。よく知ってるね」
「たまたま公式ホームページ見てて知ったんだけどね」
「水上よもぎのライブ行ったの?」うにやんも入ってきた。「パラーラスのオープニング歌った?」
「歌ってくれたよ。アニメは見たことないけど、オープニング曲は良いよね。もうイントロが流れた瞬間鳥肌がたったね」
「いいなー」うにやんが羨ましそうにする。
「じゃあ、今度またライブがあったら皆で行こうよ」ぼっさん。
「行こう行こう」テンションが上がり、少し声が大きくなる僕。
「おんちゃんも行く?」ぼっさんがおんちゃんに聞く。
「私も行きたい」おんちゃん即答。
「よし、じゃあ皆でいこーーう」ぼっさんの声とともに、皆未来のライブ参加を想像し興奮し行こう行こうと声を出しながら笑いながら腕を上げる。
少し前までのだんまりとは逆の雰囲気になり、こっちに来てから初めて皆が一緒に笑顔になれた瞬間であった。
「すみません」
歩いてきた方角から突然声がして、一斉に皆の口が閉じられ反射的に体を向ける。
そこには一人の女性が立っていた。
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