ヲタク四人の異世界漫遊記
ニニヤマユポカ
第一章
第1話 はじまり
「シキさん……」
呼びかけられて目を覚ます。別に夢を見ていた訳ではない。網膜に投影されてきた対象は、うにやんだった。友人の。
「どうして、うにやんが……」
うにやんは促すように周りへと顔を向ける。僕も従い顔を向けると、草原が広がっていた。ベッドで寝ていたと思っていたが、草の上で寝そべっていたようだ。草だけでなく、木々もポツポツと見受けられる。さらに遠くへピントを合わせると山があり雲が浮かんでいることが確認できる。だが建物が見当たらない。人気を感じられない。過去を思い返しても、このような人工物が見当たらない草原に来たことが無いので現実味を感じない。しかし、草や土の感触、肺に空気が入ってくることは感じれた。
これはドッキリというものだろうかと勘ぐる。僕が寝ている間に誰かがここへ移動させたのかもしれない。だとしたら昨日寝る前に飲んだコーラに睡眠薬が入っていて熟睡させられ……。
「ここはどこなの?」うにやんがいたことを思い出し、考えを止め、質問する。
「ボクもわからない」うにやんが口を小さく開け答える。
「うにやんはどうやってここにきたの?」
「それも分からない。覚えていることは、絵を描いている時、急に光に包まれて、それで、眩しかったから目を閉じたんだよね。そして目を開けたらここにいたの」その時の状況を身振り手振りジェスチャーしながら答えるうにやん。
ちょっと面白かった。
「そしたら僕が草原で寝ていたってこと?」
「いや……。シキさんは数分後に急に現れたんだ」
「そうなの?」こわっ。
「そうなの。ここは何処だろうと考えていたら近くの草むらがぼんやりと光出して、そしたら」
「僕が寝ていた訳だ」
頷くうにやん。
急に人が現れる瞬間移動技術なんて創作の中でしか知らない。ということは……。
「これはあれだね。異世界転生ってやつじゃない?」
「最近流行りの?」うにやんは驚くこともなく反応する。
「そうそう」
「転生ってことは死んだってこと?」
「うーん。僕は寝ていただけだし、死んだっていう感じは無かったけど、死んだかもしれない。わからない」
「ボクも光に包まれただけで、死んだという感覚は無いんだけど」
「じゃあ。死んでない。転生ではなくて……なんていうんだっけ」
「召喚?」
「ああ、召喚。異世界召喚じゃない? まぁなんにせよ、日本、地球とは別の世界に来たかもしれないという認識でどうだろうか」
二人で状況把握?をしていたところ近くの草原が薄く光出した。「あっ」と二人して声を出す。
その刹那、一人の男性が急に現れた……。
「ぼっさんだ」僕は誰かに話し掛ける訳でもなく声を出す。
「うん」僕の声を拾って反応するうにやん。
ぼっさんは僕同様睡眠中で、すぐに声を掛けて起こし、僕たちの姿を見て驚き、立ち所に目を覚ます。僕は「かくかくしかじか」という便利な八文字を使用し、経緯を説明した。
「うーん。これは召喚じゃなくて、気づいたら異世界にいた系じゃないの?」ぼっさんが眼鏡を右手中指でクイっと上げながら、先ほどの会話のネタを広げてくる。ちなみに眼鏡はぼっさんが寝ていた傍に落ちていた。
「気づいたら異世界にいた系かぁ。そうだね。召喚だったら、誰か呼び寄せた人がいるもんね」僕は答える。
「転移だ。言葉が出てこなくて《気づいたら異世界にいた系》と呼んでしまったけど、転移がしっくりくる。異世界転移系で」とぼっさん。
「うん」と僕とうにやんは共感する。
しばしの静寂。
自分たちの身に起こった現象が言葉にでき、少し気持ち良さを感じた。二人もその快感の余韻を味わっているようだ。
「それで、どうしようか?」うにやんが口を開ける。
「とりあえず移動しようか」僕。
「どの方角へ行く?」ぼっさん。
三六〇度見渡しても同じ風景にしか見えない。と思ったが遠くに山が見える見えないの違いがあった。
「山が見える方へ言ってみる? 山のふもとに町とか村的なものがあるかもしれないよ」提案する僕。
「じゃあ、そうしようか。もし人が居なくても木の実とか食べられるものがあるかもしれないからね」ぼっさん。
こうして僕たちは山が見える方角へ歩き出した。草の高さは低く、歩き難い訳ではない。
「何の絵を描いてたの?」歩きながらぼっさんがうにやんに質問する。
「んっ」唐突な質問にうにやんは聞き取れなかったみたいだ。
「えーっと、うにやんはパソコンで絵を描いていたら、光に包まれて、ここに転移してきたんだよね。それで、その時何の絵を描いていたのかなーっと思って」
「……。パラーラスのヒロインを描いてたの」うにやんは少し沈黙してから答える。
うにやんは別に言うのが嫌だからといって答えるのを渋った訳ではなく、きっと思い出していたのであろう。定かでは無いが。ちなみに僕たちは高校時代の同級生であり、その時から一緒にゲームで遊び、アニメの話題もしていた。ゆえにうにやんが僕とぼっさんに何を描いていたのかなんて隠すこともないのだ。たぶん。
「パラーラスかぁー。俺は視てないなー。面白い?」
「面白いよ」うにやんが即答する。
僕も頷く。
「シキさんも視てるの?」ぼっさんが僕を見る。
「視てるよ。基本、僕はロボットアニメは視るからね」
「そういえば、そうだったね」
高校を卒業してから、それぞれ別々の大学に進学してしまったが、オンラインで一緒にゲームをしたり、SNSで繋がってはいる。しかし、実際に会うのは久しぶり、高校卒業以来なので、お互いに忘れていることや知らないこともある。
会話中歩いている方向にゆらりと光るのが見え、おんちゃんが現れる。このおんちゃんも高校時代の友達であり、基本この四人で遊んでいた。そして、今もオンラインゲームで遊んでいる。たまに。
おんちゃんは目を瞑り横になっていたが、異変に気づいてすぐに上体を起こした。
「おんちゃん、寝てたの?」僕は尋ねる。
「あぁ、今から寝ようとしたところ」意識がはっきりとした状態で回答をするおんちゃん。「ここなに? どこ?」おんちゃんが三人の顔を見て、周りの風景も見る。
僕たちは経緯を説明した。
「で、今パラーラスの話をしてたの」僕。
「あぁパラーラスね。私も見てるよ。出てくるロボットが五メートルサイズで愛嬌のある顔が良いよね」おんちゃんは一人称が私だが男である。一応説明。
「そうそう。そしてヒロインのマカナも可愛い」うにやん。
「だからマカナの絵を描いていたわけね」ぼっさん。
話が戻った。
「うん。で、描いてる途中、光に包まれたんだけど……。ボクは最初モニターが光りだしたと思ったんだよね。あ、これはマカナが画面の中から出てくるのかっと一瞬思ったんだけど。ボクの周りが発光していることに気づいて、目を瞑ったらここにいたんだよね」
「話を聞いていて思ったんだけど、ここはデジタルの中ってことはないのかな?」おんちゃんが疑問のタネを蒔く。
「うーん。どうだろ。そういうパターンもあるよね。気づいた先の異世界がオンラインゲームの世界でしたとか、AIが作り出した世界でしたとか」返答する僕。
「うにやんはPCの操作をしていたから、その可能性はありそうだけど、うにやん以外は寝ている、もしくは寝ようとしている最中で、PCやスマホなどをいじっていた訳ではないから、デジタルな世界っていうのも少し考えにくい気がする」とぼっさん。
うーーんと唸る皆。
「まぁ考えてもわからないことだから、とりあえず歩こう。先に行けば、この世界のことが分かるよ」と僕。
そして、再び山が見える方角へ歩き出す我々。
「ところで」しばらくして僕はある疑問を切り出す。
「ん?」と反応する面々。
「なんでおんちゃんは裸なの?」
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